経済分析第183号
経済分析183号(ジャーナル版)

平成22年3月
(論文)
多部門世代重複モデルによる財政再建の動学的応用一般均衡分析
木村 真(北海道大学公共政策大学特任助教)
橋本 恭之(経済産業研究所ファカルティフェロー/関西大学経済学部教授)
失われた10年と日本企業の雇用調整行動
-企業の規律付けメカニズムは変化したのか-
野田 知彦(大阪府立大学経済学部教授)
平野 大昌(京都大学経済研究所付属 先端政策分析研究センター研究員)
企業犯罪における「企業利益目的」と「個人利益目的」の違いは量刑に影響を与えるか
―法人税法違反の量刑因子に関する計量分析―
白石 賢(内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官/首都大学東京都市教養学部教授)
白石 小百合(横浜市立大学国際総合科学部教授)
山下 篤史(元内閣府経済社会総合研究所研究官)
村上 貴昭(元内閣府経済社会総合研究所研究官)
地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費における補正係数の決定
宮崎 毅(明海大学経済学部講師)
(資料)
我々は日本の経済予測専門家のサーベイ調査から何を学んだか
-ESPフォーキャスト調査の4年間を振り返る-
小峰 隆夫(法政大学大学院政策創造研究科教授)
伴 金美(大阪大学大学院経済学研究科教授)
河越 正明(内閣府経済社会総合研究所特別研究員)
吉田 博(社団法人経済企画協会常務理事)
経済社会総合研究所の概要と実績
「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」(分析・評価編)の出版について

(要旨)

(論文)

多部門世代重複モデルによる財政再建の動学的応用一般均衡分析

木村 真(北海道大学公共政策大学特任助教)

橋本 恭之(経済産業研究所ファカルティフェロー/関西大学経済学部教授)

本稿では、多部門世代重複型ライフサイクル一般均衡モデルを用いて、財政再建についてのシミュレーション分析をおこなった。これまでのライフサイクル一般均衡モデルの多くは、生産部門が1部門に簡略化されており、歳出削減の対象費目の違いを考慮することができなかった。本稿は多部門に拡張することでこれを可能としており、歳出削減の対象費目として公共投資、教育支出、その他の政府支出をとりあげた点が特徴となっている。

本稿でのシミュレーションの結果、一時的なショックとしては、消費税増税がGDPを増加させることが示された。ただし、GDPの増加は固定資本減耗の増加によるものであり、国民所得は逆に低下する。歳出削減については、教育支出とその他の政府支出削減のほうが、公共投資削減より総生産の減少度合いが大きいという結果が示された。これは、公共投資が資本形成を通じて長期的に生産活動に影響を与えるのに対し、教育とその他の政府支出は消費財の相対価格の変化を通じて即座に生産に影響を及ぼすためである。

次に、中期的には消費税増税ケースのほうが高いGDPを達成できるが、長期的には公共投資と教育支出を削減するケースのほうがGDPは高くなるという結果が示された。また、その他の政府支出を削減するケースは他のどのケースよりも低いGDPで推移することが示された。公債残高の対GDP比については、ケース間の差はわずかだが、消費税を増税するケースが最も低く推移し、公共投資を削減するケースがそれに次ぐという結果が示された。


失われた10年と日本企業の雇用調整行動 -企業の規律付けメカニズムは変化したのか-

野田 知彦(大阪府立大学経済学部教授)

平野 大昌(京都大学経済研究所付属 先端政策分析研究センター研究員)

本稿では、「失われた10年」という期間を対象にして、日本企業の雇用維持政策を支えた要因とその政策に変化をもたらした要因を企業統治の観点から経営者の属性を考慮して分析することを課題とした。1997年を境に雇用維持期とリストラ期に分けて分析を行った結果、96年まではメインバンクや金融機関、事業会社による株式の持ち合い、労働組合などが企業のリストラを抑制し雇用を維持する効果を持っていたが、1997年以降はこれらの要因が弱まり、逆に外国人株主がリストラを促進するような影響を与えていることがわかった。このことは、同時に企業をモニタリングし経営が悪化した企業を規律付ける主体が、メインバンクから外国人株主に移行したことを示している。

