ERI Discussion Paper Series No.87
信用創造とマネーサプライ

August 1999
  • 杉原 茂(経済企画庁経済研究所主任研究官)
  • 三平 剛(同研究官)

(要旨)

本稿は、近年のマネーサプライの動向を、銀行や企業・家計の資産選択の面から実証的に整理したものである。その際、最近の量的金融政策に関する関心の高まりを踏まえ、中央銀行によるマネーサプライの制御可能性という観点を念頭において分析している。

第1節では、近年の信用乗数の変動を、銀行部門および非銀行部門の現金・準備と預金に関する資産選択の影響に分解して分析している。そこでは、90年代における信用乗数の低下の大部分は、金利の低下により非銀行部門の現金/預金比率が上昇したことで説明できることが示される。また、直近においては、金融システム不安やゼロ金利の影響で銀行部門においても現金・準備/預金比率が上昇し、信用乗数の低下に寄与している。マネーサプライの制御可能性の観点からは、ゼロ金利によって現金と預金(銀行部門にとっては現金・準備とその他の収益性資産)が無差別となり、信用乗数が一意的に定まらず不安定化している可能性が無視し得ない。

第2節では、銀行部門および企業・家計等のバランスシートに現れる資産選択の動向を、マネーサプライの変動に結びつけて議論している。80年代にはマネーサプライと企業・家計への銀行貸出とが強く対応しており、マネーサプライの創造経路が明確であったが、90年代には両者の関係が弱まり、マネーサプライの創造経路が不明確かつ不安定となったことが示される。例えば、最近では「質への逃避」により国債へと逃避した資金が、財政支出を通じて企業や家計にもたらされ、これが貸出が低迷する中でマネーサプライを下支えしていると考えられる。ここにはリスクに関する様々な経済主体の判断や政府の意思決定などが介在しており、こうした条件が変化した場合にマネーサプライがどのような経路でどの程度創造されるのかは不明な状況である。

以上の分析からは、現状ではマネーサプライのコントロールは著しく困難な状況にあると考えられる。 日本銀行がターゲットを定めての量的金融政策に対して慎重な姿勢を保ち、翌日物コールレートを誘導目標とする金利コントロールに拠っている背後には、こうしたマネーサプライの制御可能性の問題もあろう。


全文の構成(PDF形式、 全4ファイル)

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  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    第1節 信用乗数の分解
  4. 9ページ
    1. 18ページ
    2. 21ページ
  5. 36ページ
    総括
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