経済分析第197号
経済分析第197号(ジャーナル)

平成30年3月
(論文)
中国輸出企業の特徴
伊藤 恵子(専修大学経済学部教授)
乾 友彦(学習院大学国際社会科学部教授)
権 赫旭(日本大学経済学部教授)
戸堂 康之(早稲田大学政治経済学術院教授)
日本人の寿命が延びた経済価値はどれだけか?—経済成長の成果の一試算—
河越 正明(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
ソーシャル・キャピタルが地方創生に与える影響
—市区町村GIS データによる空間計量経済分析—
田中 勝也(滋賀大学環境総合研究センター教授)
中野 桂(滋賀大学経済学部教授)
道上 浩也(滋賀大学環境総合研究センター客員研究員)
夫の失業は出産を抑制するのか
佐藤 一磨(拓殖大学政経学部准教授)
結婚が家計の労働供給に与える影響
湯川 志保(帝京大学経済学部講師)
(資料)
ESRI国際コンファレンス「世界的な低成長と政策対応」(概要)
ESRI International Conference 2017
“The Global Decline in Growth Rate and Possible Policy Responses”
編集 経済社会総合研究所
「日本経済と経済政策に係る国民一般及び専門家の認識と背景に関する調査」について
—調査の概要と簡易集計結果の紹介—
梅田 政徳(消費者庁消費者教育・地方協力課課長補佐)
川本 琢磨(内閣府経済社会総合研究所研究官)
堀 雅博(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

中国輸出企業の特徴

専修大学経済学部教授/伊藤 恵子

学習院大学国際社会科学部教授/乾 友彦

日本大学経済学部教授/権 赫旭

早稲田大学政治経済学術院教授/戸堂 康之

中国経済や企業のダイナミクスを理解する上で重要なことは、企業の輸出行動を理解することである。特に外資系企業の役割を分析することが重要である。本論文は、中国企業の輸出市場への参入・退出、生産性向上のダイナミクスに関する研究を行う。その際、国内企業と外資系企業とに分けてその特徴を分析した。使用したミクロデータは、中国の工業統計の2000年から2007年におけるパネルデータで、全ての国有企業と年間売上高500万元以上の非国有企業を対象としたものである。中国企業は生産性が低い企業も含めて2000年代の輸出ブームに乗って輸出市場に参入した企業の数は多かったものの、輸出額の少ない企業の多くはすぐに市場から退出した。その結果、中国の輸出市場は少数の大企業への集中度が高まっていた。

JEL Classification Codes:F14、O14、O30

Keywords:中国企業、輸出、生産性、パネルデータ


日本人の寿命が延びた経済価値はどれだけか?—経済成長の成果の一試算—

内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官/河越 正明

1970年から2005年までの35年間に日本人の健康状態は大きく改善し、世界有数の長寿国となった。この寿命の延びは経済成長の成果として語られることも多い(例えば吉川(2003))。本稿はその価値を、Murphy and Topel(2003,2006)に倣って、同期間の死亡率の低下に対する支払意思(WTP, willingness-to-pay)を試算することで定量化した。この価値は2005年時点で年間165兆円程度と、対GDP比でみて約3割に達すると試算された。

ただし、若年者及び高齢者の消費に関する仮定次第では、推計値が2割程度大きくなる。また、割引率や効用関数のパラメータの設定がこの推計値に大きく影響することから、これらの値を変化させた場合にWTPがどのように変化するかを示した。さらに人口要因がWTPに与える影響を分析し、1970年時点から人口が増加したこと、少子高齢化が進んだことが、年率換算でWTPをそれぞれ30兆円、20兆円程度増加させることを示した。2040年までを展望すると、生存率の改善の頭打ちと人口減少から年率で60兆円程度まで減少すると考えられる。

なお、死亡率の低下に要した医療費はWTPの10分の1以下であるが、寿命の延伸には医療のみならず、例えば衛生状態や食生活の改善など広範な範囲も費用と考えることも可能であることから、費用便益分析としては、この分析を第一歩として改善していく必要がある。

