経済分析第188号
経済分析第188号 (ジャーナル版)

平成26年3月
(論文)
海外市場情報と輸出開始:情報提供者としての取引銀行の役割
乾 友彦(日本大学経済学部教授)
伊藤 恵子(専修大学経済学部教授)
宮川 大介(ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所客員研究員)
庄司 啓史(衆議院憲法審査会事務局参事)
地方交付税制度が徴収率に与える効果の推定─行革インセンティブ算定の効果と交付税制度に内在する歪みの検証─
石田 三成(琉球大学法文学部)
サポートベクターマシンを用いた世界各国の幸福度の決定要因の実証分析
田辺 和俊(東洋大学現代社会総合研究所客員研究員)
鈴木 孝弘(東洋大学経済学部経済学科教授)
税制と海外子会社の利益送金―本社資金需要からみた「2009年度改正」の分析―
田近 栄治(一橋大学大学院経済学研究科特任教授)
布袋 正樹(関西国際大学人間科学部経営学科准教授・財務省財務総合政策研究所客員研究員)
柴田 啓子(前財務省財務総合政策研究所研究員)
民営職業紹介、公共職業紹介のマッチングと転職結果
小林 徹(慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程・公益財団法人三菱経済研究所)
阿部 正浩(中央大学経済学部教授)
夫の失業が離婚に及ぼす影響
佐藤 一磨(明海大学経済学部専任講師)
(資料)
日本経済再生に関する3研究所共同公開セミナー
―内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合政策研究所、独立行政法人経済産業研究所―(概要)
編集:経済社会総合研究所

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

海外市場情報と輸出開始:情報提供者としての取引銀行の役割

日本大学経済学部教授/乾 友彦

専修大学経済学部教授/伊藤 恵子

ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所客員研究員/宮川 大介

衆議院憲法審査会事務局参事/庄司 啓史

本稿は、海外市場に関する情報の多寡が企業の輸出行動へ与える影響について、実証的に分析したものである。海外市場に関する企業間の情報共有に着目した既存研究とは異なり、本稿では、最大貸し手銀行(メインバンク)による情報提供の効果に焦点を当てている。個別企業の属性とメインバンク情報とを接続した独自のデータセットを用いることで、輸出開始に関する企業の意思決定に対して、メインバンクの保有情報量がどのように影響するかを検証する。具体的には、各銀行が輸出企業との金融取引を通じて取得した海外市場情報に関連する変数を用いて、海外市場情報をより多く有する銀行をメインバンクに持つ非輸出企業の方が、輸出を開始する確率が高いのかどうかを統計的に分析する。

得られた結果は、メインバンクの提供する情報が、顧客企業の輸出開始の決定 (extensive margin) に対して、正の影響を持つことを示している。このことは、輸出を開始する企業にとって、取引銀行が海外市場情報入手の重要な経路の一つである可能性を示唆している。つまり、金融機関によって提供される輸出市場関連情報が、輸出開始に伴う固定費用を減少させることで、企業の輸出開始を促進すると考えられる。また、我々の結果は、メインバンクを通じた情報提供が、アジアへの輸出開始を検討する企業にとって、より重要であることも示唆している。このように、本稿では、融資関係を通じた情報提供の重要性に着目し、先行研究で無視されている情報スピルオーバーの経路を提案した。

JEL Classification Number:F10, F14, G21, L25
Key Words:輸出決定、メインバンク、情報のスピルオーバー、一般および固有情報


地方交付税制度が徴収率に与える効果の推定
─行革インセンティブ算定の効果と交付税制度に内在する歪みの検証─

琉球大学法文学部/石田 三成

しばしば、地方交付税は地方公共団体の税収を確保するインセンティブを阻害しているという批判がなされる。こうした批判を受けて、平成17年度に徴収率の実績値に応じて地方交付税額も変動する「行革インセンティブ算定」と呼ばれる算定方法が導入された。

