ESRI Discussion Paper Series No.15
わが国家計消費行動のミクロ・データによる研究

2002年9月
雅博
(内閣府経済社会総合研究所)
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所)

要旨

1.趣旨、問題設定

長引く日本経済の低迷を理解する上で、需要の最大構成項目である家計消費の分析は不可欠である。特に90年代には、家計の消費喚起を意図した多くの政策が立案・実施された。しかしながら、こうした施策が実際にどの程度の消費拡大効果を有したかについては、実証分析もほとんど行われておらず、未だ確たる定説が存在しないことから、実証分析の蓄積が喫緊の課題となっている。

本研究は、こうした問題意識に立って、昨年来、ミクロ・データを活用した各種政策効果の実証研究を進めてきたものである。こうした政策効果分析は、従来、集計マクロ・データ(SNA)を用いて行われてきたが、近年における計量経済学の進歩の結果、ミクロの経済主体の最適化行動から導かれる理論モデルを集計データで分析することの限界が明らかになった。本研究ではこうした進展を踏まえ、総務省より提供された家計調査の個票データを用いつつ、90年代におけるわが国世帯の消費行動の特性を分析している。

2.目的及び分析手法

本研究では、将来の政策策定時に有効足り得る政策効果の実証的検証例を提供する観点に立ち、主として家計調査の個票データを活用しつつ、広範なポリシー・インプリケーションに繋がりうる家計消費行動の定量分析を行っている。より具体的には、

a. ボーナスに起因する所得の季節性が消費の季節パターンに与える影響に注目し、恒常所得仮説の妥当性、及び消費の過剰感応を検証する.

b. 家計調査と貯蓄動向調査の個票をマッチングして作成した家計別消費の年次データで、慎重度係数(coefficient of prudence)を推定する.

c. 同じくミクロ・データを用い、消費の保険仮説の我が国における妥当性を検証する.

等について実証的な評価を試みた。

3.分析結果の主要なポイント

分析結果をまとめれば、以下の通り。

(1)ボーナスと消費の過剰感応

  • ボーナスに起因する所得の季節パターン(予想可能な高額の所得変動)は明らかに消費の季節性に影響しており、その意味で我が国の消費は過剰感応的である。またこの過剰感応は、流動性制約では説明できない。一方、ボーナス変動にかかる限界消費性向は短期ですら高々0.1以下であり、恒常所得仮説からの逸脱の程度は大きくは無い。

(2)90年代後半における我が国家計の慎重度係数

  • 我が国家計の慎重度係数は、90年代末に若年層、勤労世帯を中心に高まった可能性があり、近年の消費低迷の一因となっている可能性がある。

(3)消費保険仮説の妥当性

  • 90年代の個票データを見る限り、我が国では消費保険仮説は成立しておらず、各家計の所得変動は消費変動に影響を与えていた(消費のスムージングは完全ではなかった)。しかし、逸脱の度合は小さく、100円の所得変動に対し1~6円程度の消費変動が生じたに止まった。

4.結び

景気の低迷が続く中で、家計消費を如何にして上向かせるかは喫緊の政策課題である。我が国家計の消費行動は、恒常所得仮説が想定するシンプルな合理的行動とは(統計学的意味で)有意に異なっており、近年では予備的貯蓄が消費を低迷させている可能性もある。

ただ、合理的個人からの逸脱の程度はそれほど大きくないことから(MPCで高々0.1程度)、拡張的減税政策等に過度の期待はできないことがわかる。

全文ダウンロード

ESRI Discussion Paper No.15 Micro Data Studies on Japanese Household Consumption別ウィンドウで開きます。(PDF形式 583 KB)

項目別ダウンロード(全3ファイル)

Micro Data Studies on Japanese Household Consumption

PART 1 : New Evidence on the Response of Expenditures to Anticipated Income Changes: Panel Data Estimates on Japanese Bonus System別ウィンドウで開きます。(PDF形式 220 KB)

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1. Introduction
  3. 3ページ
    2. Literature Review
  4. 4ページ
    3. Data Source and the Japanese Bonus System
  5. 6ページ
    4. Empirical Test 1 : Browning-Collado graphical test
  6. 7ページ
    5. Empirical Test 2 : Euler equation excess sensitivity test
  7. 11ページ
    6. Macroeconomic Evidence
  8. 12ページ
    7. Conclusion
  9. 15ページ
    Tables and Figures

PART 2 : Are Japanese Consumers More Prudent in the 1990s? Evidence from Japanese Micro Data別ウィンドウで開きます。(PDF形式 60 KB)

  1. 33ページ
    Abstract
  2. 34ページ
    1. Introduction
  3. 35ページ
    2. Dynan (1993) and related research
  4. 36ページ
    3. Data
  5. 38ページ
    4. Estimation of the coefficients of prudence
  6. 40ページ
    5. Conclusion
  7. 42ページ
    Tables

PART 3 : Income Variability and Consumption: A Full Consumption Insurance Test Using Micro Data in the 1990s別ウィンドウで開きます。(PDF形式 296 KB)

  1. 46ページ
    Abstract
  2. 47ページ
    1. Introduction
  3. 48ページ
    2. Literature survey
  4. 50ページ
    3. Data
  5. 50ページ
    4. Tests of the Full Consumption Insurance Hypothesis
  6. 53ページ
    5. Sources of Consumption Insurance
  7. 54ページ
    6. The Full Consumption Hypothesis and Liquidity Constraints
  8. 55ページ
    7. Conclusion
  9. 59ページ
    Tables
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)