経済分析第187号
経済分析第187号 (ジャーナル版)

平成25年6月
(論文)
厚生年金加入者・受給者を対象とした年金改革案におけるトレードオフの推計
北村智紀(ニッセイ基礎研究所金融研究部兼年金総合リサーチセンター)
中嶋邦夫(ニッセイ基礎研究所保険研究部兼年金総合リサーチセンター)
役員の持株比率が企業不祥事を抑止させる効果に関する研究
三好祐輔(佐賀大学経済学部准教授)
都築治彦(佐賀大学経済学部教授)
Propensity Score Matching法を用いた男性のマリッジプレミアムの検証
佐藤一磨(明海大学経済学部専任講師)
(研究ノート)
施設入所待機者の解消と施設の機能分化が介護費用に及ぼす影響
足立泰美(大阪大学大学院医学系研究科博士課程)
赤井伸郎(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)
植松利夫(大阪大学大学院法学研究科招聘教授)
(資料)
ESRI国際コンファレンス
「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」(概要)
編集:経済社会総合研究所

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

厚生年金加入者・受給者を対象とした年金改革案におけるトレードオフの推計

ニッセイ基礎研究所金融研究部兼年金総合リサーチセンター/北村智紀

ニッセイ基礎研究所保険研究部兼年金総合リサーチセンター/中嶋邦夫

本稿は、厚生年金の加入者と受給者を対象に、表明選好法の1つである選択型実験法を利用して、今後予想される年金改革案への選好の程度を分析した。年金改革案の政策手段として、保険料率の引き上げ、年金給付額の引き下げ、支給開始年齢の引き上げ、積立金の運用で株式投資を増やすことなどによる給付額変動リスクの引き上げ、消費税の増税の5つを検討した。その結果、支給開始年齢の1歳の引き上げに対して家計の効用水準を一定に保つには、給付に換算すると月19,810円の増加が必要になると推計された。同様に、保険料率の1%引き上げは月4,510円、消費税率の1%引き上げは月3,530円の給付増に相当すると推計された。過去の経緯から推察すると、支給開始年齢の2歳引き上げ、保険料率もしくは消費税率の5%引き上げは、今後十分に考えられる年金改革案である。上記の限界代替率が一定だとして解釈すると、この3つの政策手段のうち、支給開始年齢の2歳引き上げは最も選好されない改革案であった。また、保険料率と消費税率の同程度の引き上げであれば、消費税率の引き上げの方が選好されていた。さらに、給付額変動リスクを1%高めることは、給付に換算すると月2,270円の減少に相当すると推計された。積立金運用における株式への資産配分を増加させることを家計が選好していると解釈できる。加入者と受給者の違いを見ると、加入者では消費税率1%の引き上げは月5,630円の給付増に相当したが、受給者では推計結果が有意ではなく、年金改革案の選好に影響がなかった。つまり、受給者は年金改革で一定程度の消費税引き上げを受け入れる用意があることが示唆される。

JEL Classification Number : D14, G02, H31
Key Words:厚生年金改革、加入者・受給者の選好、選択型実験法


役員の持株比率が企業不祥事を抑止させる効果に関する研究

佐賀大学経済学部准教授/三好祐輔

佐賀大学経済学部教授/都築治彦

本稿の目的は、経営者の持株比率が経営トップの不法行為の発生に大きく影響を与えるのか、そして現経営陣に対しストック・オプションを付与することが不法行為回避のためには、大きな有効性を持ち得ないのか、さらに、取締役会に自社株を保有させることが、経営トップの不法行為に対するモニタリングが機能しうるのかどうかに関して議論することにある。

しかし、これまでの企業業績と役員持株比率の関係の実証研究は、経営トップが不法行為をとることに関して、株価の回復や経営者の持株比率との関連で論じられたことはなく、さらに、持株比率とストック・オプション導入が経営者行動に与える違いを明確にできていなかった。

本稿では、ストック・オプションならびに役員持株比率が不法行為をする経営者のインセンティブとの関係、すなわち、不法行為を抑止する株主構成と経営者の私的便益が及ぼす、経営者による不法行為への誘引のトレード・オフ問題について分析を行った。具体的には、過去に不祥事経験のある企業を対象とし、経営者の持株比率やストック・オプションの付与が、経営トップの不法行為の発生に大きく影響を与えるかどうか、高い持株を有する取締役会が経営トップの不法行為を抑制できるのかについて実証分析を行った。

実証分析の結果より、大株主は、経営トップによる企業業績を最大化するための不法行為については容認しており、経営トップの不法行為を抑えるインセンティブが低い(不法行為繰り返し仮説)。また、経営者の持株比率が高いほど不法行為は抑えられるが、ストック・オプションの付与は、不法行為を抑制するかどうかは不明で、逆に助長させる可能性があることが分かった。

JEL Classification Number:K12, G32, G38
Key Words:不法行為、役員持株比率、ストック・オプション


Propensity Score Matching法を用いた男性のマリッジプレミアムの検証

明海大学経済学部専任講師/佐藤一磨

本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査』を用い、Propensity Score Matching法を使用することでさまざまなバイアスを考慮し、男性のマリッジプレミアムを再度検証することである。分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、OLSを用いた分析の結果、対数時間当たり賃金率、対数年収の両方の場合において、観察不可能な個人属性を考慮すると、マリッジプレミアムは観察されなかった。2点目は、クロスセクション・マッチング推計法を用いた分析の結果、対数時間当たり賃金率を用いた場合ではマリッジプレミアムは観察されなかったものの、対数年収を用いた場合だと男性のマリッジプレミアムが確認できた。3点目は、DIDマッチング推計法を用いた分析の結果、対数時間当たり賃金率及び対数年収の両方において、男性のマリッジプレミアムは観察されなかった。クロスセクション・マッチング推計法では対数年収は結婚によって有意に上昇する傾向にあったが、その背景には観察不可能な個人属性によるバイアスが発生していたためだと考えられる。以上の分析結果から、観察されない個人属性やセルフ・セレクションを考慮すると、我が国では男性のマリッジプレミアムが確認されないと言える。

