ESRI Discussion Paper Series No.6
短期日本経済マクロ計量モデル(2001年暫定版)の構造と乗数分析

2001年10月
雅博
(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
田邉智之
(内閣府経済社会総合研究所)
山根
( 同 )
井原剛志
( 同 )

要旨

1.開発の経緯

経済企画庁経済研究所(現内閣府・経済社会総合研究所)では、90年代の日本経済から推測される構造変化と最新データに基づくモデルへの要請とに鑑み、1998年に機動型モデルとしての「短期日本経済マクロ計量モデル」を公表している(堀ほか[1998])。その開発のコンセプトは公開性・機動性の高いコンパクト・モデルである。

本ディスカッション・ペーパー(DP)は、改定93SNAに準拠する形で初めて構築された同短期モデルの改訂状況(暫定版、2001年10月段階)を紹介するものである。我々モデル・ユニットでは、このような形でモデルを随時公開し、また外部情報の変化にも柔軟に対応することで、透明性と機動性を確保し、今後とも、マクロ経済政策に関する議論の素材を提供していきたいと考えている。

2.モデルの基本構造

「短期日本経済マクロ計量モデル」は従来の「EPA世界経済モデル」における日本経済モデルと同様、四半期ベースの推定パラメータ型計量モデルである。ただし、作業負担の軽減、モデルの機動性確保等の観点から必要以上の複雑化は避け、結果として操作性の高いコンパクトなモデル(方程式総数142本、うち推定式46本)になっている。推定期間は原則として1985年から直近時点(データの入手可能性により、1999、2000年)であり、改訂前に比較して、3年程度の更新となった。

理論面では、財貨・サービス市場、労働市場、貨幣市場、及び外国為替市場の4市場から構成されている。このうち労働市場はオークン法則(生産関数)による財貨・サービス市場との表裏関係を基礎に構成されており、モデルのベースは伝統的なIS-LM-BP型のフレーム・ワークである。価格は期待修正フィリップス曲線で内生化されており、そういう意味で、モデルは「価格調整を伴う開放ケインジアン型」ということができる。

3.シミュレーション結果(概要)

モデルの特性を明らかにするために行った主要シミュレーションの結果は概略以下のとおり。(本資料末尾の参考表も参照のこと。)

a.財政支出の拡大

公共投資乗数(実質ベース)は、1.1%程度(1年目)。参考までにその後の推移をみるとピークは2年目の1.3%、以後効果は次第に減衰する形となっており、98年モデルから大きな変化はない。乗数の大きさは金融政策のスタンス如何にも依存しており、貨幣供給一定のもとでの乗数は1ないしそれを下回る水準にとどまる。

b.所得減税

名目GDP1%相当の個人所得税減税は実質GDPを0.6%程度拡大させるが、その効果は時とともに減衰する。減税乗数が小さいことから、税収減が景気拡大を通じた増収のメカニズムで相殺される程度は小さく、財政赤字が拡大する。

c.金融政策

金融引締め(M2CDの1%削減)の実物への効果は漸進的に生じ、1年目にはほとんど無視できるが、3年目には0.48%となる。また、本モデルの結果に基づく限り、金融政策が物価水準に与える影響は(遅くかつ)小さいが、これは物価が低迷した90年代を推定期間とするモデルの限界を反映している。

d.外生的ショック

外部環境の変化にかかるシミュレーションとしてa)為替減価10%とb)燃料価格上昇20%の影響をみると、前者は輸出入、設備投資拡大等を通じGDPに大きく作用する(2年目のGDPで1%程度)のに対し、後者の影響は小幅にとどまる(同0.15%)。

なお、いずれの結果についても、モデルの内挿期間である1997年からの3年間を対象としているが、「短期」分析を意図したモデルの性格上、2年目以降の数字は(モデルの特性を示す)参考程度に解されるべきものである。

また、以下の乗数はあくまでもモデルの動学特性を検討するための機械的テストの結果であり、これをもって直ちに現実の政策効果を評価することはできない点に注意を要する(例えば、以下の財政政策シミュレーションでは、金融政策については原則として推定された短期金利の政策反応関数に基づく対応を基本としているが、現実の政策では、財政と金融を同時に裁量的に動かす場合が多く、財政政策の実施と連動して金融の政策反応関数自体が変更されると考えるのが現実的である)。

(参考)主要シミュレーションの概略表

実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大
個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ減税
貨幣供給量(M2+CD)を1%相当額だけ縮小
円の対ドル10%減価
鉱物性燃料価格の20%上昇

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全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 1ページ
    第1章 『短期日本経済マクロ計量モデル』の基本構造
    1. 1ページ
      第1節 開発の経緯
    2. 1ページ
      第2節 モデルの基本構造
    3. 3ページ
      第3節 推定作業上の特色
  3. 5ページ
    第2章 主要シミュレーションの結果
    1. 6ページ
      第1節 財政政策シミュレーション
      1. 6ページ
        1. 政府支出拡大の効果
      2. 11ページ
        2. 減税の効果
    2. 14ページ
      第2節 金融政策シミュレーション
      1. 14ページ
        1. 金融引締め効果(短期金利1%ポイント引上げ)
      2. 15ページ
        2. 貨幣供給量減少の効果
    3. 16ページ
      第3節 外生的ショックに関するシミュレーション
      1. 16ページ
        1. 為替レート減価の影響
      2. 17ページ
        2. 鉱物性燃料価格上昇の影響
  4. 18ページ
    第3章 残された課題
  5. 23ページ
    付属資料1 短期日本経済マクロ計量モデルの乗数詳細表
  6. 61ページ
    付属資料2  短期日本経済マクロ計量モデルの変数名一覧
  7. 65ページ
    付属資料3  短期日本経済マクロ計量モデルの方程式体系
  8. 80ページ
    付属資料4  短期日本経済マクロ計量モデルの係数表
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