ESRI Discussion Paper Series No.24
介護サービス施設からの退所決定要因と価格弾力性

2002年12月
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
野口晴子
(東洋英和女学院大学専任講師)

要旨

1.趣旨及び背景

急速な高齢化の進展と将来にわたる膨大な医療・介護コストに悩む多くの先進国では、高齢者政策の比重を医療施設から介護施設へ、さらに施設介護から在宅介護へと移すのが世界的な流れになっている。日本でも多くの医療施設が膨大な「社会的入院」患者を抱えているとされ、その解決が急務となっている。

2000年4月の公的介護保険制度の導入によって、それまで「措置」制度の下にあった介護サービス分野で初めて価格メカニズムが働く余地が生まれた。中でも、施設介護サービス需要に価格政策がどの程度働きかけることができるかは、政策的にも非常に重要であるにも関わらず、これまで全く分析されてこなかった。

この論文では、日本で初めて豊富なミクロデータを使い、介護サービス施設からの退所決定要因と価格弾力性の実証分析を行う。

2.目的及び手法

この論文では、厚生労働省「介護サービス施設事業所調査」(2000年10月調査)のミクロデータを用い、2つの方法を用いて施設からの退所決定要因と施設介護の価格弾力性を推計した。ミクロデータを使った施設介護サービスの価格弾力性の実証研究はアメリカで若干の先行研究があるだけで、少なくとも日本でこれほど大規模なデータで検証したのは、この論文は初めてである。

具体的には、まず、2000年9月に退所した高齢者がその後どこに移動したのか(病院・診療所、他の施設、家庭、死亡など)を確率モデル(probit model)で推計した。説明変数に個人の属性のほか、価格(自己負担)を含めることで、自己負担の増加が家庭などへの退所の確率をどの程度上昇させたかを推計した。次に、2000年9月に退所した高齢者と退所しなかった高齢者をあわせて、期間モデル(duration model)を推定し、同じく自己負担の増加が退所のタイミングをどの程度早めるのかを推計した。それぞれの推計は、介護サービス施設を、介護老人福祉施設(特養ホーム)、介護老人保健施設(老健施設)、介護療養型医療施設の3つに分けて行った。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 確率モデル(probit model)の分析結果によると、1%の施設介護サービスの自己負担増加は介護老人福祉施設から家庭への退所の確率を0.04%、介護老人保健施設から家庭への退所の確率を3.7%引き上げる。一方、同じく1%の施設介護サービスの自己負担増加は介護老人福祉施設から病院・診療所への再入院の確率を3.3%、同じく介護老人保険施設からの病院・診療所への再入院の確率を1.9%引き下げる。これは、在宅介護が施設介護の代替財であり、病院・診療所が施設介護の補完財であることを示している。また、要介護度が低く、かつ身寄りのない高齢者が、介護サービス施設から病院・診療所へ戻る確率が高いことが確認され、「社会的入院」解消のための政策はこうした高齢者にターゲットをあてるべきであることが明らかになった。
  2. (2) 期間モデル(duration model)の推計結果によると、1%の自己負担増加は介護老人福祉施設及び介護老人保険施設の入所期間を2%弱短縮させる。

4.結び

この論文は介護サービス施設からの退所行動に焦点を当てて、価格政策の効果を定量的に評価した。介護老人福祉施設ではその効果は小さいが、施設介護から在宅介護へ比重を移す上で価格メカニズムが働く余地があることが示された。さらに、「社会的入院」解消政策がターゲットにすべき高齢者のタイプも明らかになった。今後の研究課題として、施設介護利用者の新しいデータセットを使った実証分析を進めるとともに、入院患者のデータを使った「社会的入院」解消策の分析も深めていく必要があろう。

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The Determinants of Nursing Home Exit and the Price Elasticity of Institutional Care:Evidence from Micro-level Data別ウィンドウで開きます。(PDF形式 99 KB)

全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1.Introduction
  3. 4ページ
    2.Previous research
  4. 4ページ
    3.Data
  5. 6ページ
    4.The determinants of exiting behavior and choosing place after leaving
  6. 11ページ
    5.The determinants of duration and price elasticity
  7. 13ページ
    6.Discussions and Conclusions
  8. 16ページ
    Tables
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