経済分析第180号
経済分析180号 (ジャーナル版)

平成20年3月
(論文)
地域経済・産業の成長に対する産業集積効果の実証分析-1981-2002年における製造業と非製造業の比較-
大塚 章弘((財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員)
市場競争と企業の生産性に関する定量的分析
船越 誠(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
元橋 一之(東京大学大学院工学系研究科教授)
メインバンクはリストラを促進するのか
野田 知彦(大阪府立大学経済学部教授)
(研究ノート)
日本におけるpatent stockとcitation stockの作成-HJTモデルの日本への応用-
山田 節夫(専修大学経済学部教授)
(調査)
地方債と地域金融機関-金融機関アンケート調査結果を踏まえた地方債制度の今後のあり方-
土居 丈朗(慶應義塾大学経済学部准教授)
林 伴子(内閣府政策統括官(経済財政運営担当)参事官(国際経済担当))
鈴木 伸幸(野村総合研究所社会産業コンサルティング部上級コンサルタント)
(資料)
短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)の構造と乗数分析
増淵 勝彦(総務省公害等調査委員会事務局審査官、前・内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
飯島 亜希(内閣府政策統括官(共生社会担当)付参事官(総括)付、前・内閣府経済社会総合研究所研究官)
梅井 寿乃(内閣府経済社会総合研究所研究官)
岩本 光一郎(内閣府経済社会総合研究所部外研究協力者、早稲田大学現代政治経済研究所)

(要旨)

(論文)

地域経済・産業の成長に対する産業集積効果の実証分析-1981-2002年における製造業と非製造業の比較-

本稿では地域経済・産業の成長に果たす産業集積の役割を明らかにすることを目的として、1980年代と1990年代を中心に、47都道府県の製造業と非製造業という産業区分のもと、1)産業集積がどの程度地域経済・産業の成長に貢献したのか、2)産業集積が地域産業の生産性を向上させることで、結果として労働生産性の地域間格差収束に寄与したかどうかの2点を分析し、次の結果を得た。

まず、製造業では産業集積効果である規模の経済性が観察され、その成長寄与度は製造業が集中立地する中部、東北、北関東の各県において相対的に大であることが明らかとなった。一方、非製造業では規模の経済性の影響が埼玉、千葉、東京、神奈川といった首都圏地域で大であることも明らかとなった。さらに、地域間スピルオーバーの影響は、製造業と非製造業のどちらの産業においても規模の経済性の影響を超過しており、それが両産業の生産活動において重要な役割を果たしたことを示す結果が得られた。

次に、地域間の生産性格差収束に対する産業集積の影響を検証した結果、製造業では地方への資本移転と工場誘致による生産基盤の強化により、規模の経済性が生産性格差を収束させる方向で作用する一方、非製造業では規模の経済性が生産性格差を拡大させる方向に働いたことを示す結果が得られた。これらの結果は、製造業では各地域において優位な分野に生産集中させることが地域間の生産性格差収束につながる一方、非製造業では首都圏への経済活動の一極集中が、産業集積の影響等を通じて地域間の生産性格差を拡大させる可能性を持つことを示唆している。


市場競争と企業の生産性に関する定量的分析

市場競争が促進されると企業はコストダウンやイノベーションなどにより生き残りに努力するため、結果として企業の生産性は向上することになるという考え方は、古くは社会主義経済の国々の崩壊や、規制緩和による経済成長を説明する根拠として引き合いに出されてきた。また、理論的にも実証的にも多くの研究結果に支持されていることから、この分野を研究する多くの経済学者の間で常識的な考え方となっている。しかしながら、経済成長の源泉であるイノベーションの活性化のために、その結果としての独占的利益を必要とするシュンペーター仮説では、反競争的な独占又は寡占市場による利潤からイノベーションが活性化されることにより、企業の生産性も向上するという前述の一般的な考え方とは逆の効果を示唆している。そして、この分野における実証分析の先行研究には、市場競争がイノベーションや生産性を向上させるという結果を示すいくつかの論文があるが、確固とした理論的な基礎や十分な実証的な証拠により確立されたものとは言えない。

本稿では、産業横断的に詳細な市場分類によるマーケットシェアのデータが捉えられる公正取引委員会の生産・出荷集中度調査を用いて市場競争指標を算出している。企業の生産性については、非上場の中小企業など広範囲の企業についての各種財務データなどが入手可能な、経済産業省の企業活動基本調査から全要素生産性を算出している。これらの指標をコブ・ダグラス型生産関数に適用し、競争的な市場が企業の生産性に与える影響について実証分析を行い、市場競争により企業の生産性が向上する結果が得られている。このような実証研究の蓄積では日本は欧米に比べて非常に遅れており、本研究は日本の競争政策を行うための基礎的な蓄積として貢献するものと考えられる。