JEL Classification Number:J12, J24, J31
Key Words:マリッジプレミアム、セルフ・セレクション、Propensity Score Matching法


(研究ノート)

施設入所待機者の解消と施設の機能分化が介護費用に及ぼす影響

大阪大学大学院医学系研究科博士課程/足立泰美

大阪大学大学院国際公共政策研究科教授/赤井伸郎

大阪大学大学院法学研究科招聘教授/植松利夫

介護保険制度の創設以来、介護費用は急激に増えており、高齢化の進行に伴って今後もその増加が予想される。そのため現行制度のままでは財政困難に陥り、制度自体の存続も危ぶまれている。一方、平均寿命の延伸と核家族化の進行を背景に、要介護期間の長期化と単身高齢者の増加が進んでいる。介護者の高齢化による家族機能の低下も重なり、介護負担問題は深刻化を呈し、施設サービスへの必要性が高まっている。このことから財政的な問題に加え、家族における介護負担も考慮しつつ、介護費用の抑制の検討が求められている。

以上の問題を踏まえ、まず現行制度を前提に、サービス別要介護度別年齢階級別の受給者数と1人あたり費用をもとに介護費用の算定モデルを構築する。次にこのモデルを用いて、施設サービス、特に特別養護老人ホームの介護費用に注目し、介護費用の抑制を検討する。

具体的には、特別養護老人ホームの入所待機者データを用い、入所待機者の需要を全て満たした場合と一定の者に限定した場合を想定し、入所者層の変化にともなう介護費用の変動額を算出する。つぎに医療施設から介護施設への異動に伴って生じる医療費用の軽減効果をも考慮した介護費用の変化を計算する。

その結果、施設サービスには軽度の要介護度に一定の制限を加え、優先度の強い重度の要介護度者を中心に施設サービスが利用できるシステムを構築すること、また、医療施設と介護施設間で機能を分化し適宜入所者を移行できるシステムを構築することが効果的であることが分かった。

JEL Classification Number:C15, H51, I11
Key Words:介護費用、施設入所待機者、施設の機能分化


(資 料)

ESRI国際コンファレンス
「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」(概要)

編集:経済社会総合研究所


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

厚生年金加入者・受給者を対象とした年金改革案におけるトレードオフの推計別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.3 MB)

北村智紀・中嶋邦夫

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 5ページ
    2.実験方法
  3. 10ページ
    3.実験結果
  4. 18ページ
    4.結論
  5. 19ページ
    参考文献

役員の持株比率が企業不祥事を抑止させる効果に関する研究別ウィンドウで開きます。(PDF形式 986 KB)

三好祐輔・都築治彦

  1. 24ページ
    1.はじめに
  2. 27ページ
    2.理論モデルの紹介
  3. 35ページ
    3.サンプルと分析方法
  4. 41ページ
    4.分析方法
  5. 44ページ
    5.まとめと課題
  6. 45ページ
    参考文献

Propensity Score Matching法を用いた男性のマリッジプレミアムの検証別ウィンドウで開きます。(PDF形式 980 KB)

佐藤一磨

  1. 49ページ
    1.問題意識
  2. 50ページ
    2.先行研究
  3. 53ページ
    3.データ
  4. 53ページ
    4.推計手法
  5. 58ページ
    5.推計結果
  6. 66ページ
    6.結論
  7. 67ページ
    参考文献

(研究ノート)

施設入所待機者の解消と施設の機能分化が介護費用に及ぼす影響別ウィンドウで開きます。(PDF形式 893 KB)

足立泰美・赤井伸郎・植松利夫

  1. 71ページ
    1.はじめに
  2. 73ページ
    2.先行研究
  3. 74ページ
    3.算出方法
  4. 80ページ
    4.算出結果
  5. 83ページ
    5.考察・結語
  6. 84ページ
    参考文献

(資料)

ESRI国際コンファレンス
「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」(概要)別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 1.2 MB)

編集:経済社会総合研究所

  1. 85ページ
    1.ESRI国際コンファレンス
    「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」(概要)
  2. 86ページ
    2.ESRI国際コンファレンス
    「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」議事次第
  3. 88ページ
    3.第1セッション:集中討論―経済政策の設計「世界経済、環境」
  4. 94ページ
    4.第2セッション:集中討論―経済政策の設計「成長、分配」
  5. 102ページ
    5.第3セッション:「アベノミクスの経済政策」
  6. 108ページ
    6.第4セッション:「経済財政の波及効果」
  7. 112ページ
    7.第5セッション:パネル討論「日本経済の再生に向けて」
  8. 118ページ
    (資料1)基調講演
    経済再生担当大臣・内閣府特命担当大臣(経済財政政策) 甘利 明
  9. 123ページ
    (資料2)「量的・質的金融緩和」の基本的考え方
    日本銀行副総裁 中曽 宏
  10. 127ページ
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)