経済分析第182号
経済分析182号(ジャーナル版)

平成21年7月
(論文)
日本企業の海外子会社からの利益送金
―本社の配当政策からみた分析―
田近 栄治(一橋大学経済学研究科教授及び国際・公共政策大学院教授)
布袋正樹(一橋大学大学院経済学研究科博士課程)
わが国家計の消費税負担の実態について
八塩 裕之(京都産業大学経済学部准教授)
長谷川 裕一(西日本旅客鉄道株式会社)
教育の生産関数の推計 ―中高一貫校の場合
小塩 隆士(一橋大学経済研究所教授)
佐野 晋平(神戸大学経済学研究科講師)
末富 芳(福岡教育大学教育学部准教授)
日本企業における資金調達行動
坂井 功治(一橋大学経済研究所専任講師)
内航貨物輸送における参入規制の影響分析
細江 宣裕(政策研究大学院大学准教授)
(研究ノート)
利子所得・配当所得・株式等の譲渡所得の実効税率の計測
関田 静香(日本学術振興会特別研究員PD)
(調査)
「ワーク・ライフ・バランスと生産性に関する調査」の概要
山田 亮(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
吉田 美幸(内閣府経済社会総合研究所研究官)
経済社会総合研究所の概要と実績

(要旨)

(論文)

日本企業の海外子会社からの利益送金 ―本社の配当政策からみた分析―

田近 栄治(一橋大学経済学研究科教授及び国際・公共政策大学院教授)

布袋 正樹(一橋大学大学院経済学研究科博士課程)

日本の法人税は、全世界所得課税方式を原則として、海外の子会社からの受取配当に対して課税を行っている。一方、日本の法人税率は、国際的にみて非常に高いことが知られている。こうした状況のもとでは、日本の本社にとって、海外子会社に利益送金を求めるよりも、現地に利益を留保させる方が、税制上有利のはずである。しかし、実際には、本社に配当を送金する海外子会社が存在している。こうした現象は「配当パズル」と呼ばれており、このパズルを説明するためこれまで多くの研究が行われてきた。本稿では、海外子会社の配当パズルの説明として、本社の配当政策の影響に注目する。日本では、制度上、単独ベースの配当可能利益を上限として配当を支払うことが求められており、安定配当を目標とする日本企業は、配当原資が不足するとき、子会社・関連会社から資金移転を求めることが指摘されている。近年、海外子会社が多くの利益をあげていることを考慮すると、日本の本社は配当原資が不足するとき、海外子会社から利益送金を求めることが予想される。本稿では、海外子会社の財務情報に本社の財務情報を結合したデータベースを用いて、この仮説を検証し、以下のような結果を得た。第1に、必要とされる配当の原資となる本社の利益が不足するとき、本社は、海外子会社からの配当送金を増加させること。第2に、この結果は、本社の海外子会社への出資比率に影響を受け、本社の出資比率100%の海外子会社の場合は、そうでない場合より、より敏感に配当送金を変化させる。以上の結果は、本社の配当政策が海外子会社からの利益送金に重要な影響を及ぼすことを示しており、上記の仮説を支持することが示された。


わが国家計の消費税負担の実態について

八塩 裕之(京都産業大学経済学部准教授)

長谷川 裕一(西日本旅客鉄道株式会社)

日本ではこれまで、多くの先行研究によって家計の消費税負担に関する分析がなされてきた。それらの多くは、消費税の「所得に対する負担の逆進性」を、食料品等への軽減税率を用いて緩和すべきかどうかに焦点をあてて分析を行ってきた。しかし、イギリスの税制改革の方向性を包括的に検討したMirrlees ReviewのなかでCrawford et al.(2008)が述べたように、こうした議論の方向性に対しては、経済学の理論的観点から次のような根強い批判がある。すなわち第1に消費税はもともと所得に対する逆進税ではなく比例税であること、第2に真に困窮する世帯への税負担軽減としては、軽減税率ではなく手当や所得税の税額控除による還付といった直接的な手段がより効果的であることである。

