経済分析第199号
経済分析第199号(特別編集号)

令和元年6月
(エディトリアル)
潜在成長力の強化:人的・人材資本とイノベーション
川口 大司(東京大学大学院経済学研究科教授)
(論文)
コーポレート・ガバナンス構造の変化と人的資本投資
北川 章臣(東北大学大学院経済学研究科教授)
大学と大学院の専攻の賃金プレミアム
安井 健悟(青山学院大学経済学部准教授)
企業内部の能力形成とその効果—OJTとOFF–JTの相乗効果に関する分析—
戸田 淳仁(慶応義塾大学産業研究所客員研究員)
認知能力・非認知能力スコアを用いた人材活用
乾 友彦(学習院大学国際社会科学部教授)
児玉 直美(日本大学経済学部教授)
園田 友樹(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 アセスメント開発部 部長)
横山 泉(一橋大学経済学研究科准教授)
内藤 淳(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 主任研究員)
仁田 光彦(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 測定技術研究所 マネジャー)
日本の労働市場におけるミスマッチの推定
川田 恵介(東京大学社会科学研究所准教授)
両立支援と柔軟な働き方:女性の活躍との関係
黒澤 昌子(政策研究大学院大学教授)

研究報告会と経済社会総合研究所の概要


(要旨)

(論文)

コーポレート・ガバナンス構造の変化と人的資本投資

東北大学大学院経済学研究科教授/北川 章臣

本稿では、2期間の一般均衡モデルを用いて、メインバンク制から株式市場を通じたコーポレート・ガバナンスへの変化が人的資本投資のあり方にどのような影響を与えるかを理論的に考察した。メインバンク制の下では企業の存続確率が高いため、多くの労働者が企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられ、労働者間の所得格差も小さい。これに対して、株式市場を通じたガバナンスの下では、企業はリスクをとって高収益を追求することが求められる結果、企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられる労働者は極めて少数となり、労働者間の所得格差は極めて大きなものとなる。また、政策含意として、(i)ガバナンスのあり方によらず、企業特殊的な人的資本形成の機会を増やす雇用補助金は常に経済厚生の改善すること、および、(ii)企業の存続確率が極端に低くない限り、企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられた労働者から与えられなかった労働者への所得再分配も経済厚生を改善することを見出した。

JEL Classification Codes:G34, J24, J31

Keywords:コーポレート・ガバナンス、人的資本、日本的雇用慣行


大学と大学院の専攻の賃金プレミアム

青山学院大学経済学部准教授/安井 健悟

本論文の主な目的は第1に、能力の代理変数や高校での経験をコントロールしたうえで、理系と大学院修了の賃金プレミアムを推定することであり、第2に学部と大学院のそれぞれの8分類の専攻の賃金プレミアムを推定することである。2014年のデータを用いて得られた結果は、能力の代理変数や高校での経験をコントロールすると、理系の賃金プレミアムは男性が3.2%と女性が11.7%であり、男性と女性の大学院の賃金プレミアムはそれぞれ17.8%と23.4%であった。女性の理系と大学院のそれぞれの賃金プレミアムは2000年と比較するとかなり上昇している。また、男性は高校生のときに生徒会活動、運動部(団体競技)をしていると理系を選択しにくく、女性は運動部(団体競技)をしていると大学院に進学しにくいが、運動部(個人競技)をしていると大学院に進学しやすい。最後に、人文科学の学部卒に対する各専攻の賃金プレミアムについては、男性は学部では医学・薬学が52.6%、福祉は21.0%、その他が14.8%、社会科学が11.9%、自然科学が11.4%という順であり、大学院では社会科学が28.1%、その他が22.6%、人文科学が18.3%、自然科学の11.4%という順であった。女性については、学部では医学・薬学が37.8%、社会科学が13.3%、自然科学が10.1%であり、大学院ではその他が77.1%、人文科学が33.2%、自然科学が23.5%、社会科学が22.0%という順であった。