メインバンクはリストラを促進するのか

本稿では、バブル経済崩壊後の1991-1998年度の製造業と非製造業の企業についてのパネルデータを使用して、メインバンク制の雇用調整に及ぼす影響を検討した。メインバンクと企業との長期的・安定的な関係を考慮した上でメインバンク効果を推定したところ、製造業の内部昇進企業でメインバンクが雇用調整を遅らせる効果が見られ、非製造業では両企業で遅らせていることがわかった。

融資、役員データによる分析を行い、総合的に判断すれば、製造業の場合、メインバンク変数が雇用調整を遅らせているのは、内部昇進企業においてであり、オーナー企業ではメインバンク変数が調整速度を速めていた。製造業の内部昇進企業の場合には、メインバンクは通常の場合は雇用調整を遅らせるが、経営状態の悪化とともに調整速度を速めるという関係がみられ、「状態依存ガバナンス」が機能しているようである。本稿の製造業についての結果は、経営者の属性とそこから発生する従業員の交渉力、交渉費用の違いがメインバンクの救済機能を通して雇用の調整速度に影響を与えていることを示唆している。

また、非製造業の企業については、内部、オーナー両企業ともにメインバンク変数は調整速度を引き下げており、経営状態が悪化してもリストラを促進してはいない。この結果は、非製造業の企業において、メインバンクと「追い貸し」との間に、何らかの強い関連性があることを示唆するものである。


(研究ノート)

日本におけるpatent stockとcitation stockの作成-HJTモデルの日本への応用-

本稿の目的は、1986年1月1日~2005年12月31日に日本の特許庁に登録されたすべてのパテント(2095007件)に関する数値情報を加工して、暦年ベースの日本のパテント・ストック(patent stock)、および被引用数で加重されたパテント・ストック(citation stock)を作成することにある。作成方法は、Hall、Jaffe and Trajtenberg(2000,2001)に依拠した(以下ではHJTモデルと呼ぶ)。筆者の知る限り、日本では登録パテントに付随する切断バイアス(truncation bias)を適切に処理したpatent stockやcitation stockは作成されていない。それは、米国のNBER Patent Citation Data Fileのようなpatent stockやcitation stockを作成する際に必要となる出願日、登録日、被引用数などの数値情報を収録したデータ・ベースが存在しなかったからである。ところが、SBIインテクストラ株式会社は、整理標準化データから数値情報を検索し、「StraVision」と呼ばれるデータ・ベースを2005年6月に公表した。StraVisionにより、日本でもpatent stockやcitation stockの作成が可能になった。ただし、日米の特許制度の違いやデータ・ベースの制約から、HJTモデルとまったく同じようにpatent stockやcitation stockを作成することはできなかった。そこで、本稿では日本の実状を考慮してこれらのストックデータを作成した。また、本稿で作成したpatent stockとcitation stockを用いて簡単なコブ・ダグラス生産関数の推計を試みた。推計の結果、patent stockもcitation stockもコブ・ダグラス型の生産関数によく適合した


(調査)

地方債と地域金融機関 -金融機関アンケート調査結果を踏まえた地方債制度の今後のあり方-

地方の借入金残高は1990年代以降急増し、現在、約200兆円と長期政府債務全体の約3割に達している。他方、近年、財投の抜本改革により政府資金による地方債引受けが急速に減少し、また、平成18年度から地方債許可制度から起債協議制に移行することが予定されている。

地方債制度をとりまくこうした変化を念頭に置きながら、本研究では、金融機関を対象にアンケート調査を行い、地方債引受動向や地方債制度のあり方についての金融機関の意識を把握し、今後の地方財政改革のあり方や地方債制度における規律のあり方を検討した。調査の結果、多くの金融機関が、地方債が増加する現状や現行の地方債制度の存続可能性に関して危機感をもっていることが明らかとなった。しかしながら、こうした危機感がありながらも、地方債の民間資金による引受額は高水準で推移しており、地方債に関する債権者(市場)のガバナンスの機能が不十分にしか作用していない可能性が示された。この背景として、地方交付税による地方債元利償還金の財源保障など、いわゆる政府による「暗黙の保証」が地方財政規律をゆがめる要因となっている可能性が高いことも示唆された。


