経済分析第179号
経済分析第179号(ジャーナル版)

平成19年8月
(論文)
外資系事業所の退出と雇用成長―『事業所・企業統計調査』に基づく実証分析―
権 赫旭(日本大学経済学部専任講師)
伊藤 恵子(専修大学経済学部准教授)
深尾 京司(一橋大学経済研究所教授)
日本企業の業務・組織・人材改革と情報化の効果に関する実証研究 ―全国3141社のアンケート結果に基づくロジット・モデル分析―
篠崎 彰彦(九州大学大学院経済学研究院教授)
短期日本経済マクロ計量モデルへの連鎖方式の導入について
村田 啓子(内閣府日本学術会議事務局参事官)
岩本 光一郎(内閣府経済社会総合研究所部外研究協力者、早稲田大学現代政治経済研究所)
増淵 勝彦(総務省公害等調査委員会事務局審査官、前内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
(研究ノート)
GDPの国際原油価格弾力性についての一考察
前田 章(京都大学大学院エネルギー科学研究科准教授、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)
(資料)
幸福度研究の現状と課題―少子化との関連において
白石 賢(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
白石 小百合(横浜市立大学国際総合科学部教授)

(要旨)

(論文)

外資系事業所の退出と雇用成長―『事業所・企業統計調査』に基づく実証分析―

本稿では、『事業所・企業統計調査』の事業所レベル・データを用いて、近年の外資系事業所のプレゼンスを詳細な業種別に集計し、事業所の退出と雇用成長率の決定要因を統計的に検証した。1996年と2001年時点を比較すると、国内全事業所の従業者数総計は、この間に262万人減少したのに対し、外資系事業所(単独50%以上を出資している親会社が海外にある企業の事業所と定義した場合)の従業者数総計は19万人増加した。そして、その増加分の大部分はサービス業における増加であった。また、外資系事業所は退出率も新規参入率も高く、事業所の新陳代謝がより活発な様子が見られた。

さらに、事業所の退出と雇用成長率の決定要因を回帰分析によって検証したところ、事業所の規模や年齢、産業特性をコントロールしても外資系事業所は有意に退出確率が高いとの結果を得た。しかし、退出せずに存続した事業所の雇用成長率の分析では、事業所規模や年齢、産業特性をコントロールすると、外資系事業所のほうが雇用成長率が有意に高かった。


日本企業の業務・組織・人材改革と情報化の効果に関する実証研究 ―全国3141社のアンケート結果に基づくロジット・モデル分析―

本研究は、全国9500社を対象に実施された平成15年度情報処理実態調査をもとに、どのような企業改革が具体的な情報化の効果に結びついているかを実証分析したものである。

共通に回答が得られた3141社のデータをもとに、業務・組織体制面と人材面の企業改革が情報化の効果にどう関係しているかをロジット・モデルで分析した結果、次の3点が明らかとなった。第一に、業務・織体制面の社内見直しでは、内容によって集中化が効果的な場合と分散化が効果的な場合に分かれること、また、社内事務のペーパーレス化や重複業務見直しが効果をもたらしている一方で、組織上層部の権限や職務見直しは充分な効果が確認されないこと、第二に、社外と関連した業務や組織体制の見直しでは、商取引のペーパーレス化など一部の取組みで効果が確認されるものの、企業分割(取引の外部化)を伴うような事業の見直しや取引の打切りを伴うような企業間関係の見直しなど、ドラスティックな改革では情報化の効果との関係性があまり確認できないこと、第三に、人材面の対応では、社内研修、社外自己啓発の奨励など既存の従業員の教育やこれまでも取り組まれてきたアウトソーシングなどでは情報化の効果が確認できるが、中途採用や派遣社員など外部から組織内への人材移動は必ずしも効果に結びついていないことである。

これらを総合すると、情報化に際して、日本企業では、業務・組織面でも人材面でも、既存の仕組みの「恒常性」に大きな変化を及ぼすような企業改革の取組みは、必ずしも充分な効果に結びついておらず、情報化のメリットを充分に享受できない要因に「日本型」と形容される企業システムの特質が影響していることを示唆している。


短期日本経済マクロ計量モデルへの連鎖方式の導入について

2004年度よりSNAの実質化手法が固定基準から連鎖方式に移行したことを受けて、2005年版の内閣府経済社会総合研究所「短期日本経済マクロ計量モデル」では連鎖対応を目的とした改訂が行なわれた。本稿では、筆者達の知る限りまだ日本では試みられていない、日本経済マクロモデルへの連鎖方式導入の具体例を提示するとともに、連鎖方式導入の結果として生じる「実質系列の加法整合性の不成立」に対応するためにモデル体系の変更を行った場合、予想されるシミュレーション結果への影響について考察し、実際にモデルによるシミュレーション結果で検証を行った。

