1980年代後半より、我が国の製造業企業はその生産拠点を東アジア諸国、すなわち、中国やタイなどの低賃金国に、積極的に移転させている。その結果、これらの地域から輸入が急増している。こうした輸入の拡大等を通じたグローバリゼーションの急速な進展は、政策担当者の間で大きな関心事になってきた。なぜなら、その進展は、製造業のなかでも特に労働集約的な業種が集中している地域において、その労働需要を急激に減退させる可能性があるからである。本研究では、事業所(工場)レベルの個票データを用いて、低賃金国からの輸入が、集積地域における雇用成長や工場閉鎖に及ぼす影響について、詳細にかつ、定量的に評価しようとするものである。
本論文における実証分析からは、低賃金国からの輸入競争が工場の雇用成長率に負の影響を与えるが、工場の生産性が高くなるほどその影響は小さくなること、グローバリゼーションの高まりとともに川上産業集積や産業内集積が工場の雇用成長率や工場閉鎖確率で見たパフォーマンスに強く影響を与えていること、などの事実が明らかとなった。
JEL Classification Number: R12; R34; F14; L25; L60
Key Words: 低賃金国からの輸入競争、製造業の事業所、経済地理、パネル・データ
総合学科は、普通教育と職業教育を総合的に施す学科として1994年に制度化され、現高等学校教育改革の中心的施策として、その設置が全国的に進められている。総合学科の誕生により、現在の日本の高等学校教育においては、普通科・専門(職業)学科によるトラッキング・カリキュラム教育と、総合学科によるコンプリヘンシブ・カリキュラム教育の共存状態が生まれている。総合学科は既存の学科に比べ、生徒のニーズと教育内容とのマッチングに優れたカリキュラムを提供し、生徒の教育達成度向上を促すことが期待される。本論文は、総合学科設置がそれら政策目標の一つである、生徒の中途退学抑制(学校定着)に及ぼした影響について、計量経済学的検証を行う初めての試みである。具体的には、異なるカリキュラム制度の混在する現在の状況を利用し、総合学科設置によるコンプリヘンシブ・カリキュラムの運営が生徒の中途退学行動に及ぼした影響について、1988年から2006年における東北・北陸地方8県の学校・学科・学年レベルのパネルデータを用いて、最小二乗法や固定効果・変量効果モデル等の手法により推計を行った。分析の結果、公立高校においては総合学科制度が生徒の中途退学行動を大きく抑制する効果が確認されたが、私立高校においてはその効果を確認することができなかった。
JEL Classification Number: H75, I28, I29
Key Words: 総合学科、高校中退、トラッキング
本稿の目的は、相対所得という概念を用いて所得や養育費の出産に与える効果を分析することにある。この効果を分析するために、2つの仮説の検証を行った。第1に、自分の準拠集団(同一地域、同一学歴、同一年齢)の平均世帯収入と自分の世帯収入の差を相対所得と定義し、相対所得が子ども数に与えるという仮説である。また、自分の準拠集団の平均世帯収入と比べて自分の世帯収入が高い場合と低い場合では効果が異なると考えられるために、それらを分けて考察する。第2に、相対所得が養育費に影響し、さらに養育費が子どもをさらに産むかどうかの選択に影響するという仮説である。
本稿の実証分析の結果、以下のことが示された。第1に、準拠集団ごとに養育費や子ども数が異なり、母親が高学歴であるほど一人あたり養育費が高くなる。一方、子ども数は少なくなる傾向が観察された。第2に、相対的低収入層では、本人世帯収入が平均世帯収入に近づくと出生確率を上昇させるが、本人や配偶者の絶対収入は出生確率に負の影響を与える。このため、一律的な所得保障が出生率の上昇をもたらす効果は少ない。ただし、相対的低収入層に対して平均収入との格差を埋める政策については、出生率を上昇させる効果が確認される。第3に、相対収入が高いと養育費が高くなり、その結果、出生確率が低下する。
これらの実証分析から、一律的な所得保障は相対所得を変化させないため出生確率を上昇させない可能性が高いこと、逆に養育費を低下させる政策は出生確率を上昇させる可能性があることが示された。
JEL Classification Number: J13, J18, D31
Key Word: 出生行動、相対所得、養育費
本稿では、外国人研修生・技能実習生を受入れる企業に着目し、受入企業の特徴を、地域・産業の平均賃金や平均労働生産性との比較によって明らかにする。産業レベルでは、外国人研修生・技能実習生を多く受入れる産業ほど、従業員の賃金水準が低いことを実証する先行研究が多い。しかし、外国人研修生・技能実習生を外部労働市場労働者とみなすとき、内部労働市場労働者としての日本人正規従業員の賃金水準の高低は、理論上、明らかでない。そこで、受入企業が、2つのパターン―①定型的作業を外国人研修生・技能実習生に割り振りつつ、熟練を要する仕事には留保賃金の高い日本人労働者を活用して高い生産性を達成するケース、②提示賃金に応じる日本人労働者では必要労働力を確保できず、操業継続のために外国人研修生・技能実習生を使うケース―に大別されると考え、両仮説の妥当性の検証と該当企業の識別を試みる。実証分析では、JITCOが発行する出版物等から外国人研修生・技能実習生受入企業約550社を特定し、ハローワークの求人データベースと工業統計調査の個票をマッチングしたデータを使用する。分析の結果、賃金競争力や労働生産性の低い企業を中心に彼らを活用する傾向がある一方で、地域・産業平均以上の賃金を提示したり、産業平均以上の労働生産性を達成する受入企業がサンプル中3-4割程度存在することも同時にわかった。こうした高生産性企業では、実習生等と日本人従業員とが効率的に業務を分担することで高い生産性を達成している可能性が示唆される。