本稿では地方税の基幹的税目である純固定資産税のうち土地分に焦点を当て、(1) 行革インセンティブ算定が導入されてから同税の徴収率は向上したか、(2) 行革インセンティブ算定が導入される以前から、交付団体と不交付団体で徴収努力に違いはあったのか、の二つを理論的・定量的な視点から検証した。その結果、以下が明らかになった。

まず、行革インセンティブ算定は純固定資産税(土地分)の徴収率に対して有意な影響を与えていないことが確認された。その原因として、行革インセンティブ算定の規模が小さすぎたことや、地方公共団体がこの制度をあまり評価していないといった理由により、インセンティブとしてあまり機能しなかったことが考えられる。次に、行革インセンティブ算定の影響を取り除くと、徴収率は不交付団体よりも交付団体のほうが0.16%~0.18%ポイント高く、交付団体の徴収努力は低いわけではないことが示された。しかし、地方交付税制度が課税ベースの減少の一部を補てんする仕組みとなっていることを踏まえると、この結果は、交付団体の徴収努力は過少というよりも、むしろ過剰であることを示唆している。

JEL Classification Number:H70, H71, H77
Key Words:地方交付税、行革インセンティブ、徴収率


サポートベクターマシンを用いた世界各国の幸福度の決定要因の実証分析

東洋大学現代社会総合研究所客員研究員/田辺 和俊

東洋大学経済学部経済学科教授/鈴木 孝弘

幸福度の決定要因を解明するために、世界中の多数の国の幸福度のデータを目的変数、様々な分野の多種多様な指標を説明変数として、非線形回帰分析手法の一手法であるサポートベクターマシン(SVM)により解析する大規模実証分析を試みた。World Database of Happiness(WDH)の149カ国の幸福度のデータと、経済、政治・社会、健康、資源・環境、生活・文化の5分野の56種の指標との相関を統計的に分析し、各指標が幸福度に及ぼす影響について考察した。次に世界各国の幸福度を統一的に再現する決定要因を探索するため、149カ国のうち、指標データが欠落している19カ国を除いた130カ国についてのWDHの幸福度と38種の指標データを用いてSVMモデルを学習し、感度分析法により指標を最適化した。その結果、20種の指標を用いることで世界130カ国の幸福度を平均二乗誤差(RMSE)0.48、決定係数(R2)0.867という良好な精度で再現できること、また、各種指標と幸福度との関係は非線形性が高く、幸福度の推算モデルを作成するためにはSVM等の非線形解析手法が必須であることが判明した。さらに、20種の決定要因の中では平均寿命や死亡率等の健康要因の影響度が全体の過半を占め、幸福度に最も大きな影響を与えるのは健康であることが明らかになった。一方、国内総生産(GDP)等の経済的要因は直接の影響度は低いものの、健康要因やその他の要因の向上に影響し、間接的な効果は大であることが示唆された。

JEL Classification: J17, D6, I3
Key words: 幸福度、要因分析、World Database of Happiness、サポートベクターマシン


税制と海外子会社の利益送金―本社資金需要からみた「2009年度改正」の分析―

一橋大学大学院経済学研究科特任教授/田近 栄治

関西国際大学人間科学部経営学科准教授・財務省財務総合政策研究所客員研究員/布袋 正樹

前財務省財務総合政策研究所研究員/柴田 啓子

2009年度税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度が導入され、海外子会社からの受取配当の95%は益金不算入となった。この改正の目的は、海外子会社からの配当送金に係る税制上の障害を取り除き、国内本社が資金を必要とする場合に、海外で得た収益を(配当送金を通じて)有効に使用できるようにすることである。本稿では、この税制改正が海外子会社からの配当送金に及ぼした効果を分析し、以下のような結果を得た。第1に、全サンプルを用いた推定では、2009年度税制により有意に増配企業の割合(現地法人からの受取配当が増加した本社の割合)が増えたことが示された。第2に、本社の設備投資に係る資金需要をとらえる指標を用いてサンプルを分割し、高企業(資金需要が高い企業)と低企業(資金需要が低い企業)それぞれについて推定を行った場合、高企業については、税制改正により有意に増配企業の割合が増えたことが示されたが、低企業については、増配企業の割合に影響がなかった。本社の借入金返済や支払配当に係る資金需要について、サンプル分割した場合も同様の結果が得られた。これらの結果は、税制改正によって海外子会社の配当送金に係る税制上の障害が取り除かれ、本社が資金を必要とする場合に、海外子会社からの配当送金が促進される一方で、本社が資金を必要としない場合には配当送金に影響がなかったことを示しており、海外子会社の利益が(配当送金を通じて)有効に活用される道が開かれたことを示唆している。

