ERI Discussion Paper Series No.67
ベトナムの賃金と国際競争力

October 1996
  • 成相 修(麗澤大学)

(要旨)

アジア諸国の賃金は、各国の経済発展の階段を示しているが、その中で、ベトナムの賃金は、最も低いグループに入る。低賃金は、必ずしも国際競争力を示すわけではなく、賃金と生産性の関係が重要である。 賃金の上昇についても、生産性の上昇を伴わない人為的な賃金上昇は競争力を損なうが、生産性上昇に伴う賃金上昇は競争力に悪影響を与えない。国際競争力の主な要因は、為替レート、マクロ経済の安定性、インフレ、通貨政策であり、まだ発展段階にある現在のベトナムの低賃金を評価するのは困難である。

労働生産性の上昇は、資本装備と技術の導入によって達成される。賃金上昇は、設備投資の賃金の減少をもたらす可能性があるが、1960年代の日本の経験をみると、賃金上昇は競争力を反映したものであり、これは、企業間の資源移動を伴う設備投資の拡大による製造業の生産性上昇のためであった。輸出競争力の主な要因は、マクロ経済の安定性、実質為替レートの安定性、高い生産性であるが、為替レートは、海外直接投資を通じた資本の流入により、過大評価されることがある。生産性の上昇のための条件として、為替レートの安定、企業間の競争の促進、市場経済のための基礎的な環境(インフラ、法律制度)などが必要である。

賃金は、競争力と平等という二つの側面をもっている。経済成長は、一般的には、国民の大部分に利益をもたらすが、一方で、国民の間の不平等が拡大することもある。市場に基づく持続的な発展は、途上国における貧困と不平等を解消することができる。労働市場への政府の介入は、労働市場における差別、不十分な情報などのために、正当化される。政府は柔軟な労働市場を確立する政策を実施すべきである。労働組合は、経済的な役割の他に、政治的、社会的役割も持っているが、競争力を損なうような賃金引き上げを要求するなど、経済的に非効率的な影響を及ぼすこともある。

世界銀行報告書によれば、ここ20年間で、GNPに占める輸出のシェアの伸びが高い途上国の方が、実質賃金の伸びが大きい。貿易は、広大で安定的な世界市場を途上国に提供するので、労働者にとって好ましいものである。一般的な貿易モデルは、静学的な比較優位に基づいているが、動学的に比較優位な分野をどのように見つけるかは難しい問題である。

5か年計画では、雇用創出は最も重要な目標の一つである。この目標は、投資の奨励、職業訓練などを通じて達成されるだろう。特定産業の発展計画については、有望分野を選定する基準として、外国資本の利用性、コスト構造での競争力、世界市場の動向などを考慮する必要がある。また、高いICORと雇用創出、ASEANとAPECへの加盟に付随する国際的な側面(アジア地域での分業など)も考慮する必要がある。


全文の構成

  1. 1ページ
    1. Introduction別ウィンドウで開きます。(PDF形式 713 KB)
  2. 2ページ
    2. Current Wage Levels in Vietnam: An International Comparison
  3. 4ページ
    3. Wage Structure in Vietnam According to SPC and OECF Surveys in 1995
  4. 5ページ
    4. Wage and Productivity
  5. 7ページ
    5. Two Aspects of Wages: Competitiveness and Equity
  6. 9ページ
    6. International Division of Labor: Comparative Advantage and Specialization
  7. 10ページ
    7. SOE Reform and Financial Market Establishment
  8. 14ページ
    8. Strategy for Future Industrial Development in Vietnam
  9. 16ページ
    Appendix: Theoretical Framework in Choosing Promising Industries
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