本稿ではこうした議論の流れを踏まえて、改めて家計の消費税負担の実態について分析を行う。モデルは家計の所得税・住民税や社会保険料負担を分析した田近・八塩(2007)のマイクロ・シミュレーションモデルを、消費税負担を含めたモデルに拡張したものを用いる。最初に家計の消費税負担の実態について分析を行った後、消費税率引き上げが税負担にもたらす効果について考察する。そして、低所得者の負担軽減手段として、食料品への軽減税率ではなく、所得税における税額控除の還付のほうがより効果的と考えられることを具体的に示す。


教育の生産関数の推計 ―中高一貫校の場合

小塩 隆士(一橋大学経済研究所教授)

佐野 晋平(神戸大学経済学研究科講師)

末富 芳 (福岡教育大学教育学部准教授)

本稿では、教育の生産関数を、首都圏・近畿圏における主要な中高一貫校を分析対象として推計した。実証分析の結果明らかになった事実は、次の3点である。

第1に、中学・高校教育の重要な教育成果としばしば受け止められる大学合格実績は、首都圏・近畿圏いずれの中高一貫校においても、その学校に入学する生徒たちの平均的な学力(偏差値)によってかなりの程度決定される。

第2に、その学校に入学する生徒の平均的な学力や、学校そのものの属性などをコントロールすると、学校の取り組みの中で大学合格実績を統計的に明確な形で向上できるのは、総授業時間の引き上げだけである。教員/生徒比率やクラス当たり生徒数といった教育の質、あるいは様々な教育の工夫の効果は統計的に有意でない、または有意であっても地域や分析対象となる大学の入試難易度によって一様でない場合がほとんどである。

第3に、入学する生徒の平均的な学力に注目して学校を3つの階層に分けて分析すると、学校階層によって教育の質や工夫が有意な形で効果を生む場合も出てくるが、その傾向は首都圏と近畿圏とでは大きく異なり、一様な傾向は確認できない。

本稿はあくまでも中高一貫校を分析対象としているが、そこで注目した教育の質を示す様々な変数は、中高一貫校だけでなくそれ以外の学校にも共通して見られるものである。したがって、本稿の分析結果は中学校・高校教育全体においてもある程度当てはまる一般的な傾向と考えてよいであろう。これは、教育をめぐる様々な改革や工夫の成果に対して、過剰な期待を寄せるのは望ましくなく、統計的な検証が必要であることを示唆するものである。


日本企業における資金調達行動

坂井 功治(一橋大学経済研究所専任講師)

本稿は、1964年から2005年までの日本の上場企業のパネルデータを用い、日本企業の資金調達行動が、資本構成理論におけるトレードオフ理論とペッキングオーダー理論のいずれに従うのかについて検証を行ったものである。検証にあたっては、トレードオフ理論とペッキングオーダー理論のそれぞれから導出される推定モデルを用い、それぞれの推定モデルの説明力の高さについて比較検証を行った。本稿のおもな結論は以下である。第一に、日本企業の資金調達行動においては、トレードオフ理論とペッキングオーダー理論のいずれもが統計的に有意な説明力をもつものの、相対的にペッキングオーダー理論の説明力が強く、この傾向は1964年以降のほぼ全期間において成立している。第二に、従属変数の条件付分布の歪みを考慮した分位推定を行うと、日本企業の過半数の資金調達行動は、ペッキングオーダー理論の理論予測である bpo=1 とほぼ一致しており、その意味では、日本企業の過半数がペッキングオーダー理論に強く従っている。また、この傾向は1964年以降の大半の時期において成立している。ペッキングオーダー理論においては、最適資本構成は存在せず、トレードオフ理論が想定する節税効果の便益や財務危機の費用は二次的な意味しかもたない。これは、日本企業の資金調達行動が、最適資本構成への調整として生じているというよりは、新規投資と内部資金とのギャップである資金不足を補うために生じていることを示唆している。


内航貨物輸送における参入規制の影響分析

細江 宣裕(政策研究大学院大学准教授)