JEL Classification Number:H25, G35, F23
Key Words:外国子会社配当益金不算入制度、配当送金、本社の資金需要


民営職業紹介、公共職業紹介のマッチングと転職結果

慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程・公益財団法人三菱経済研究所/小林 徹

中央大学経済学部教授/阿部 正浩

本稿では職業紹介のマッチング機能を検討するにあたり、産業、職業移動や収入変化、満足度といった指標に着目し、民営・公共職業紹介の各指標への影響を分析した。分析の結果、以下の点が明らかになった。

第一に、公共職業紹介は多くの求職者層に利用されながらも、実際に公共紹介経由で転職した者は転職市場で不利な属性を持つ者が多く、セーフティーネットの役割を果たしている可能性が示唆された。一方で民営職業紹介は、利用者も実際の転職者も高学歴層が多いなどの特徴があり、公共職業紹介とは求職者層が異なっていた。

第二に、公共職業紹介による転職では産業・職種移動が多く見られたが、民営職業紹介ではそのような特徴は見られなかった。また、民営職業紹介ではより大企業への転職が多く見られ、一方で公共職業紹介ではより小規模企業への転職が多く見られた。

第三に、先行研究と同様に本稿の分析でも、公共職業紹介ほど転職後の収入が下がりやすく民営職業紹介ほど高まりやすいという結果が示された。しかし、転職前後の企業規模が同様の者に限っては、公共職業紹介による転職であっても、収入が下がりやすいという結果にならず、民営職業紹介の転職後の収入を高める効果も限定的なものとなった。尚、転職後の満足度については民営・公共職業紹介ともに、明確な特徴は確認されなかった。

但し本研究の分析は限定された調査対象のデータをもとに行っているため、政府統計などを用いて同様の分析課題について検証を行うことも求められるかもしれない。

JEL Classification Number:J24, J28, J64
Key Words:転職、職業紹介、マッチング


夫の失業が離婚に及ぼす影響

明海大学経済学部専任講師/佐藤 一磨

本稿の目的は『慶應義塾家計パネル調査 (KHPS)』及び『消費生活に関するパネル調査(JPSC)』を用い、夫の失業経験が離婚に及ぼす影響を検証することである。バブル崩壊以降の長期不況を受け、我が国の労働市場の需給状況は悪化し、失業率が上昇傾向を示すようになった。この失業率の上昇は、家計にも大きな影響を及ぼしており、家計の主たる稼ぎ手である夫の失業の増加を引き起こすこととなったと考えられる。この夫の失業は、消費の抑制、貯蓄の取り崩し、そして妻の労働供給の増加等の変化を家計にもたらしたと考えられるが、これら以外にも家計そのものを崩壊させる離婚を引き起こす原因の1つとなる可能性がある。この点については、海外ではCharles and Stephens (2004) やDoiron and Mendolia (2012) 等の研究があるが、我が国ではまだ分析例が少ない。そこで本稿では、夫の失業経験が離婚に及ぼす影響を検証した。分析の結果、次の2点が明らかになった。

1点目は、KHPSによる分析の結果、2年前の夫の失業経験が離婚確率を上昇させていた。これに対してJPSCによる分析の結果、1年前の夫の失業経験が離婚確率を上昇させていた。これらの結果から、1年、もしくは2年前の夫の失業経験が離婚を引き起こす原因の1つになっていると考えられる。2点目は、KHPS、JPSCの両方のデータにおいて夫の変動所得を説明変数に加えた分析を実施したが、夫の失業経験が離婚確率を上昇させる傾向に変化は見られなかった。この結果から、所得以外の失業の効果が離婚確率を上昇させると考えられる。この所得以外の失業の効果として、Charles and Stephens (2004) が指摘するように、失業がスティグマとして認識され、結婚相手としての適性に関する負のシグナルになっている可能性がある。

