経済分析第192号
経済分析第192号(ジャーナル版)

平成29年3月
(論文)
所得分配が経済成長に与える影響—都道府県別パネルデータを用いた実証研究—
大山 昌子(龍谷大学経済学部准教授)
失業経験が健康に及ぼす影響
佐藤 一磨(拓殖大学経済学部准教授)
PFI事業におけるVFMと事業方式に関する実証分析—日本のPFI事業のデータを用いて—
要藤 正任(京都大学経済研究所先端政策分析研究センター特定准教授)
溝端 泰和(帝塚山大学経済学部講師)
林田雄介(国土交通省土地・建設産業局建設業課)
(資料)
デジタル時代を迎えた今も、GDPは正しく計測されているか?(仮訳)
Nadim AHMAD(OECD統計局)
Paul SCHREYER(OECD統計局)
ESRI国際コンファレンス
「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」(概要)
編集 経済社会総合研究所
マネジメントに関する調査研究について
杉原 茂(内閣府経済社会総合研究所次長)

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

所得分配が経済成長に与える影響—都道府県別パネルデータを用いた実証研究—

龍谷大学経済学部准教授/大山昌子

所得分配と経済成長に関する理論研究や実証研究は数多く存在する。理論的には、所得分配が経済成長に与える影響は正負両方の効果があり、どちらが大きいかは実証的な問題となる。既存の実証研究によると、所得分配が経済成長に与える影響の推定結果は、データや推定方法によって異なっている。そのため、本稿では、日本の1979年から2010年の都道府県別パネルデータを用い、所得分配がどのように経済成長に影響を与えたかに関する実証分析を行った。

ジニ係数等の所得分配の指標を用い、システムGMM推定及びArellano-Bond GMM推定等を行った結果、ジニ係数、第3五分位の所得シェア、所得が最も多い十分位の所得シェアと第5十分位の所得シェアの比率を用いると、所得分配が平等なことは経済成長率を高めていたことがわかった。一方、所得が最も少ない十分位の所得シェアと第5分位の所得シェアの比率は、成長率に有意な影響を与えていなかった。このように、異なる所得水準において、所得分配の平等度が経済成長に与える影響が異なるという結果は、既存研究の推定結果と整合的であり、頑健であると考えられる。

今後の研究においては、分配の平等さはどのように経済成長に影響を与えるのか、その経路について分析する必要があると考えられる。次のステップとして、例えば、教育に対する公的な支出や大学進学率、資本蓄積等を通じた経路について、推定していきたいと考えている。

JEL Classification Number: D31, O47, C23
Key Words:所得分配、経済成長、パネルデータ


失業経験が健康に及ぼす影響

拓殖大学経済学部准教授/佐藤一磨

本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査』を用い、失業が健康に及ぼす影響を検証することである。バブル崩壊以降、我が国の労働市場の需給状況は急速に悪化し、失業者が増加した。失業は、さまざまな影響を及ぼすと考えられるが、所得の大幅な低下や社会的地位の喪失によるストレスの発生によって、健康状態の悪化も引き起こした可能性がある。海外では多くの研究の蓄積があるものの、国内ではまだ研究例が少なく、明らかになっていない点も多い。そこで、本稿では失業経験が健康に及ぼす影響を分析した。先行研究と比較した際の本稿の特徴は、(1)失業と健康の逆の因果関係による影響を考慮するために、事業所閉鎖・会社倒産・その他勤め先や事業の都合による失職のみを分析に使用した、(2)健康指標として主観的健康度、主観的身体指標、主観的精神指標を使用し、さまざまな健康面に失職が及ぼす影響を検証した、(3)男女別に推計を行い、性別によって失業が健康に及ぼす影響に違いが見られるのかといった点も検証した、という3点である。分析の結果、次の2点が明らかになった。1点目は、男性では主観的健康度、主観的身体指標、主観的精神指標のほとんどの場合において、失職によって健康状態が悪化する傾向を確認できなかった。男性の場合、失職によって所得が持続的に低下し、大きな影響を受けるものの、各健康指標が悪化するまでではないと言える。2点目は、女性では主観的健康度と主観的精神指標のすべての場合において、失職によって健康状態が悪化する傾向を確認できなかった。しかし、失職2年後、失職3年後の主観的身体指標が改善する傾向があった。おそらく、この背景には失職後に運動実施割合が増加することが影響を及ぼしていると考えられる。