JEL Classification Codes: I23, I26, J24, J31

Keywords: 人的資本、賃金プレミアム、高等教育


企業内部の能力形成とその効果—OJTとOFF–JTの相乗効果に関する分析—

慶応義塾大学産業研究所客員研究員/戸田 淳仁

人的資本蓄積を進めていく上で企業内部での能力形成の重要性はかねてから主張されている。その一方で、個人の自己啓発など労働者の自主的な取り組みが必要とされている主張も出てきており、企業内部での能力形成にかける費用が減少している中で、企業内部における能力形成がどのように行われており、また効果はあると言えるのか、近年のデータを用いて改めて検証を行った。企業内部の能力形成がOJTとOff–JTに分けられることをふまえ、本稿ではOJTを仕事のアドバイスを受けたことがあるか、Off–JTを仕事から離れて研修などを受けたことがあるかと定義したうえで、それぞれが賃金率に与える効果をみる。それだけでなく、両者を一体的に行うことでどれだけ相乗効果が生まれるかを把握した。その結果、OJTとOff–JTをともに受けた場合は、受講後2年後に賃金上昇の有意な効果がみられたが、OJTだけ、またはOff–JTだけを受けた場合は賃金上昇の有意な効果がみられなかった。また、Off–JTを受講しているがOJTは受けていないサンプルのサイズが小さい点をふまえると、OJTとOff–JTの相乗効果と言える部分はOff–JTだけの効果にもある程度含まれている可能性があり、Off–JTを実施する企業はその効果が現れるようにOJTを機能させるように職場環境を整えていることが示唆される。

JEL Classification Code: J24, J31

Keywords: 能力形成、OJT、Off–JT、マッチング法


認知能力・非認知能力スコアを用いた人材活用

学習院大学国際社会科学部教授/乾 友彦

日本大学経済学部教授/児玉 直美

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 アセスメント開発部 部長/園田 友樹

一橋大学経済学研究科准教授/横山 泉

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 主任研究員/内藤 淳

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 測定技術研究所 マネジャー/仁田 光彦

本研究では、リクルートマネジメントソリューションズ社が提供している総合適性検査(SPI3)のデータを使用して、雇用者の能力(認知能力及び非認知能力)と企業の求める性格特性や能力とのミスマッチが、入社後の上司による評価、離職及び採用の可否に与える影響を分析する。企業固定効果を考慮した計量分析により、以下のような結果が得られた。まず、上司の評価に対しては、仕事とのミスマッチが有意には影響しない。さらに、ひとたび性格特性をコントロールすると低認知能力であっても上司の評価を有意に下げることはないと確かめられた。その一方で、認知能力の低さとミスマッチという不利な状況が重なった場合は、離職は増える。しかし、非常に認知能力が高い場合はミスマッチが離職を高めることはなく、ミスマッチが存在しなければ、低認知能力であっても離職が増えることはない。また、ミスマッチが大きい人、低認知能力の人ほど、内定を得にくい傾向がある。

次に、性格特性とミスマッチとの相乗効果を見てみると、「我が強い」特性や、繊細な特性を持つ場合にミスマッチがあると、上司の評価が低い傾向がある。一方、ミスマッチがあっても謙虚で責任感の強い特性を持つ人はミスマッチの上司の評価に対する負の効果が緩和される傾向がある。また、活動意欲にあふれていたり、感情の起伏が激しい人がミスマッチに直面すると、離職確率が有意に高い傾向にあることも明らかとなった。他方で、人との和を好むような性格や内向的な人はミスマッチがあっても離職をしにくい傾向にある。加えて、ミスマッチがあっても企業側の内定を得られる性格特性の特徴とは、活動意欲があり、従順で、物事をよく考えるようなタイプである。逆に、気分にむらがある人は、ミスマッチが存在する場合に内定確率が下がる。このように、ミスマッチのネガティブな効果を緩和するような性格特性もあれば、助長してしまうような性格特性も存在する。

これらの結果は、ミスマッチの効果が一律でなく個人の性格特性に大きく依存することを示唆している。したがって、少子化による新規学卒者の労働供給減少が続く中、労働者一人一人から高い生産性を引き出すことが重要な局面にあり、仕事とのマッチングを、能力だけでなく、性格特性という次元まで掘り下げて研究することは非常に重要であると言える。

JEL Classification Codes: D22, J53, J24, J28

Keywords:マッチング、認知能力、非認知能力、離職、内定


日本の労働市場におけるミスマッチの推定

東京大学社会科学研究所准教授/川田 恵介

本稿では日本の労働市場における需給ミスマッチを職種安定紹介所のデータをもとに、Sahin et al.(2014)の手法を土台に推計を行う。結果9~10%程度の新規雇用が、ミスマッチのために失われていることが明らかになった。さらに当該ミスマッチの原因を分析可能な手法として、新しい分解分析の手法を提案し、同データに応用した。結果、ミスマッチの主たる発生要因は、地域間ミスマッチではなく、特に都市部における職種間ミスマッチであることも示された。また職種間ミスマッチの様相は地域間で異なり、非大都市部に比べて大都市部では、事務的職種における過大な労働供給、および保安や建設の職種における過少供給が著しいことも明らかとなった。