JEL Classification Codes:I10, D61

Keywords:寿命、支払意思額(WTP)、健康


ソーシャル・キャピタルが地方創生に与える影響—市区町村GISデータによる空間計量経済分析—

滋賀大学環境総合研究センター教授/田中 勝也

滋賀大学経済学部教授/中野 桂

滋賀大学環境総合研究センター客員研究員/道上 浩也

今後予想される急速な人口減少社会の到来をふまえ、地方創生のもとで人口減少の抑制や、地域活性化にむけた議論が活発化している。本研究では、ソーシャル・キャピタル(SC)をはじめとする経済・社会的要因が、地方創生に与える影響とその波及効果に着目し、2010年の市区町村GISデータによる横断面分析をおこなった。推計では、市区町村間における空間依存性(空間自己相関)を考慮し、人口動態(転入率、転出率)および経済パフォーマンス(納税者1人あたり課税対象所得)について、空間ダービンモデルによる推計を個別におこなった。分析の結果、自治体におけるSCの水準(人口1,000人あたりNPO法人数)は、転入率および納税者1人あたり課税対象所得について、正で有意の影響が示された。また、SCが周辺の近隣自治体に与える波及効果(スピルオーバー)も、経済パフォーマンスにおいて正で有意であることが確認された。また、いずれの目的変数においても正で有意な空間自己相関が認められることから、自治体の人口動態・経済パフォーマンスの水準は、近隣自治体の影響を受けていることが示された。このことから、地方創生にむけた政策立案は自治体ごとに個別におこなうよりも、自治体間の相互関係や波及効果を考慮した、広域的な視点による検討が重要と考えられる。

JEL Classification Codes:R11; R15; R58

Keywords:空間ダービンモデル; ソーシャル・キャピタル; 地域活性化; 地方創生;波及効果


夫の失業は出産を抑制するのか

拓殖大学政経学部准教授/佐藤 一磨

本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査(KHPS)』の就業履歴から作成した回顧パネルデータを用い、夫の失業が出産に及ぼす影響を検証することである。Fixed Effect Logit分析、Random Effect Logit分析、線形確率モデルによるFixed Effect OLS、Random Effect OLSによる分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、いずれの推計手法でも、夫の失業1年後に出産確率が抑制されることがわかった。この背景には失業直後の大幅な所得低下が大きな影響を及ぼしていると考えられる。しかし、長期的にはその抑制効果を確認できなかった。2点目は、いずれの推計手法でも、夫が低学歴である場合にのみ失業による出産抑制効果が観察されることがわかった。この背景には夫が低学歴層である場合ほど再就職が困難であり、失業が家計に与える負のショックが大きいためだと考えられる。3点目は、夫の失業期間が長いほど、出産確率が抑制されることがわかった。

JEL Classification Codes:J12,J13,J60

Keywords:出産、夫の失業、回顧パネルデータ


結婚が家計の労働供給に与える影響

帝京大学経済学部講師/湯川 志保

本稿は、慶應義塾大学パネル設計・解析センターが実施している「慶應義塾家計パネル調査」を用いて、結婚が家計の労働供給に与える影響について分析をおこなった。分析の結果から、個人の観察されない時間一定の効果をコントロールしたとしても、結婚は男性の労働時間に対して正の、女性の労働時間に関して負の影響を与えることが示された。この結果を踏まえ、さらに本稿では、結婚による労働時間の変化が、Becker の分業仮説と整合的であるかを確認するために、比較優位の代理変数として夫婦間の学歴差を用いて分析を行った。分析の結果、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方がそうでない夫婦に比べて、結婚による男性の労働時間の増加は大きいが、その差は有意ではないことが示された。一方、女性に関しては、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方が同学歴の夫婦に比べて、結婚による女性の労働時間の減少が大きく、その差は有意であることが示された。さらに、夫婦間の学歴差が、既婚男性の妻の労働時間や就業に与える影響についても分析をおこなった結果、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方が妻の学歴が夫の学歴よりも高い夫婦に比べて、妻の労働時間は少なく、就業しない傾向にあることが明らかになった。これは、学歴差の大きい夫婦ほど女性が家庭内労働に特化していることが考えられ、Becker の分業仮説と整合的である。また、これらの結果から、結婚による家計の時間配分の調整が主に妻の時間配分の変化を通じて行われていることが示唆される。

JEL Classification Codes:J12, J22

Keywords:結婚、家計の労働供給、家庭内分業


(資料)
ESRI国際コンファレンス「世界的な低成長と政策対応」(概要)
ESRI International Conference 2017
“The Global Decline in Growth Rate and Possible Policy Responses”

編集 経済社会総合研究所

日 時:平成29 年8 月1 日(火)

場 所:アジア開発銀行研究所会議室(霞が関ビル8階)

近年、経済成長率が世界的に低下しつつある中で、成長力の底上げが重要な政策課題となっている。当研究所では、低成長の要因や成長力の底上げのための対応策について論じるため、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。