内航海運業界は、戦後数十年の長きにわたって、競争を制限するための船腹量の自主規制を通じて保護されてきた。1998年までは、船腹調整制度と呼ばれる設備容量規制が行われてきた。これは、新規に船を建造する場合にはそれに相当する(またはそれ以上の)廃船を必要とする、いわゆるスクラップ・アンド・ビルド方式によって競争を制限するものである。この種の規制は、一連の規制緩和政策の中で廃止されたが、激変緩和措置として暫定措置事業が導入され、そこでは、新規に船を建造する場合には一定額の建造納付金を支払えばよいことになった。この制度は、それまでの自主規制よりはより緩やかなものになったとはいえ、新規に貨物船を建造する事業者に対して船価の4割近い建造納付金を課すという、きわめて強い参入規制となっている。

本研究では、内航貨物輸送サービス部門の部分均衡モデルを1998-2005年の月次データを用いて計量経済学的手法によって推定・構築した。このモデルを用いて、暫定措置事業がどれだけ運賃を引き上げてサービスの需給量を減少させ、最終的にどれだけ経済厚生に悪影響を与えているのかを検証した。その結果、仮に建造納付金を1%引き下げれば、運賃が約1.2%低下し、輸送量が約1.9%増加、経済厚生が約0.9億円改善されることがわかった。また、地球温暖化対策という観点からもこの規制は正当化できない。なぜなら、建造納付金を10%引き下げることで少なからず内航海運輸送量が増加することが見込めるが、その程度は、現在、多額の資金を費やして行われているモーダルシフト政策が目標とする内航海運へのモーダルシフト量に匹敵するほどに大きいからである。内航海運の規制緩和は、こうした二重の配当をもたらす。


(研究ノート)

利子所得・配当所得・株式等の譲渡所得の実効税率の計測

関田 静香(日本学術振興会特別研究員PD)

本稿の目的は、1973-2003年における各資本所得(利子所得・配当所得・株式等の譲渡所得)、および、各金融商品(預貯金・株式)の実効税率を計測し、資本所得・金融商品間の課税の中立性について検証することである。さらに、その結果を用いて、配当・譲渡所得の軽減税率が廃止される2011年以降の課税方式における各資本所得・金融商品の実効税率もシミュレートする。

計測した結果、資本所得別に見た場合、配当所得の実効税率の方が、利子所得よりも常に高くなっていた。また、収益率が低く、株式の保有期間が短い場合、譲渡所得の実効税率は配当所得よりも高くなることがあるものの、収益率が5%以上、株式の保有期間が5年以上であれば、インフレ率や年に関わらず、譲渡所得の実効税率が資本所得の中で最も低かった。金融商品別に見ると、譲渡所得の収益率が1%と低い場合には、株式の実効税率が預貯金よりも高く、譲渡所得の収益率が18%と非常に高い場合には、株式の実効税率の方が預貯金よりも低く、譲渡所得の収益率が5%の場合には、預貯金の実効税率と比較的近い値となっており、譲渡所得の収益率の違いによる、金融商品間の実効税率の乖離が著しいことが分かった。

各資本所得の表面税率が並ぶであろう2011年以降においては、利子・配当所得の実効税率はほぼ等しくなると考えられる。しかし、譲渡所得の実効税率は、収益率が高く、株式の保有期間が長くなるほど、利子・配当所得よりも格段に低くなっており、資本所得の中で最も税制優遇されるといえる。預貯金と株式で実効税率を比較すると、株式の実効税率が預貯金よりも低い場合がほとんどであり、金融商品間で、株式が最も税制面で優遇されるといえる。2011年以降、資本所得の表面税率が同様であっても、金融商品間の課税の中立性を確保できるとは言い難い。


(調査)

「ワーク・ライフ・バランスと生産性に関する調査」の概要

山田 亮(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)

吉田 美幸(内閣府経済社会総合研究所研究官)

先進各国では現在、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を重視した政策を指向しており、我が国でも平成19年末、「ワーク・ライフ・バランス憲章」が制定され、今後は政労使が協力し、社会各層でワーク・ライフ・バランス社会の実現を目指した施策を進めることが合意されている。