(資料)

短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)の構造と乗数分析

内閣府・経済社会総合研究所は、随時の改訂が可能で、公開性及び機動性の高いコンパクトな「短期日本経済マクロ計量モデル」を開発し、1998年に公表した。本モデルはその後、ほぼ毎年改訂を重ねている。本稿は、2006年3月初旬迄に取得可能であったデータに基づいて更に改訂を行った2006年12月段階におけるモデルの状況を紹介するものである。

前回の2005年版モデルでは、2004年12月公表の国民経済計算(SNA)確報においてGDPの支出系列が連鎖方式に移行したことに伴い、GDPコンポーネントのレベルで連鎖方式を導入した。今回は、前回に連鎖方式の適用が見送られていた輸入に関して、SNA速報(QE)の手法に基づいて構成項目に細分化し、その上で項目毎の物価指数をGDPと同様に連鎖統合することによりデフレータを算出した。これにより、GDPの支出項目のすべてが連鎖方式対応を完了した。今回の推定結果では、推定期間を1990年以降のみとしたこと、SNAの基準改定が行われたこと等を反映し、(1) 設備投資関数の資本コスト弾性値が上昇した(2) マクロ生産関数における資本と労働の代替の弾力性が1を有意に下回った(3) GDPデフレータのGDPギャップの変化に対する反応が大きくなった、等いくつか特徴的な変化がみられた。


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

「地域経済・産業の成長に対する産業集積効果の実証分析 -1981-2002年における製造業と非製造業の比較-」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,525 KB)

大塚 章弘

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 4ページ
    2.わが国の先行研究
  3. 5ページ
    3.分析のためのフレームワーク
  4. 7ページ
    4.実証分析
  5. 13ページ
    5.おわりに
  6. 15ページ
    付録A データの作成方法
  7. 16ページ
    付録B 収束係数の要因分解法
  8. 17ページ
    参考文献

「市場競争と企業の生産性に関する定量的分析」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 893 KB)

船越 誠、元橋 一之

  1. 22ページ
    1.はじめに
  2. 22ページ
    2.先行研究のサーベイ
  3. 24ページ
    3.実証分析
  4. 32ページ
    4.結論と今後の課題
  5. 34ページ
    参考文献

「メインバンクはリストラを促進するのか」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 856 KB)

野田 知彦

  1. 38ページ
    1.はじめに
  2. 40ページ
    2.メインバンクと雇用システム、雇用調整および作業仮説
  3. 45ページ
    3.モデルおよびデータ
  4. 49ページ
    4.推定結果
  5. 55ページ
    5.議論
  6. 59ページ
    6.結びにかえて
  7. 60ページ
    参考文献

(研究ノート)

「日本におけるpatent stockとcitation stockの作成 -HJTモデルの日本への応用-」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 873 KB)

山田 節夫

  1. 65ページ
    1.はじめに
  2. 66ページ
    2.切断問題
  3. 70ページ
    3.本稿の登録パテントに関する修正法
  4. 73ページ
    4.被引用数で加重されたパテント・ストック(citation stock)
  5. 76ページ
    5.簡単な推計例
  6. 78ページ
    6.おわりに
  7. 79ページ
    補論.特許データ・ベースの比較
  8. 80ページ
    参考文献

(調査)

「地方債と地域金融機関 -金融機関アンケート調査結果を踏まえた地方債制度の今後のあり方-」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,863 KB)

土居 丈朗、林 伴子、鈴木 伸幸

  1. 84ページ
    1.はじめに - 今なぜ地方債か
  2. 87ページ
    2.我が国の地方債市場の動向
  3. 125ページ
    3.我が国の地方債制度の課題
  4. 139ページ
    4.日本の地方債制度の課題と方向
  5. 144ページ
    参考文献

(資料)

「短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)の構造と乗数分析」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,275 KB)

増淵 勝彦、飯島 亜紀、梅井 寿乃、岩本 光一郎

  1. 147ページ
    第1章 『短期日本経済マクロ計量モデル』の基本構造
  2. 155ページ
    第2章 モデルの動学的パフォーマンス
  3. 167ページ
    第3章 残された課題
  4. 168ページ
    補論1 輸入サブブロックのデータ解説
  5. 172ページ
    補論2 輸入の定式化の相違が政策乗数に与える影響
  6. 179ページ
    補論3 ゼロ金利政策解除の影響試算-Counter-factual Simulation
  7. 181ページ
    参考・参照文献
  1. 183ページ
    経済社会総合研究所の概要と実績
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