ESRI Discussion Paper Series No.1
貯蓄率関数に基づく予備的貯蓄仮説の検証

2001年3月
  • 土居 丈朗(慶応義塾大学経済学部講師、内閣府経済社会総合研究所客員研究員)

要旨

この論文は、我が国の貯蓄率が90年代に上昇した幾つかの理由につき分析を行っている。90年代において貯蓄率及び失業率はともに上昇した一方、可処分所得増加率は90年代後半になり低下した。こうした事実により、貯蓄率は直観的には予備的貯蓄動機によって説明できるように見える。先行研究では、所得リスクが増大するに伴って貯蓄率が上昇しており、予備的貯蓄動機が少なくともある程度は上昇要因となっていることが結論付けられる。所得リスクの増大とは、勤労者の将来所得期待がより不確実になってきていること、すなわち、カールソン=パーキン法(Carlson and Parkin (1975))を用いて計測した実質可処分所得の期待成長率の分散が増大していることを意味している。所得リスク増大に伴う貯蓄率上昇につき再検証をしてみると、2回のオイルショック期を除いて、1976~1998年を標本期間とした場合勤労者貯蓄率(貯蓄動向調査のデータを用いている)と所得リスクの間に有意に正の相関があるものの、1986年以降を標本期間とした場合有意な正の相関が見られないことが判る。従って、90年代の我が国貯蓄率の上昇は所得リスク増大に伴う予備的貯蓄動機では説明されないと結論付けられる。しかしながら、我々の検証では予備的貯蓄動機そのものが完全に否定されたわけではない。

そこで、貯蓄率の動きを説明するために雇用リスクを用いてみる。雇用リスクは、カールソン=パーキン法を用いた期待雇用率(有効求人倍率)の平均と定義する。雇用リスクやその他の要因を貯蓄率に回帰し、推定を行う。その結果、貯蓄率と雇用リスクの間には標本期間(1986年以降)において有意の正の相関があると結論付けられる。従って、結論としては、90年代の貯蓄率上昇は雇用リスクに伴う予備的貯蓄動機により説明されることになる。すなわち、貯蓄率の上昇は勤労者の将来所得より不確実になったためではなく、失業の可能性が増加したことによるものと結論が得られる。

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  2. 1ページ
    1.はじめに
  3. 1ページ
    2.貯蓄率関数の推定
    1. 1ページ
      2.1 所得リスクによる予備的貯蓄仮説
    2. 5ページ
      2.2 雇用リスクによる予備的貯蓄仮説
  4. 7ページ
    3.雇用リスクが貯蓄に与えた影響
    1. 7ページ
      3.1 雇用リスク要因が貯蓄率に与えた影響
    2. 8ページ
      3.2 マクロ経済における雇用リスク要因による貯蓄
    3. 9ページ
      3.3 所得階層別の貯蓄行動
    4. 11ページ
      3.4 所得階層別の雇用リスク要因による貯蓄
  5. 12ページ
    4.雇用リスクと予備的貯蓄
  6. 14ページ
    5.まとめ
  7. 14ページ
    補論A カールソン・パーキン法による雇用リスク・所得リスクの計測について
  8. 17ページ
    補論B Toda and Yamamoto(1995)のVARモデルについて
  9. 19ページ
    参考文献
  10. 20ページ
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  11. 30ページ
    図表(2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 205 KB)
  12. 38ページ
    図表(3)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 295 KB)
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