JEL Classification Number:J32, J63, J64
Key Words:失職、健康悪化、Propensity Score Matching法


PFI事業におけるVFMと事業方式に関する実証分析—日本のPFI事業のデータを用いて—

京都大学経済研究所先端政策分析研究センター特定准教授/要藤正任

帝塚山大学経済学部講師/溝端泰和

国土交通省土地・建設産業局建設業課/林田雄介

本稿の目的は、我が国のPFI事業における事業分野や事業方式の違いがVFM (Value For Money) に与える影響を、不完備契約に基づいた研究成果を踏まえて検証することにある。近年の不完備契約理論では、事業分野や事業方式の違いが民間事業者のインセンティブに異なる働きかけを行い、結果、PFIの効率性には事業分野ごとに適切な所有権の配分が必要であると指摘されている。本稿では、このような仮説を現実のデータをもとに検証し、最適な事業分野と事業方式の組み合わせについて定量的分析を行うことを目的としている。

具体的には、2014年3月までに実施方針が公表されたPFI事業のうち、VFM等のデータが入手可能な312事業を対象に分析を行った。結果、浄水場や下水道などのサービス系事業においては、施設の運営権者が施設を保有するBOT方式を採用した方が建設後に所有権を公共側に移転するBTO方式に比べてVFMが大きくなることが明らかとなった。逆に、庁舎等の箱物系事業においては、BTO方式を採用した場合の方がVFMは大きくなる。また、推定結果を用いて望ましい事業方式を選択していた場合のVFMの変化を試算したところ、適切な事業方式を選択することで400億円以上ものVFMの増加が期待できるという結果が得られた。このことは、今後PFI事業を実施するにあたって事業分野に応じて適切な事業方式を選択しなければならないことを示唆している。

JEL Classification Number: D86, H54, H57
Key Words: PFI、VFM、不完備契約、BTO方式、BOT方式


(資 料)

デジタル時代を迎えた今も、GDPは正しく計測されているか?(仮訳)

OECD統計局/Nadim AHMAD, Paul SCHREYER

(抜 粋)

近年、時として過去との断絶をもたらすような新たな情報通信技術(ICT)の台頭が目覚ましい。この種の技術にはデジタル経済(OECD 2015a)と特徴付けられる新しい形の仲介、サービス提供、消費が伴っており、私たちの働き方や生き方そのものが日々新たな意味を与えられ、変革されている。しかし、デジタル経済がこれほど広く浸透しているにもかかわらず、その効果がOECDの各種統計にほとんど表れないことを懸念する声も強まっている。ビッグデータを始めとする新たなデジタルイノベーションによって、例えばかつての電力化や1990年代のICTの波と同じように、生産性が飛躍的に向上する時代が再び来ると考えられてきた。しかし少なくとも現時点では、そのような状況は実現しておらず、多くの疑問が湧き上がっている。そうした疑問のあるものは、これらの新技術が生産性向上や経済成長を促進するに当たって果たす役割、例えば、潜在的な便益が顕在化するのにタイム・ラグがあるのかどうかや、便益を最大限引き出すための仕組みや政策手段のあり方を良く理解する必要があることに起因する疑問である。しかし、多くのものは、そしてますますそうなっているが、計測に関係する問題である。

(中略)

本論文では、デジタル経済を特徴付ける各種取引に注目して、どの程度、計測が不正確であるのかについて考察する。


ESRI国際コンファレンス「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」(概要)

編集 経済社会総合研究所

日 時:平成28年8月2日(火)

場 所:アジア開発銀行研究所大会議室(霞が関ビルディング8階)

急速な高齢化の進展、中でも団塊世代の引退は経済社会に大きな影響を及ぼすものであり、重要な政策課題となっている。当研究所では、団塊世代の引退をはじめとした日本の高齢化に関する課題への対応策について論じるため、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。