この背景には、長時間労働を含めた「働き方」の問題が、家庭生活との両立を阻害し少子化の大きな要因になっているだけでなく、今後の経済社会のサステナビリティまで危うくするという危機意識がある。しかし、ワーク・ライフ・バランス社会の実現は、企業の経営パフォーマンスを損なわない形で進められねばならない。そこで本研究では、広義のワーク・ライフ・バランス施策が企業の生産性にどのような影響を与えるのか、そこにどのようなメカニズムがあるのかについて調べた結果、主に以下のようなことが分かった。

第一に、ワーク・ライフ・バランス施策実施企業の方がより生産性向上の傾向があり、従業員のモチベーションや定着率を高め、女性の出産後継続就業を促す傾向があること、第二に、ワーク・ライフ・バランス施策を実施する際には、併せて、管理職による業務分担の柔軟な見直しや仕事量、仕事の進め方の見直しなどを行うことが生産性向上に結びつく必須条件だということ、等が示唆された。

経済社会総合研究所の概要と実績


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全文の構成

(論文)

日本企業の海外子会社からの利益送金
―本社の配当政策からみた分析―別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 1,363 KB)

田近 栄治・布袋 正樹

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 5ページ
    2.現地法人からの受取配当の実態
  3. 11ページ
    3.実証分析
  4. 18ページ
    4.本社の出資比率の影響を考慮した分析
  5. 21ページ
    5.結論
  6. 23ページ
    付表 相関係数
  7. 23ページ
    参考文献

わが国家計の消費税負担の実態について別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,080 KB)

八塩 裕之・長谷川 裕一

  1. 27ページ
    1.はじめに
  2. 29ページ
    2.分析方法
  3. 33ページ
    3.消費税負担の実態と「所得に対する負担の逆進性」の問題について
  4. 38ページ
    4.所得税の課税ベース侵食と消費税の関係
  5. 41ページ
    5.消費税率引き上げと低所得者に対する税負担軽減政策の効果
  6. 46ページ
    6.おわりに
  7. 46ページ
    参考文献

教育の生産関数の推計 ―中高一貫校の場合別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,056 KB)

小塩 隆士・佐野 晋平・末富 芳

  1. 50ページ
    1.はじめに
  2. 51ページ
    2.理論的枠組みと先行研究
  3. 54ページ
    3.実証分析の方針
  4. 60ページ
    4.実証分析の結果
  5. 66ページ
    5.結 論
  6. 68ページ
    参考文献

日本企業における資金調達行動別ウィンドウで開きます。(PDF形式 966 KB)

坂井 功治

  1. 72ページ
    1.はじめに
  2. 75ページ
    2.推定モデル
  3. 77ページ
    3.データ
  4. 79ページ
    4.推定
  5. 83ページ
    5.ペッキングオーダー理論の頑健性
  6. 90ページ
    6.結論
  7. 91ページ
    補足1.DEF itの算出方法
  8. 92ページ
    参考文献

内航貨物輸送における参入規制の影響分析別ウィンドウで開きます。(PDF形式 748 KB)

細江 宣裕

  1. 96ページ
    1.はじめに
  2. 99ページ
    2.内航貨物輸送サービス需給モデル
  3. 101ページ
    3.モデルの推定結果
  4. 102ページ
    4.まとめ
  5. 105ページ
    付録 データと推定結果の詳細
  6. 106ページ
    参考文献

(研究ノート)

利子所得・配当所得・株式等の譲渡所得の実効税率の計測別ウィンドウで開きます。(PDF形式 2,080 KB)

関田 静香

  1. 109ページ
    1.序論
  2. 110ページ
    2.資本所得税制の流れ
  3. 115ページ
    3.実効税率の計測方法
  4. 121ページ
    4.1973-2003年における実効税率の計測結果
  5. 126ページ
    5.結論
  6. 127ページ
    参考文献

(資料)

「ワーク・ライフ・バランスと生産性に関する調査」の概要別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1,164 KB)

山田 亮・吉田 美幸

  1. 131ページ
    1.本研究の趣旨
  2. 131ページ
    2.調査の概要
  3. 132ページ
    3.調査の方法等
  4. 133ページ
    4.調査結果の分析と考察
  5. 155ページ
    (参考)
  6. 156ページ
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