経済分析第167号
SNA家計勘定の分布統計
-国民経済計算ベースの所得・資産分布-

2003年3月
  • 浜田 浩児(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

(要旨)

1.背景

家計の所得分布等の分析に関し、国民経済計算(SNA)ベースの所得分布等の統計を開発することには重要な意義がある。第1に、所得分布等の分析は、どのような所得等の概念に基づくかが重要であるが、SNAは、所得等について客観的、体系的な概念定義を与えるものである。第2に、SNAでは、賃金、財産所得等の各所得要素や消費、貯蓄、資産・負債等を家計勘定の中に体系的に位置付け、結びつけて分析できるため、家計の所得階層、職業等の別に家計勘定を作成すれば、所得分布等の分析を体系的に行うことができる。第3に、SNAの家計部門の計数は、企業、政府等の計数、ひいては国全体の計数と整合的なものであるため、全世帯合計がSNAの家計部門の計数に見合うような所得分布等の統計を開発すれば、所得分布等の分析をマクロ経済と整合的に行うことができる。

以上のように、集計値がSNAの家計勘定に見合う所得支出、資産・負債等の分布統計(家計の所得階層別、職業別等の統計)を作成することは、重要な課題である。また、国民経済計算の国際基準である93SNA自体も、家計勘定の分布統計が必要であるとし、所得形態(雇主、自営業者、雇用者等)、世帯主の従事産業、家計の所得規模、構成員数等による内訳部門分割を提示している。

2.推計範囲及び推計手法

分布統計は、国民経済計算の新しい国際基準である93SNAに基づき、1994年、1999年の家計勘定(所得支出勘定、貸借対照表勘定)について、世帯の所得・資産、世帯主の職業、産業、勤め先企業規模、年齢、世帯人員、有業人員、住宅の所有の別に推計した。持ち家の帰属家賃、雇主の強制的現実社会負担(社会保険料)等の帰属計算項目(金銭的な受払は行われないがそれと同様の実態があるため、金銭的な受払が行われたとみなして擬制的な取引計上を行う項目)も、できる限り含めて推計した。

推計手法は、総務省「全国消費実態調査」の個票を主な基礎統計とし、他の統計やSNAの家計部門の計数も利用した加工推計によった。

3.推計結果の主要なポイント

  • 1.分布統計の集計値とSNAとの開差率は、所得で約2%以下、最終的なバランス項目で開差がしわ寄せされる貯蓄で2%台と小さく、内訳項目でもおおむね10%程度以下である。このように、分布統計の推計結果は、集計値がSNAに近いものとなっている。
  • 2.推計結果に基づき、世帯人員等の相違が世帯員の生活水準に及ぼす影響に配慮した個人単位及びそのような影響を考慮しない世帯単位について、所得・資産分布を見ると、
    • (1) 1999年は主に賃金・俸給の格差拡大から、個人単位の等価第1次所得(所得再分配前の所得)、世帯単位の第1次所得とも、ローレンツ曲線が1994年を下回り、格差が拡大した。これに対し、可処分所得(所得再分配後の所得)の格差は、個人単位、世帯単位とも、それほど拡大していない。これは、現金による社会保障給付(公的年金等)と強制的現実社会負担(社会保険料)が、ウェイト(所得に対する構成比)の上昇等により所得再分配効果を高めたためである。
       また、等価第1次所得のローレンツ曲線は第1次所得のローレンツ曲線を上回っており、個人単位のほうが世帯単位より格差が小さい。
      第1次所得のローレンツ曲線
    • (2) 正味資産(純資産)の格差は、個人単位、世帯単位ともわずかに縮小した。これについては、有形非生産資産(土地)がウェイト(正味資産に対する構成比)の低下等により正味資産格差の縮小に寄与したのに対し、預金を中心とした金融資産が主にウェイトの上昇により正味資産格差の拡大に働いている。

4.結び

以上のように、93SNAに基づく家計勘定について所得支出、資産・負債等の分布統計を推計し、集計値が国民経済計算に近い推計結果が得られた。しかし、これは分布統計作成の端緒であり、今後の統計整備に向けて次のような課題がある。

  1. 遡及推計(93SNAに基づく国民経済計算の遡及推計作業に対応)
  2. 推計の年次化(5年ごとの「全国消費実態調査」の調査年以外について補間、補外)
  3. 家計勘定の残る部分の推計(資本調達勘定、調整勘定)

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全文の構成(PDF形式、 全3ファイル)

  1. 1ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 172 KB)
  2. 5ページ
    はじめに
  3. 9ページ
    第1章 分布統計の推計範囲-国民経済計算(SNA)との概念比較-
    1. 9ページ
      1. 所得支出勘定
      1. 9ページ
        (1) 第1次所得の配分勘定
      2. 12ページ
        (2) 所得の第2次分配勘定
      3. 16ページ
        (3) 現物所得の再分配勘定
      4. 17ページ
        (4) 所得の使用勘定
    2. 20ページ
      2. 貸借対照表勘定
  4. 26ページ
    第2章 分布統計の推計方法
    1. 26ページ
      1. 所得支出勘定
      1. 27ページ
        (1) 第1次所得の配分勘定
      2. 31ページ
        (2) 所得の第2次分配勘定
      3. 36ページ
        (3) 現物所得の再分配勘定
      4. 38ページ
        (4) 所得の使用勘定
    2. 41ページ
      2. 貸借対照表勘定
  5. 50ページ
    1. 50ページ
      1. 推計結果のSNAとの比較
      1. 50ページ
        (1) SNAの概念調整
      2. 52ページ
        (2) 分布統計集計値のSNAとの比較
    2. 58ページ
      2. 世帯属性別分布統計
      1. 58ページ
        (1) 所得・資産10分位階層別
      2. 64ページ
        (2) 世帯主の職業別
      3. 68ページ
        (3) 世帯主の産業別
      4. 72ページ
        (4) 世帯主の勤め先企業規模別
      5. 77ページ
        (5) 世帯主の年齢階層別
      6. 81ページ
        (6) 世帯人員別
      7. 86ページ
        (7) 有業人員別
      8. 91ページ
        (8) 住宅の所有関係別
  6. 96ページ
    1. 97ページ
      1. 等価尺度
    2. 98ページ
      2. 所得・資産格差の状況と要因
      1. 99ページ
        (1) 使用する分布尺度
      2. 100ページ
        (2) 個人単位の格差
      3. 107ページ
        (3) 世帯単位との比較
      4. 110ページ
        (4) 先行研究との比較
    3. 111ページ
      3. 構成集団間格差の状況と要因
      1. 111ページ
        (1) 使用する分布尺度
      2. 112ページ
        (2) 個人単位の格差
      3. 121ページ
        (3) 世帯単位との比較
      4. 129ページ
        (4) 高齢化と所得格差
  7. 141ページ
    結論と課題
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
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