マネジメントに関する調査研究について

内閣府経済社会総合研究所次長/杉原 茂

(抜 粋)

本資料では、経済社会総合研究所の生産性ユニットが一橋大学と共同で取り組んでいるマネジメントに関する調査について紹介する。まず、第1章で生産性を分析する上でのマネジメントの重要性と本調査の基本的考え方を示す。ついで、第2章で先行研究を紹介した後、先行するアメリカでのマネジメント調査とそれを受けた日本における調査の概要を第3章で提示する。さらに、第4章で内外の研究者・実務者を集めて開催した本調査のキック=オフ・ミーティングの様子を紹介し、最後に第5章で、経済の大きな流れの中でのマネジメントのあり方についての若干の所感を述べる。


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

所得分配が経済成長に与える影響—都道府県別パネルデータを用いた実証研究—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 620 KB)

大山 昌子

  1. 3
    1.はじめに
  2. 5
    2.データ
  3. 8
    3.推定
  4. 14
    4.結論
  5. 18
    参考文献

失業経験が健康に及ぼす影響別ウィンドウで開きます。(PDF形式 751 KB)

佐藤 一磨

  1. 22
    1.問題意識
  2. 23
    2.先行研究
  3. 25
    3.データ
  4. 26
    4.推計方法
  5. 32
    5.推計結果
  6. 39
    6.結論
  7. 41
    補論
  8. 42
    参考文献

PFI事業におけるVFMと事業方式に関する実証分析—日本のPFI事業のデータを用いて—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 650 KB)

要藤正任・溝端泰和・林田雄介

  1. 47
    1.はじめに
  2. 48
    2.先行研究
  3. 51
    3.分析に用いるデータ
  4. 54
    4.VFMの決定要因に関する計量分析
  5. 65
    5.まとめ
  6. 66
    参考文献

(資料)

デジタル時代を迎えた今も、GDPは正しく計測されているか?(仮訳)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 543 KB)

Nadim AHMAD・Paul SCHREYER

  1. 67
    1.はじめに—デジタル経済
  2. 68
    2.消費者間(ピア・トゥー・ピア)のサービスの新たな仲介の形態
  3. 72
    3.生産者としての消費者:生産の境界のあいまい化
  4. 73
    4.耐久消費財と投資
  5. 74
    5.無料または補助金つきの消費者向け商品
  6. 77
    6.家庭が生産する無料資産
  7. 78
    7.知的財産や知識ベース資産の国境を越えたフロー
  8. 79
    8.電子商取引
  9. 80
    9.価格と数量
  10. 83
    10.結論
  11. 84
    参考文献

ESRI国際コンファレンス
「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」(概要)別ウィンドウで開きます。
(PDF形式 696 KB)

編集 経済社会総合研究所

  1. 89
    特別セッション:需要と供給―アメリカと日本の経験から
  2. 95
    第1セッション:団塊の世代引退の経済的影響
  3. 98
    第2セッション:団塊の世代が引退し、医療・介護需要が増大することが労働市場に与える影響
  4. 106
    第3セッション:日本において人口の高齢化が家計の貯蓄とポートフォリオ選択に与える影響
  5. 113
    第4セッション:米国専門家が見る日本の団塊世代引退の影響
  6. 118
    第5セッション:パネルディスカッション「日本における高齢化」
  7. 124
    (参考)発言者一覧

マネジメントに関する調査研究について別ウィンドウで開きます。(PDF形式 697 KB)

杉原 茂

  1. 125
    1.生産性とマネジメント
  2. 128
    2.マネジメントについての先行研究
  3. 134
    3.マネジメント調査の実施
  4. 138
    4.国際コンファレンスの開催
  5. 139
    5.経済の新たな動きとマネジメント
  6. 142
    [コラム] 価格差別化と地方展開
  7. 143
    参考文献

経済社会総合研究所の概要と実績別ウィンドウで開きます。(PDF形式 371 KB)

  1. 146
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