ESRI Discussion Paper Series No.20
SNA家計勘定の分布統計の推計

2002年12月
  • 浜田 浩児(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

要旨

1.趣旨及び問題設定

家計の所得分布等の分析に関し、国民経済計算(SNA)ベースの所得分布等の統計を開発することには重要な意義がある。第1に、所得分布等の分析は、どのような所得等の概念に基づくかが重要であるが、国民経済計算は、所得等について客観的、体系的な概念定義を与えるものである。第2に、国民経済計算では、賃金、財産所得等の各所得要素や消費、貯蓄、資産・負債等を家計勘定の中に体系的に位置付け、結びつけて分析できるため、家計の所得階層、職業等の別に家計勘定を作成すれば、所得分布等の分析を体系的に行うことができる。第3に、国民経済計算の家計部門の計数は、企業、政府等の計数、ひいては国全体の計数と整合的なものであるため、全世帯合計が国民経済計算の家計部門の計数に見合うような所得分布等の統計を開発すれば、所得分布等の分析をマクロ経済と整合的に行うことができる。

以上のように、集計値が国民経済計算の家計勘定に見合う所得支出、資産・負債等の分布統計(家計の所得階層別、職業別等の統計)を作成することは、重要な課題である。また、国民経済計算の国際基準である93SNA自体も、家計勘定の分布統計(内訳部門分割)が必要であるとし、所得形態(雇主、自営業者、雇用者等)、世帯主の従事産業、家計の所得規模、構成員数等による内訳部門分割を提示している。

2.目的及び手法

分布統計は、新しい国際基準である93SNAに基づき、1994年、1999年の家計勘定(所得支出勘定、貸借対照表勘定)について、世帯の所得・資産、世帯主の職業、産業、勤め先企業規模、年齢、世帯人員、有業人員、住宅の所有の別に推計した。持ち家の帰属家賃、雇主の強制的現実社会負担(社会保障負担)等の帰属項目も、できる限り含めて推計した。

推計手法は、総務省「全国消費実態調査」の個票を主な基礎統計とし、他の統計や国民経済計算の計数も利用した加工推計によった。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 分布統計の集計値と国民経済計算との開差率は、所得で約2%以下、最終的なバランス項目で開差がしわ寄せされる貯蓄でも約5%以下と小さく、集計値が国民経済計算に近い推計結果が得られた。
  2. (2) 推計結果に基づいて所得・資産分布を見ると、
    1. a. 1999年は主に賃金・俸給の格差拡大から、ローレンツ曲線が1994年を下回り、第1次所得(所得再分配前の所得)の格差が拡大した。これに対し、可処分所得(所得再分配後の所得)の格差は、それほど拡大していない。これは、現金による社会保障給付(公的年金等)と強制的現実社会負担(社会保険料)が、ウェイト(所得に対する構成比)の上昇等により所得再分配効果を高めたためである。
      第1次所得のローレンツ曲線
    2. b. 正味資産(純資産)の格差はわずかに縮小した。これについては、有形非生産資産(土地)がウェイト(正味資産に対する構成比)の低下等により正味資産格差の縮小に寄与したのに対し、預金を中心とした金融資産が主にウェイトの上昇により正味資産格差の拡大に働いている。

4.結び

以上のように、93SNAに基づく家計勘定について所得支出、資産・負債等の分布統計を推計し、集計値が国民経済計算に近い推計結果が得られた。しかし、これは分布統計作成の端緒であり、今後の統計整備に向けて、1.遡及推計(93SNAに基づく国民経済計算の遡及推計作業に対応)、2.推計の年次化(「全国消費実態調査」の5年ごとの調査年以外について補間、補外)、3.家計勘定の残る部分の推計(資本調達勘定、調整勘定)のような課題がある。

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  1. 1ページ
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  2. 2ページ
    1.はじめに
  3. 5ページ
    第1章 分布統計の国民経済計算(SNA)との概念比較
    1. 5ページ
      I. 所得支出勘定
      1. 5ページ
        1. 第1次所得の配分勘定
      2. 7ページ
        2. 所得の第2次分配勘定
      3. 11ページ
        3. 現物所得の使用勘定
      4. 12ページ
        4. 所得の使用勘定
    2. 14ページ
      II. 貸借対照表勘定
  4. 21ページ
    第2章 分布統計の推進方法
    1. 21ページ
      I. 所得支出勘定
      1. 22ページ
        1. 第1次所得の配分勘定
      2. 25ページ
        2. 所得の第2次分配勘定
      3. 30ページ
        3. 現物所得の使用勘定
      4. 32ページ
        4. 所得の使用勘定
    2. 36ページ
      II. 貸借対照表勘定
  5. 46ページ
    第3章 分布統計の推計結果
    1. 46ページ
      I. 推計結果のSNAとの比較
    2. 49ページ
      II. 世帯属性別分布統計
      1. 49ページ
        1. 所得・試算10分位階層別
      2. 54ページ
        2. 世帯主の職業別
      3. 55ページ
        3. 世帯主の産業別
      4. 56ページ
        4. 世帯主の勤め先企業規模別
      5. 56ページ
        5. 世帯主の年齢階層別
      6. 57ページ
        6. 世帯人員別
      7. 57ページ
        7. 有業人員別
      8. 58ページ
        8. 住宅の所有関係別
  6. 92ページ
    1. 92ページ
      I. 所得・試算階層間の分布
    2. 93ページ
      II. 分布尺度で見た格差の状況と要因
      1. 99ページ
        1. 使用する分布尺度
      2. 101ページ
        2. 所得・資産格差の分解
    3. 113ページ
      III. 等価尺度に基づく所得・資産分布
  7. 133ページ
    結論と課題
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