JEL Classification Codes: J61, J62, J63

Keywords: ミスマッチ、マッチング関数、労働者フロー


両立支援と柔軟な働き方:女性の活躍との関係

政策研究大学院大学教授/黒澤 昌子

我が国では保育所定員の拡大と育児休業、短時間就労とさまざまな公的支援が行われ、企業においても休業と短時間就労という両立支援を中心に女性の活用が進められてきた。その甲斐もあって2000年代後半から、出産後の正社員女性の定着率は高まり、その傾向は現在も続いている。しかし職場での女性の活躍は未だ極めて低調なままである。本稿では、これまでの我が国のWLB施策が女性の活躍および企業業績に与えてきた影響を概観する。その上で、両立支援の次の一手として「働き方改革」の文脈でも昨今盛んに議論されるようになっている柔軟な働き方(FWA)に注目し、FWAを、適用された従業員の仕事への意欲を高め、女性の活躍、ひいては企業業績に資するよう機能させるために必要な条件とは何かについて検証した。

企業と管理職、従業員(正社員)とをマッチさせた個票データの企業レベル、および従業員レベルの分析より、多様な働き方を包括したWLBを企業が推進し、その認識を管理職や従業員レベルにまで浸透させることや、長時間労働抑制に積極的に取り組み、公平な評価を行うことが女性活用と強い交互作用を持つことが示された。しかもそうした要因は、従業員の仕事への意欲を高め、企業業績の向上にも寄与している。特に女性においてはWLBへの高い認識を直属の上司がもつこと、および評価の公平性が、FWAを使うことのできる女性の仕事への意欲、すなわち能力発揮の度合いを高める上で大変重要な要因になっていることがわかった。

JEL Classification Codes:J81, D22

Keywords:ワーク・ライフ・バランス、柔軟な働き方、女性活躍


研究報告会と経済社会総合研究所の概要


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きます。にて刊行しております。

全文の構成

(エディトリアル)

潜在成長力の強化:人的・人材資本とイノベーション別ウィンドウで開きます。(PDF形式 376 KB)

  1. 1
    川口 大司

(論文)

第1章 コーポレート・ガバナンス構造の変化と人的資本投資別ウィンドウで開きます。(PDF形式 2.09 MB)

北川 章臣

  1. 7
    1.はじめに
  2. 9
    2.モデル
  3. 11
    3.最適化
  4. 14
    4.均衡
  5. 29
    5.雇用補助金
  6. 35
    6.所得再分配政策
  7. 40
    7.結び
  8. 41
    参考文献

第2章 大学と大学院の専攻の賃金プレミアム別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.03 MB)

安井 健悟

  1. 44
    1.はじめに
  2. 45
    2.先行研究
  3. 47
    3.データ
  4. 50
    4.推定モデル
  5. 51
    5.推定結果
  6. 65
    6.おわりに
  7. 66
    参考文献

第3章 企業内部の能力形成とその効果—OJTとOFF–JTの相乗効果に関する分析—別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.11 MB)

戸田 淳仁

  1. 70
    1.はじめに
  2. 72
    2.先行研究
  3. 75
    3.企業内の能力開発を表すデータ
  4. 79
    4.分析で使用するデータ
  5. 80
    5.分析のフレームワーク
  6. 82
    6.分析結果
  7. 90
    7.結びにかえて
  8. 91
    参考文献
  9. 93
    付表

第4章 認知能力・非認知能力スコアを用いた人材活用別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.35 MB)

乾 友彦・児玉 直美・園田 友樹・横山 泉・内藤 淳・仁田 光彦

  1. 97
    1.はじめに
  2. 98
    2.先行研究
  3. 100
    3.認知能力・非認知能力の可視化
  4. 103
    4.データと記述統計
  5. 106
    5.分析手法
  6. 108
    6.推定結果
  7. 115
    7.頑健性の検証
  8. 119
    8.結論
  9. 120
    参考文献

第5章 日本の労働市場におけるミスマッチの推定別ウィンドウで開きます。(PDF形式 2.27 MB)

川田 恵介

  1. 124
    1.序論
  2. 125
    2.先行研究
  3. 127
    3.データ
  4. 132
    4.ミスマッチの推定
  5. 136
    5.分解分析:都道府県間ミスマッチVS職種間ミスマッチ
  6. 141
    6.都道府県別ミスマッチ
  7. 146
    7.まとめと政策含意
  8. 147
    参考文献
  9. 149
    付録

第6章 両立支援と柔軟な働き方:女性の活躍との関係別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.4 MB)

黒澤 昌子

  1. 154
    1.はじめに
  2. 155
    2.我が国におけるWLB施策の評価と課題
  3. 159
    3.我が国におけるWLB施策と企業業績
  4. 161
    4.女性活躍や企業業績に資するWLB施策とその職場用要件:企業データの分析
  5. 175
    5.仕事への意欲に資するWLB施策とその職場要件:従業員データの分析
  6. 180
    6.おわりに
  7. 182
    参考文献
  8. 185
    付表

研究報告会と経済社会総合研究所の概要別ウィンドウで開きます。(PDF形式 484 KB)

  1. 187
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