また、経営者の属性を考慮した分析を行った結果、経営者が内部昇進型企業で、今述べたような雇用政策に対する各ステークホルダーの効果が見られるが、ファミリー型の企業では各ステークホルダーの影響は見られないことが明らかなった。このように経営者の属性の違いによって他のステークホルダーの与える効果が異なることが明らかにされ、内部昇進者が経営者の企業はステークホルダーモデルの想定するように雇用維持や人員整理の決定にステークホルダーが影響を与えているが、ファミリー企業は全くといってもいいほど影響を与えていない。


企業犯罪における「企業利益目的」と「個人利益目的」の違いは量刑に影響を与えるか
―法人税法違反の量刑因子に関する計量分析―

白石 賢(内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官/首都大学東京都市教養学部教授)

白石 小百合(横浜市立大学国際総合科学部教授)

山下 篤史(元内閣府経済社会総合研究所研究官)

村上 貴昭(元内閣府経済社会総合研究所研究官)

企業犯罪には、「企業利益目的」「個人利益目的」の2つの目的が存在する。裁判所の判決も、その目的の違いが量刑に影響する可能性を認めている。本論文は、法人税法違反事件が、法人税を脱税しそのほ脱金を会社自身のために使用する場合(会社利益目的の犯罪)と企業を隠れ蓑にしてオーナー等個人のためにほ脱金が流用される場合(個人利益目的の犯罪)が存在することから、実際の法人税法違反事件の判決書からその量刑に与える要因抽出することにより、その2つの目的の違いが量刑に与える影響を計量分析的に検証した。その結果、(1)量刑を決定する際には懲役と執行猶予が一体として認識されていること、(2)企業利益目的で犯罪を犯すことは量刑を減らす方向に影響すること、(3)ほ脱税額が大きいことは量刑を増やす方向に影響すること、(4)ほ脱割合が大きいことは量刑を増やす方向に影響することが分かった。この結果は、社会的・先行研究からみても妥当であると考えられる。しかし、「企業利益のために犯罪を犯すことは量刑を減らす方向に影響する」という本稿の推計結果は、行為者の反省態度に望ましい影響を与えることになるものの、企業犯罪抑止のためには企業の論理を超えた規範意識を世の中に醸成していく必要があると考えるのであれば、上記メッセージは望ましいものとは考えられない。それゆえ、企業犯罪における量刑論において、責任と予防の問題を再考する必要があると思われる。

また、量刑に関する計量的分析を行うことは、裁判・量刑過程の透明化に資するものであり、特に、2009年から始まった裁判員制度においては、その応用が期待される。


地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費における補正係数の決定

宮崎 毅(明海大学経済学部講師)

近年、交付税制度の問題点として、国が事後的に非効率な行財政運営を行っている地方自治体を救済してしまうため、救済を予想した地方自治体は歳出削減のための努力を怠るという「ソフトな予算制約」の問題が指摘されている。特に、補正係数は地方からの要望を考慮して改正されている、また地方自治体の決算が出た後に枠組みを決定することから、補正係数の改正には事後的な非効率を容認する制度的特徴があると指摘されている (池上、1998、2003;赤井他、2003)。地方財政放漫の一因と考えられている、事業費補正や元利償還金の交付税措置を調べた研究はある(土居・別所、2005a;土居・別所、2005b)が、補正係数の決定過程に関する実証研究は皆無である。

そこで本稿では、地方交付税の補正係数の決定にソフトな予算制約が存在し、歳出の増大した地方団体への財源配分が行われているのかを検証する。警察費、小学校費、中学校費、衛生費、社会福祉費の経常経費について、1985年から2002年までの都道府県データを用い、目的別歳出の費目別基準財政需要からの乖離率が補正係数に及ぼす影響を調べる。