JEL Classification: J15, J18, J31
Key Words: 外国人研修生・技能実習生、生産性、求人賃金
現在の日本経済を特徴づける現象として「サービス化」および「情報化」がある。「情報化」という時代の流れに対応し、2005年の産業連関表では、産業部門の統合大分類の中に新たに「情報・通信機器」と「情報通信」が登場している。このような産業分類の変更により、産業連関を通じた情報化の影響がより正確に把握できるようになった。本研究では、日本経済を特徴づける「サービス化」と「情報化」の2つの現象に注目し、これら2つの関わりを産業連関の観点から明らかにしていきたいと考えている。そのために、本研究では、分析モデルとして宮澤健一が考案した物財産業・サービス産業の相互交流モデルを使用する。
筆者は、医療経済研究機構が事務局となって実施された平成21年度厚生労働科学研究費補助金政策科学推進研究事業「医療と介護・福祉の産業連関に関する分析研究」に参加したが、本研究で使用するデータはこの研究プロジェクトで推計されたデータである。この研究プロジェクトの分析対象は医療や介護等の産業であるが、情報関連の産業も分離・独立させてあり、情報関連の産業の分析も可能となっている
本研究では、60の産業部門からなる2005年の産業連関表を使用し、60の産業部門の中から「情報・通信機器」、「通信」、「放送」、「その他の情報通信」の4部門を情報通信関連の産業と位置づけ、サービス化との関連を分析した。「通信」、「放送」、「その他の情報通信」の3部門は、統合大分類の「情報通信」を3つに分割したものである。分析結果によると、4部門のうち「通信」、「放送」、「その他の情報通信」は、サービス産業との関連が強く、サービス化の起点および終点としてサービス化に大きく関係していた。とりわけ、「放送」は起点としての効果が大きく、「その他の情報通信」は終点としての効果が大きいことが明らかになった。
JEL Classification Number: C67,L80,L86
Key Words:情報化、サービス化、産業連関分析
| (論文) | |
| 輸入競争と集積が雇用・工場閉鎖に及ぼす影響について | |
| 乾 友彦・枝村一磨・松浦寿幸 | |
| 1. はじめに | 3 |
|---|---|
| 2. 先行研究 | 4 |
| 3. 推計モデルと変数 | 6 |
| 4. 推計結果 | 10 |
| 5. 結論 | 15 |
| 補論データの概要 | 16 |
| 参考文献 | 19 |
| 総合学科設置(コンプリヘンシブ・カリキュラム)が高等学校生徒の中退行動に与えた影響の計量分析 | |
| 荒木宏子 | |
| 1. はじめに | 24 |
|---|---|
| 2. 総合学科設置事業と設置校の現状 | 26 |
| 3. 既存研究 | 27 |
| 4. モデルとデータ | 31 |
| 5. 分析結果 | 37 |
| 6. むすび | 41 |
| 参考文献 | 42 |
| 相対所得が出産に与える影響 | |
| 松浦 司 | |
| 1. はじめに | 48 |
|---|---|
| 2. 先行研究 | 49 |
| 3. 作業仮説、分析方法について | 51 |
| 4. 準拠集団と子ども数や養育費の関係について | 54 |
| 5. 推定結果1 | 57 |
| 6. 推定結果2 | 60 |
| 7. 結論と今後の課題 | 63 |
| 参考文献 | 64 |
| (研究ノート) | |
| 外国人研修生・技能実習生受入企業の賃金と生産性に関する一考察 | |
| 橋本由紀 | |
| 1. はじめに | 69 |
|---|---|
| 2. 外国人研修・技能実習制度の概況 | 70 |
| 3. 労働需要モデルと仮説 | 73 |
| 4. データ | 77 |
| 5. 実証分析 | 81 |
| 6. おわりに | 88 |
| 参考文献 | 89 |
| 情報化とサービス化の産業連関分析 | |
| 塚原康博 | |
| 1. 序論 | 94 |
|---|---|
| 2. 2005年表における産業分類の変更点 | 94 |
| 3. 使用データ | 95 |
| 4. 産出構造 | 96 |
| 5. 投入構造 | 98 |
| 6. 分析モデル | 100 |
| 7. 分析結果 | 102 |
| 8. 結論 | 112 |
| 参考文献 | 113 |
| (資料) | ||
| バブル/デフレ期の日本経済と経済政策研究 -オーラル・ヒストリーに見る時代認識- | ||
| 石川知宏 | ||
| 1. はじめに | 115 | |
|---|---|---|
| 2. 「バブル/デフレ研究」オーラル・ヒストリーから | 116 | |
| 3. おわりに | 126 | |
| 参考文献 | 126 | |
| 経済社会総合研究所の概要と実績 | 127 |
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