ERI Discussion Paper Series No.68
ベトナム経済の当面の課題、長期的展望

October 1996
  • 広瀬 哲樹(NIRA 研究企画部長)

(要旨)

1990年代に入って、1986年より導入されたドイモイ(改革)政策の成果が顕著になり、海外からの直接投資や世界への輸出が急速に拡大するなど、ベトナム経済は明るい状態が持続している。

しかし、マクロ経済政策面では、為替政策と金融政策の間で整合性が必ずしも取れていないこと、輸出主導型の経済発展政策を優先すると経済計画には謳われているが、基軸通貨との名目為替レートを一定にするノミナル・アンカー為替政策を採用し続けるなど諸政策間で相互に整合性が取れていなかったり、財政・金融政策の目標と手段の割当が適切でないなど、問題が顕在化している。

中長期の政策課題では、高度経済成長を実現するために必要な政策決定で、戦略産業の選定基準についても(動学的)比較優位構造を考慮する発想に欠けるなど、基本的な政策態度にかなりの課題が残されている。

経済の現状が一応順調に推移しているのとは対照的に、政策当局の経済運営の面では解決すべき課題が山積しているといえるのである。

  1. 論文では、第一に、ノミナル・アンカーを採用し続けた場合に生ずるであろう為替政策と他の経済政策との整合性を図る必要性を指摘している。この問題は、古典的な政策調整の問題と解釈できる。が、同時に、短期の経済政策として政策間の整合性の問題としても議論がある。政策間の整合性の観点からは、金融政策=為替政策と輸出主導型高度成長政策の間には、実質為替レートをどのように決めるべきか、一方、近い過去にハイパーインフレションを経験した国として貨幣価値の安定を崩す政策をどこまでとれるのかという微妙な政策上のバランスも絡んでいる。分析によれば、経済に止まらない要因への考慮が必要とされる課題であると指摘できる。

    結論として、ベトナム=ドンとドルが一国内に併存することによって、貨幣価値を変動させることになる為替政策の変更は、意図した政策効果を不安定化させるとともに、政策の作用をより急速に実現してしまう効果を持つが、一定のメルクマール、例えば、実質為替レートを固定化するよう名目為替レートを変化させる政策を実施することで複数の政策相互の不整合性が解消できる、加えて、長期的政策としても必要であると論じている。しかし、政策の実施に当たっては、金融政策の面で実質金利がカントリー・リスクを上乗せした金利となるよう設定する等、かなり強いカントリー・サブスティチューションの影響を念頭に置いた政策が必要なこと、また、他の政策も考慮にいれたバランスの取れた経済政策が必要でなることを論じている。

  2. 第二に、ベトナムは、スタンフォード大学クルッグマン教授が指摘した、技術進歩を重視した政策を中長期の経済成長政策として検討している。教授は、東アジアでは高度経済成長にも係わらず、技術進歩が十分取り入れられていないこと、こうした成長は早晩行き詰まるという問題を指摘した。本論では、こうした指摘にも係わらず、高貯蓄=高成長という「東アジア型経済発展」の政策構成は経済発展の初期には有効であり、東アジア型の経済発展を実現できるようにする、貯蓄の奨励、輸出主導型の発展、経済インフラの整備、基礎教育の重視の経済政策を実施することが政府の役割として、依然として重要であることを指摘している。

    これは、経済発展の初期には大量の潜在失業者が存在し、成長機会が大きく存在すること、また、人口構成が若年層に厚いことなどから技術進歩の無い生産要素の投入に比例的発展する場合にも高度成長が実現でき、政策の優先度から判断しても国民に雇用機会と所得を増大させることが特に重要であることから、今後も取り続けるべき政策として推奨する内容となっている。

  3. 論文の全体的な結論として、ベトナムの中長期政策は、東アジア諸国と同様に、国内に存在する豊富な人材を有効に活用できる東アジア型経済発展政策を採用することが必要である。同時に、短期的な経済政策は、金融政策=為替政策に割り当てられたインフレ抑制政策と輸出振興政策という二つの目標を同時達成するため、新たに他の政策手段を動員することが必要であり、二つの間で微妙な舵取りを行うことが必要になることを論じている。とりわけ、中長期の政策指針は重要で、豊富な石油等の天然資源によってオランダ病に陥らないよう適切な政策を実施することが不可欠で、もし、獲得した外貨を教育投資(人的資本の投資)や経済インフラの整備に活用できるならば,ベトナムの将来は明るい展望を持つと言えると結論付けている。


全文の構成

  1. Abstract別ウィンドウで開きます。(PDF形式 299 KB)
  2. 1ページ
    Introduction
  3. 3ページ
    I. Short-term Economic Policies and Issues
    1. 3ページ
      1. Exchange Rate Market, Money Market, and Present Situation
    2. 11ページ
      2. Exchange Rate, Manetary Policy and Economic Development
    3. 13ページ
      3. Currency Substitution and Monetary Policy
  4. 19ページ
    II. The Enigma of Asian Growth and Development Policy
    1. 19ページ
      1. Economic Growth of East Asia and its Causes
    2. 21ページ
      2. FDI, Economic Growth and Lobor Force
    3. 24ページ
      3. Growth, Technological Progress, and Importance of Liberalization
  5. 26ページ
    III. The Vietnamese Economy over the Long-Term
  6. 31ページ
    Appendix1: Confirmation of the Existence of "Currency Substitution"
  7. 33ページ
    Appendix2: Dependency on Foreign Capital
  8. 38ページ
    Figure
    1. [1]別ウィンドウで開きます。(PDF形式 468 KB) [2]別ウィンドウで開きます。(PDF形式 969 KB)
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)