JEL Classification Number:J12, J13, J23
Key Words:離婚、夫の失業、慶應義塾家計パネル調査


(資 料)

日本経済再生に関する3研究所共同公開セミナー
―内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合政策研究所、独立行政法人経済産業研究所―(概要)
編集:経済社会総合研究所

概要は以下のページをご覧ください。
日本経済再生に関する3研究所共同公開セミナー ―内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合政策研究所、独立行政法人経済産業研究所―


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

海外市場情報と輸出開始:情報提供者としての取引銀行の役割別ウィンドウで開きます。(PDF形式 796 KB)

乾 友彦・伊藤 恵子・宮川 大介・庄司 啓史

  1. 3ページ
    1.はじめに
  2. 5ページ
    2.分析手法
  3. 7ページ
    3.データおよび記述統計
  4. 12ページ
    4.推定結果
  5. 19ページ
    5.おわりに
  6. 20ページ
    参考文献

地方交付税制度が徴収率に与える効果の推定
—行革インセンティブ算定の効果と交付税制度に内在する歪みの検証—別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 2.33 MB)

石田 三成

  1. 24ページ
    1.はじめに
  2. 25ページ
    2.先行研究
  3. 26ページ
    3.行革インセンティブ算定の概要
  4. 27ページ
    4.徴収率の現状:現年分比率との関係
  5. 31ページ
    5.理論的背景
  6. 34ページ
    6.推定
  7. 41ページ
    7.おわりに
  8. 42ページ
    参考文献

サポートベクターマシンを用いた世界各国の幸福度の決定要因の実証分析別ウィンドウで開きます。(PDF形式 880 KB)

田辺 和俊・鈴木 孝弘

  1. 46ページ
    1.はじめに
  2. 48ページ
    2.幸福度と各種指標との相関分析
  3. 54ページ
    3.サポートベクターマシンによる幸福度決定要因分析
  4. 59ページ
    4.結論
  5. 60ページ
    参考文献

税制と海外子会社の利益送金―本社資金需要からみた「2009年度改正」の分析―別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.37 MB)

田近 栄治・布袋 正樹・柴田 啓子

  1. 70ページ
    1.はじめに
  2. 73ページ
    2.国外所得免除方式への移行とその背景
  3. 75ページ
    3.データと予備的分析
  4. 82ページ
    4.税制改正以外の要因を考慮した推定
  5. 90ページ
    5.おわりに
  6. 91ページ
    参考文献

民営職業紹介、公共職業紹介のマッチングと転職結果別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.16 MB)

小林 徹・阿部 正浩

  1. 95ページ
    1.はじめに
  2. 96ページ
    2.先行研究の整理と本研究の位置づけ
  3. 98ページ
    3.なぜ民営職業紹介と公共職業紹介で転職結果が異なりうるのか
  4. 102ページ
    4.分析に使用するデータと具体的分析の枠組み
  5. 106ページ
    5.分析結果
  6. 115ページ
    6.むすびにかえて
  7. 117ページ
    参考文献

夫の失業が離婚に及ぼす影響別ウィンドウで開きます。(PDF形式 735 KB)

佐藤 一磨

  1. 121ページ
    1.問題意識
  2. 124ページ
    2.先行研究
  3. 127ページ
    3.データ
  4. 128ページ
    4.理論モデル
  5. 131ページ
    5.推計手法
  6. 135ページ
    6.推計結果
  7. 139ページ
    7.結論
  8. 140ページ
    参考文献

(資料)

日本経済再生に関する3研究所共同公開セミナー
—内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合政策研究所、独立行政法人経済産業研究所—(概要)別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 445 KB)

編集:経済社会総合研究所

  1. 145ページ
    セッション1:報告
  2. 148ページ
    セッション2:パネルディスカッション
  3. 155ページ
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)