ESRI Discussion Paper Series No.11
アジア危機の発生要因-対外借入制約に基づく再検証-

2002年2月
宮尾龍蔵
(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、神戸大学経済経営研究所助教授)

要旨

1.背景

アジア経済危機の発生要因について、これまでの説明は大きく2つの見方に分けることができる。「経済のファンダメンタルズ」によって危機が発生したという見方と「自己実現的な金融パニック」によって引き起こされたという見方である。前者は、誤ったマクロ経済政策や金融部門の脆弱性などによって経済のファンダメンタルズが悪化し、通貨危機が必然的に発生したという見方である。一方後者は、国際投資家が何らかのきっかけで期待を変化させて投資を継続する自信を喪失し、銀行取付と同様の自己実現的なメカニズムが働いて (つまり「金融パニック」によって)、資金がいっせいに引き上げられ、危機が生じたという見方である。

これら2つの見方は、それぞれ異なる政策インプリケーションを持っており、両者を区別することは、少なくとも次の2点において重要である。第1に、危機発生後の対応策を考える上で、もしファンダメンタルズが主要な発生要因であれば、経済政策や金融制度に関する根本的な改革が必要不可欠となる。逆に金融パニックが主原因であれば、そのような大掛かりな改革は特に必要ではない。第2に、国際的な最後の貸し手が存在すべきかどうかという問題についても、見方によってその答えが異なってくる。もしファンダメンタルズが要因であれば、最後の貸し手の存在は、危機の防止に役立たないばかりでなく、むしろ規律の低下から誤った政策を助長させてしまうという恐れもある。逆に、金融パニックが主要因であれば、最後の貸し手が存在することで国際投資家のパニックを防ぐことができ、その存在意義は大きいということになる。

2.目的及び研究手法

本論文では、ファンダメンタルズ要因を総合的に反映すると考えられる対外的な借入制約に注目し、上述2つの見方の区別を試みる。もし当該国に関する異時点間の借入制約条件が満たされていなければ、その国は対外的に支払い不能 (insolvent) と理解することができ、ファンダメンタルズ要因によって危機は必然的に発生したと考えられる。一方、借入制約が満たされ、その国は支払い不能ではなかったにも関わらず危機が発生したのであれば、国際的な流動性不足 (international illiquidity)、つまり短期の負債と長期の資産という満期のミスマッチの下で金融パニックが発生し、危機が発生してしまったと解釈できる。

この対外借入制約を検証する手法として、本論文では、アメリカにおける政府財政赤字の持続可能性の文献で用いられた実証フレームワークを応用する (Hamilton and Flavin (1986), Hakkio and Rush (1991), Haug (1991), Trehan and Walsh (1991), Ahmed and Rogers (1995) などを参照)。なかでも、Trehan and Walsh (1991) とAhmed and Rogers (1995) は、確率的なセットアップの下で、より一般性の高い分析フレームワークを提示し、先進国の財政赤字と経常収支赤字に関する検証を行っている。本論文では、このような先行研究の流れに沿って、アジア通貨危機国の対外借入制約に関する検証を行う。対象国は、深刻な通貨危機に見舞われ、国際通貨基金 (International Monetary Fund, IMF) の救済プログラムが必要となった3カ国-タイ、インドネシア、韓国-である。

3.結論

主要な分析結果を要約すると、インドネシアと韓国については、全般的に借入制約条件が満たされていたが、タイについては、巨額の資本流入が始まった1990年代以降その条件が満たされなくなり、危機発生直前において、対外的に支払い不能であったことが示唆された。したがって、タイについてはファンダメンタルズが主要因で、またインドネシアと韓国に関しては金融パニックが原因で、それぞれ通貨危機が発生したと考えられる。

本文のダウンロード

Another Look at Origins of the Asian Crisis: Tests of External Borrowing Constraints別ウィンドウで開きます。(PDF形式 99 KB)

全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1.Introduction
  3. 4ページ
    2.A Brief Survey on the Origins of the Asian Crisis
  4. 6ページ
    3.Econometric Framework
  5. 8ページ
    4.Empirical Results
    1. 8ページ
      4.1 Empirical Results
    2. 8ページ
      4.2 Cointegration test among exports, imports and net interest payments
    3. 10ページ
      4.3 Unit root test for the changes in external debt
    4. 10ページ
      4.4 Analysis extending to the post-crisis period
  6. 11ページ
    5.Concluding Remarks
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)