ESRI Discussion Paper Series No.23
流動性の罠と金融政策の有効性-計量モデルによるシミュレーション分析-

2002年12月
雅博
(内閣府経済社会総合研究所)
田邉智之
(三井情報開発、元内閣府)
山根
(国際協力事業団、元内閣府)
青木大樹
(内閣府経済社会総合研究所)

要旨

1.趣旨及び背景

1990年代前半のバブル崩壊以降、日本経済の低迷、物価上昇率低下が続く中、日本銀行は、短期金利をゼロ近傍にまで引下げるなどの対応を行ってきた。しかしながら、経済情勢は依然として改善せず、名目金利がゼロ近傍という制約の下で、マクロ経済政策はディレンマに陥っている。ゼロ金利下で物価下落が続く「流動性の罠」的状況において我々は如何なる選択肢を有するのか。本稿では、「流動性の罠」の下での金融政策の可能性について計量モデルのシミュレーションを通じ考察している。

2.目的及び手法

本ディスカッション・ペーパーでは、名目金利のゼロ下限制約に起因する金融政策の限界について計量的に分析する。具体的には、金融政策の有効性に関する諸見解を実証・計量的に評価するため、ESRI短期日本経済マクロ計量モデルの2つのバージョン(適応的期待版と合理的期待版)を活用し、幾つかの政策シミュレーションの結果を紹介している。

3.分析結果の主要なポイント

現実世界における金融政策の波及経路は本稿で用いた小型モデルの想定以上にずっと複雑だろうが、シミュレーション結果から少なくとも以下のような洞察が得られた。

  1. (1) 我が国における金融政策の有効性は、後向きの期待を前提に考える限り、流動性の罠論の通り、1990年代を通じて低下した。
  2. (2) 一方、経済主体が前向きに期待形成する場合、人々が貨幣の長期的中立性を信じるか否かに依存して、ゼロ金利制約下にある我が国での金融政策の効果には2つの均衡―金融政策が働く積極的均衡と流動性の罠が金融政策を無効化する消極的均衡―が並存し、その意味で金融政策が機能する可能性は消失していないことになる。

4.結び

本稿は、我々が現在開発しつつある「ESRI短期日本経済マクロ計量モデル(合理的期待版)」の活用事例として、現在の経済政策論上最大の論点ともなっているゼロ金利・流動性の罠の下での金融政策の有効性をモデル・シミュレーションで検証した。本稿の結果に限らず、経済主体の期待形成のあり方如何は政策効果(乗数等)に大きな影響を及ぼすことがある。

我々マクロ計量モデル・ユニットでは、引き続き合理的期待版モデルの開発整備を進めるとともに、従来型のモデルの再推定作業等も継続し、それらの比較を積み重ねることで、各種政策の有効性等の評価につき、議論の素材を提供していきたい。

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Monetary Policy and the Liquidity Trap Simulations using a Short-Run Macro Econometric Model of the Japanese Economy別ウィンドウで開きます。(PDF形式 367 KB)

全文の構成

  1. 2ページ
    Abstract
  2. 3ページ
    1.Introduction
  3. 4ページ
    2.Basic Structure of the Model
  4. 8ページ
    3.The Liquidity Trap and Effectiveness of Monetary Policy in the Backward-Looking Settings
  5. 14ページ
    4.Forward-Looking Model and the Liquidity Trap
  6. 13ページ
    5.Conclusion
  7. 16ページ
    Tables and Figures
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