検証によれば、我々のモデルにおける基準方式の変更による影響は、為替レートシミュレーション3年目等については若干の差が見受けられるものの、3年間のシミュレーション期間を通じて全体としては大きなものではなかった。為替レートシミュレーション3年目等には若干の差が見られるが、これはシミュレーション内容から、デフレータの計算に使用するウェイトが他のシミュレーションより大きく変動することと、我々のモデルにおいては最も長期間のシミュレーションになることが主要因と考えられる。これらの検証・考察から我々は、1年(4四半期)程度の短期シミュレーションでは連鎖化の影響は限定的であると結論した。但し、長期間に及ぶシミュレーションの場合や、デフレータ計算時に使用するウェイトおよびコンポーネントデフレータが相対的に大きく変動するシミュレーションの場合はこの限りではなく、連鎖化の意義は高まるとみられる。


(研究ノート)

GDPの国際原油価格弾力性についての一考察

本研究では国際原油価格に対する実質国内総生産(GDP)の価格弾力性について考察する。静学的な枠組みで、国際原油価格の変化に伴う実質GDPの変化(価格弾力性)は、現行原油価格水準、GDP、原油の輸出入量を用いて概算できることが示される。この計算式は既存の石油価格上昇のインパクトを測る指標と整合的である。簡略式であるゆえその適用範囲が限定されていることは否めないが、大規模コンピュータシミュレーションより前提・背景がわかりやすく、政策形成の場に有用な情報を提供することができる。これらに基づいて国別・年代別に弾力性を算定してみると、先進各国では80年代半ばを境に原油高騰の影響を受けにくい経済構造に変化しており、それ以降安定してその状態を保っていることがわかる。


(資料)

幸福度研究の現状と課題―少子化との関連において

本稿は、少子化の進展という観点から、子どもを持つことにおける幸福とは何かに関する研究を始めるにあたり、「幸福」とは何かについての疑問に答えるべく、幸福感についての概念整理、及び、幸福感に影響を与える要因に関する先行研究のサーベイを行った。幸福感に影響を与える要因についての研究結果で、主に少子化に関連するものを挙げると、(1)個人の幸福度は所得の増加と共に上昇するが、一定以上を超えると飽和点が観察される。それは、人々が相対所得を参照しているためである(hedonic tread mill 効果)。(2)加齢と共に幸福度はU字状を描く。(3)失業は幸福度を低下させる。一方で、仕事のストレスが高いと幸福度は低下する。(4)既婚者の幸福度は高いが、近年、未婚者との格差に縮小傾向がみられる。(5)子どもの誕生と子育てに伴い特に母親に負担がかかることから、結婚の幸福度は低下する。(6)ただし、親は子育てを通じて子どもからpositiveな影響を受け、更に離婚を防止するという効果もある。(7)子どもの数が増えるに従い、フルタイムの雇用の場合の結婚の幸福度は低下する、といったことである。


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

「外資系事業所の退出と雇用成長―『事業所・企業統計調査』に基づく実証分析―」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,085 KB)

権 赫旭、伊藤 恵子、深尾 京司

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 4ページ
    2.日本における外資系事業所のプレゼンス
  3. 19ページ
    3.事業所の退出と雇用成長率に関する実証分析
  4. 28ページ
    4.おわりに
  5. 30ページ
    参考文献

「日本企業の業務・組織・人材改革と情報化の効果に関する実証研究
―全国3141社のアンケート結果に基づくロジット・モデル分析―」別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 879 KB)

篠崎 彰彦

  1. 38ページ
    〔要旨〕
  2. 40ページ
    1.はじめに:本研究の目的
  3. 42ページ
    2.分析の方法とデータ処理
  4. 45ページ
    3.ロジット・モデル分析の結果
  5. 52ページ
    4.おわりに:まとめと課題
  6. 53ページ
    参考文献

「短期日本経済マクロ計量モデルへの連鎖方式の導入について」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,115 KB)

村田 啓子、岩本 光一郎、増淵 勝彦

  1. 57ページ
    はじめに
  2. 57ページ
    1.先行研究
  3. 58ページ
    2.連鎖方式の特徴とマクロ計量モデル
  4. 60ページ
    3.連鎖方式を用いたモデルの再構築
  5. 63ページ
    4.連鎖方式移行の影響
  6. 67ページ
    5.おわりに:結論と残された課題
  7. 70ページ
    参考文献

(研究ノート)

「GDPの国際原油価格弾力性についての一考察」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 883 KB)

前田 章

  1. 74ページ
    1.はじめに
  2. 75ページ
    2.原油輸出入のある静学的一般均衡体系
  3. 79ページ
    3.一部門モデルでの考え方
  4. 82ページ
    4.解析解の例
  5. 86ページ
    5.石油価格上昇のインパクトを表す指標
  6. 88ページ
    6.理論式の利用
  7. 91ページ
    7.おわりに
  8. 91ページ
    参考文献

(資料)

「幸福度研究の現状と課題―少子化との関連において」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 925 KB)

白石 賢、白石 小百合

  1. 98ページ
    1.はじめに
  2. 99ページ
    2.「幸福感」の概念整理とデータ
  3. 107ページ
    3.幸福感の決定要因
  4. 119ページ
    4.先行研究による要因分解
  5. 119ページ
    5.おわりに
  6. 120ページ
    参考文献
  7. 132ページ
    経済社会総合研究所の概要と実績
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