推定から、次の結果が得られた。第1に、警察費と小学校費、中学校費、衛生費では、前期において費用が基準財政需要から乖離する割合が大きい自治体に有利なように、今期の補正係数が改正されていた。第2に、小学校費と中学校費、衛生費では、費用に関して非効率な団体に有利な補正係数の改定が行われていた時期に、補正係数の団体間格差が大きくなっていた。補正係数の平均は分析期間中ほとんど変化していないことから、非効率な団体の補正を拡大させる一方、効率的な団体の補正を縮小していたと考えられる。これらの分析から客観的な指標で構成される補正係数の決定には、ソフトな予算制約が存在していたと考えられる。


(資料)

我々は日本の経済予測専門家のサーベイ調査から何を学んだか
-ESPフォーキャスト調査の4年間を振り返る-

小峰 隆夫(法政大学大学院政策創造研究科教授)

伴 金美(大阪大学大学院経済学研究科教授)

河越 正明(内閣府経済社会総合研究所特別研究員)

吉田 博 (社団法人経済企画協会常務理事)

本稿はESPフォーキャスト調査の4年間を振り返り総括することを目的とする。コンセンサス予測のパフォーマンスを評価すると、個々の予測に比べてよい成績を残している。これは例えば米国では知られた事実であったが、ESPフォーキャスト調査を用いることによっておそらく初めて日本で確認された。また、コンセンサス予測は、少なくともごく短期間の予測期間においては、Pesaran and Weale (2006)がいうところの平均的な形での合理的期待となっている。残された課題としては、リアル・タイム・データを用いた予測の更新の分析、予測値の予測者の主観的な分布についての分析、非専門家の予測の分析、リーマン・ショック後の予測の変化に関する分析などが上げられる。

経済社会総合研究所の概要と実績

「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」(分析・評価編)の出版について


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

多部門世代重複モデルによる財政再建の動学的応用一般均衡分析別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.4 MB)

木村 真 ・ 橋本 恭之

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 4ページ
    2.モデル
  3. 10ページ
    3.データとパラメータの設定
  4. 14ページ
    4.分析結果
  5. 21ページ
    5.おわりに
  6. 23ページ
    補論
  7. 23ページ
    参考文献

失われた10年と日本企業の雇用調整行動
-企業の規律付けメカニズムは変化したのか-別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 548 KB)

野田 知彦・平野 大昌

  1. 27ページ
    1.はじめに
  2. 30ページ
    2.コーポレートガバナンスと雇用、賃金システム
  3. 37ページ
    3.データと分析方法
  4. 44ページ
    4.推定結果
  5. 55ページ
    5.まとめにかえて
  6. 55ページ
    参考文献

企業犯罪における「企業利益目的」と「個人利益目的」の違いは量刑に影響を与えるか
―法人税法違反の量刑因子に関する計量分析―別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 464 KB)

白石 賢・白石 小百合・山下 篤史・村上 貴昭

  1. 61ページ
    1.問題意識
  2. 63ページ
    2.データと計量方法
  3. 71ページ
    3.推計結果
  4. 74ページ
    4.推計結果の心理学的意味
  5. 75ページ
    5.おわりに
  6. 75ページ
    参考文献

地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費における補正係数の決定別ウィンドウで開きます。(PDF形式 641 KB)

宮崎 毅

  1. 79ページ
    1.はじめに
  2. 81ページ
    2.先行研究
  3. 82ページ
    3.補正係数の決定方法と推定仮説
  4. 86ページ
    4.推定モデルとデータ
  5. 91ページ
    5.推定結果
  6. 99ページ
    6.結論
  7. 100ページ
    付録
  8. 100ページ
    参考文献

(資料)

我々は日本の経済予測専門家のサーベイ調査から何を学んだか
-ESPフォーキャスト調査の4年間を振り返る-別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 509 KB)

小峰 隆夫・伴 金美・河越 正明・吉田 博

  1. 106ページ
    1.はじめに
  2. 106ページ
    2.ESPFとは何か
  3. 110ページ
    3.予測成績の年次評価
  4. 114ページ
    4.合理的期待形成仮説(REH)の検定
  5. 116ページ
    5.今後の課題
  6. 123ページ
    6.結び
  7. 123ページ
    参考文献
  1. 126ページ
  1. 135ページ
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