「日本経済と経済政策に係る国民一般及び専門家の認識と背景に関する調査」について—調査の概要と簡易集計結果の紹介—

消費者庁消費者教育・地方協力課課長補佐/梅田 政徳

内閣府経済社会総合研究所研究官/川本 琢磨

内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官/堀 雅博

実効性ある経済政策の企画・立案、及びその円滑な実施には、経済の現状や各種の政策を実施した場合にその施策が経済に与える影響(方向性、大きさ等)についての認識に係る合意形成努力が必要である。そのためには、各種論点について、1国民各層間、2専門家間、更に3専門家と国民一般の間、等でどのような認識のバラつきがあるか(はたまたコンセンサスはどのあたりにあるか)を把握しておくことが有益だろう。

本稿では、そうした問題意識の下、内閣府経済社会総合研究所が、2016年末から2017年春にかけ、一般の男女、及び日本経済の専門家(エコノミスト)を対象に実施した「日本経済と経済政策に係る国民一般及び専門家の認識と背景に関する調査」の概略を紹介し、そのうちの主だった設問について、簡単な集計結果を報告する。

報告内容は暫定的なものであり、今後、よりフォーマルな検証が必要だが、1日本経済の現状とマクロ経済政策の効果に係る専門家の認識が、少なからぬ点で、一般の回答者の認識とは体系的に乖離していること、2専門家の間では、一部の例外を除き、学歴や専攻、所属機関等に関連する体系的な分断は生じておらず、ある程度の「コンセンサス」が存在していること、等が読み取れた。

JEL Classification Codes:A11, E50, E60, H50, H60

Keywords:日本経済、マクロ経済政策、エコノミストアンケート


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(論文)

中国輸出企業の特徴別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.03 MB)

伊藤 恵子・乾 友彦・権 赫旭・戸堂 康之

  1. 3
    1.はじめに
  2. 4
    2.輸出企業に関する先行研究の概観
  3. 8
    3.本論文で使用するデータ
  4. 10
    4.中国の輸出企業の効果
  5. 24
    5.おわりに
  6. 25
    参考文献

日本人の寿命が延びた経済価値はどれだけか?—経済成長の成果の一試算—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.10 MB)

河越 正明

  1. 30
    1.はじめに
  2. 31
    2.理論的な設定
  3. 33
    3.試算
  4. 41
    4.人口要因に関する考察
  5. 44
    5.費用便益分析
  6. 49
    6.結び
  7. 50
    参考文献
  8. 51
    付録 使用データの詳細

ソーシャル・キャピタルが地方創生に与える影響—市区町村GISデータによる空間計量経済分析—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.60 MB)

田中 勝也・中野 桂・道上 浩也

  1. 55
    1.はじめに
  2. 57
    2.分析手法
  3. 63
    3.分析結果
  4. 66
    4.結論
  5. 68
    参考文献

夫の失業は出産を抑制するのか別ウィンドウで開きます。(PDF形式 929 KB)

佐藤 一磨

  1. 72
    1.問題意識
  2. 73
    2.先行研究
  3. 75
    3.データ
  4. 77
    4.推計手法
  5. 81
    5.推計結果
  6. 88
    6.結論
  7. 89
    参考文献

結婚が家計の労働供給に与える影響別ウィンドウで開きます。(PDF形式 908 KB)

湯川 志保

  1. 95
    1.はじめに
  2. 96
    2.先行研究
  3. 99
    3.理論仮説
  4. 99
    4.推定方法とデータ
  5. 103
    5.推定結果
  6. 111
    6.結論
  7. 112
    参考文献

(資料)

ESRI国際コンファレンス「世界的な低成長と政策対応」(概要)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 990 KB)

編集 経済社会総合研究所

  1. 115
    基調講演:世界的な低成長と政策対応
  2. 120
    第1セッション:財政政策の効果
  3. 125
    第2セッション:日本の財政状況
  4. 130
    第3セッション:女性の活躍について
  5. 136
    第4セッション:パネルディスカッション
  6. 143
    (参考)発言者一覧

「日本経済と経済政策に係る国民一般及び専門家の認識と背景に関する調査」について—調査の概要と簡易集計結果の紹介—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 4.75 MB)

梅田 政徳・川本 琢磨・堀 雅博

  1. 146
    1.はじめに
  2. 147
    2.調査概要
  3. 148
    3.調査結果(主たる設問への回答の単純集計)
  4. 163
    4.おわりに
  5. 164
    参考文献

経済社会総合研究所の概要と実績別ウィンドウで開きます。(PDF形式 342 KB)

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