ESRI Discussion Paper Series No.9
社会保障モデルによる社会保障制度の分析

2002年2月
  • 増淵 勝彦(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
  • 松谷 萬太郎(内閣府経済社会総合研究所)
  • 吉田 元信( 同 )
  • 森藤 拓( 同 )

要旨

1.開発の経緯

わが国の社会保障支出は、人口構造の急速な高齢化の中、これまで着実かつ急速に拡大してきた。社会保障給付費の国民所得に対する比率をみると、1961年度の4.9%から、1999年度には19.6%という水準に達している。経済と社会保障制度との相互依存関係は今や自明であり、経済を社会保障制度の外的与件とみなすことはできなくなった。こうした中で社会保障改革の論議を進めていくためには、社会保障制度が全体として経済・社会にどのような効果を与えているのか、またその効果が社会保障制度の成果にどのようにフィードバックされているのかを検証することが必要である。

経済社会総合研究所の社会保障モデルユニットは、こうした現状を踏まえ、八代・小塩他の先行研究(『高齢化の経済分析』経済分析第151号,経済企画庁経済研究所,1997)を基礎に、公的年金、医療、介護などの主要な社会保障制度を明示的に組み込んだマクロ経済モデルである「社会保障モデル」を構築し、社会保障の効果を総合的に評価することを目標に研究を行ってきた。本稿は、社会保障モデルが取り敢えずの完成をみたことを機に、(a)本モデルによる平成11年財政再計算(公的年金の将来見通し)に則したベースライン推計、(b)平成11年年金制度改正の効果の分析、(c)基礎年金の財源選択を中心とする政策シミュレーション等を試み、その結果を概説したものである。

2.社会保障モデルの基本的な特徴

社会保障モデルは、大きくは次の3つのセクターより構成される。

a.マクロ経済セクター

本モデルの各セクターをリンクする役割をする部分であり、わが国経済のマクロ的なベースライン、すなわち政策評価の基準を推計するために用いられる。

b.労働供給セクター

厚生労働省(国立社会保障・人口問題研究所)が公表している将来人口推計(平成9年1月推計)に基づき、将来における労働力人口を男女別・年齢別に推計することを目的とする。

c.財政・社会保障セクター

公的年金・医療をはじめとする社会保障制度の給付や負担のあり方を、中央・地方政府の財政収支と関連づけながら分析することを目的とする。

社会保障モデルは基本的には新古典派的な考え方に基づく供給サイドモデルであり、経済成長率は労働力人口および資本蓄積の動向、技術進歩率という実物要因によって規定される。また、物価上昇率(GDPデフレータ)は外生とされている。

3.主なシミュレーション結果

2050年までの主なシミュレーション結果は次のようにまとめられる。ただし、分析に用いた社会保障モデルが暫定版である以上、以下の結論も暫定的な性格のものであり、今後のモデルの改善・発展に伴い変わり得ることは言うまでもない。

  1. a. 平成11年年金制度改正を織り込み、外生変数の想定等、モデルの外から与える情報については同年の財政再計算の基礎率に則したものにしたベースライン推計によると、平成9年1月の将来人口推計の下では、厚生年金制度は、同改正による給付水準抑制と保険料率引上げが実施されれば十分に持続可能である。給付水準の抑制措置は既に実施が始まっているので、保険料率の引上げがスケジュール通りに実施できるかが焦点となる。
  2. b. 他方、国民年金制度は、2040年度頃以降に赤字の拡大が避けられず、同改正によっても持続可能性に疑問が残る。
  3. c. 物価上昇率の高まり及び生産性の上昇は、何れも報酬比例の公的年金制度における保険料収入と年金給付とをほぼ同率で増加させ、両者に対しては中立的である。しかし運用益は増加し、収支は改善する。
  4. d. 基礎年金を全額国庫負担とし、その財源として年金目的消費税を充てることは、潜在成長率を高める可能性がある。これは主として、年金保険料の軽減が消費税率引上げの効果を上回って実質賃金が上昇し、女性や中高年の男性を中心に雇用労働力が増加するためである。この財源選択の変更が、現実の成長率の高まりに結びつくか否かは不確実であるが、少なくとも潜在成長率という観点からみれば、今後の年金制度改革の一つの選択肢となり得ると考えられる。

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全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 1ページ
    1章 はじめに
  3. 2ページ
    2章 社会保障モデルの概要
    1. 2ページ
      1. モデルの基本的な特徴
    2. 3ページ
      2. マクロ経済セクター
    3. 4ページ
      3. 労働供給セクター
    4. 5ページ
      4. 財政・社会保障セクター
  4. 10ページ
    3章 社会保障モデルによるわが国経済のベースライン推計
    1. 10ページ
      1. 制度および外生変数の想定
    2. 11ページ
      2. マクロ経済変数の動向
    3. 11ページ
      3. 各社会保障制度の動向
  5. 12ページ
    4章 社会保障モデルによる政策シミュレーション
    1. 12ページ
      1. 平成11年年金制度改正の効果分析
    2. 14ページ
      2. インパクト・シミュレーション
    3. 14ページ
      3. 年金財政の選択に関するシミュレーション
  6. 16ページ
    5章 政策シミュレーションのまとめと社会保障モデルの課題
  7. 35ページ
    (参考) 社会保障モデルの方程式体系および変数リスト
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