ESRI Discussion Paper Series No.26
少子高齢・成熟経済での「社会保険統合」に関する研究 -あるべき皆保険の姿と21世紀中の財政見通し-

2003年2月
  • 喜多村 悦史(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
  • 竹下 隆夫(社団法人シルバーサービス振興会参与)
  • 郡司 康幸(内閣府経済社会総合研究所研究官)

要旨

1.研究の背景

  • わが国は人類が経験したことのない少子高齢の長寿社会に急速に移行しつつあり、社会保障の中核を担ってきた社会保険の制度運営がかつてなく厳しくなると予測されている。
  • 社会保険給付の先行き不透明感は、自らの老後準備のための消費の切り詰めをもたらし、わが国経済の潜在経済力の低下傾向に拍車をかける懸念がある。
  • 少子高齢化の確たる予測は不可能であるが、現時点での政府機関(国立社会保障・人口問題研究所)の推計では、今世紀中に人口は半減するが、出生率がかなり低位で推移した場合でも少子高齢化はそのピークを越え一段落するものと考えられている。
  • したがって、社会保険の制度運営にとっては、この21世紀中を財政的に乗り切れる姿が描けるならば、その永続性が担保されうることになる。

2.研究の主旨と目的

  • 社会保険の諸制度は、いずれもそれぞれに財政が逼迫し、現在の制度のままの延長では21世紀を乗り切ることは困難。財政の安定化とともに、少子高齢社会にふさわしい給付体系に改め、成熟経済への移行という環境への適応が求められている。
  • 現在、医療保険と年金保険は「国民皆保険」を原則としているが、雇用労働者とそれ以外の者とで加入制度に基本的な相違があり、しかも分立した保険集団によって保険料負担に大きな格差がある。
  • しかし、こうした分立はもっぱら必要度が高い分野から、順次制度化が進められたという沿革的理由に基づくものであり、医療においても、年金においても、統合・一元化が具体的な政策課題になっている。そして、医療保険の統合・一元化は、現在問題となっている老人医療費の負担分担への抜本的対応策となる。
  • 統合・一元化を進める場合、第一に問題となるのは、現役年齢の被保険者でありながら保険料負担を求められない者の扱いの整理で、具体的には、健康保険等における成人の被扶養者、年金における第三号被保険者、生活保護受給者などの処遇である。
  • また、介護保険では40歳になるまで適用がないため給付対象にならず、40歳以上65歳未満では給付が限定されるという問題があり、雇用保険では公務員や自営業者が除外されているという問題がある。
  • 保険料の負担と給付は、本来一体でなければならない。真の国民皆保険を実現するためには、被保険者全員が保険料を負担する仕組みが原点であり、保険料負担は被保険者間で公平でなければならない。この点で最大の課題は、雇用労働者と自営業者の保険料負担の公平化を実現することである。
  • そして、雇用労働者と自営業者間における社会保険適用の相違が取り除かれた後に残されるのは、主婦や学生、フリーター、失業者、生活保護受給者などの扱いであるが、これに対しては「みなし年収」を設定して、現役全員が保険料を負担する仕組みとする。
  • このような考察を経て、本研究では、現在、医療、介護、年金、雇用に区分されている社会保険を単一のものとして統合し、「国民保険」として一元化することを提唱する。全国民が個人単位で被保険者となり、一律に年齢で定める現役期間中に保険料を負担し、年少期と高齢期に給付を受け、滞納した場合にはその分給付が減額されるという生涯を通した公平性を目指す仕組みの確立である。
  • 保険料は現役被保険者の「所得」に比例するが、この場合の「所得」は社会保険で独自に定義し、所得税法上の所得とは区別し、雇用労働者と自営業者の間に格差が生じない仕組みとする。
  • その「所得」には上下限つきの等級を設け、下限以下の無職者は「みなし年収被保険者」とする。「みなし年収被保険者」は最低保険料を納付することとし、医療や年金定額部分は支給されるが、失業手当などは支給されない。また、上限を超える「所得」は保険料算定の対象にはならない。
  • その上で、国立社会保障・人口問題研究所が2002年に発表した人口推計を用いて、2100年度までの財政見通しについて、詳細な試算を行う。
  • 保険料率のモデルとするのは、現在、最も加入者が多く代表的な制度である政管健保・厚生年金・介護保険・雇用保険に加入している中小企業40歳以上労働者の保険料率で、現時点では年収対比24.3%。他をこの料率に合わせることにより、職種及び世代間の負担の公平も確保することができると考えられるからである。
  • 国庫負担は、従来どおり国の義務として給付費のおおむね三分の一とする。
  • 財政見通しにとって最大の変動要因は、少子高齢化の進行具合による人口動態であるが、財政安定化のための調整装置としては、財政に最も大きく影響を及ぼす支給開始年齢の段階的引上げで対処することとする。経済社会の安定的な維持にとって、人口動態の変化に引退年齢が連動することが最も合理的と考えられるからである。

3.社会保険統合・一元化のモデルとした「国民保険」の概要は、

  • 全国民が生涯にわたり個人単位で加入し、1人1保険証の制度とする。
  • 年齢によって、全国民とも18歳の3月(高校卒業)までを年少被保険者、65歳の3月までを現役被保険者、それ以上を高齢被保険者とし、現役被保険者には例外なく同一算定式による保険料の納付を義務づける。
  • 保険料率は定率とし、将来にわたって全期間固定する。このことによって、例えば年金に対する国民の将来不安は解消されうる。
  • 自営業者にも雇用労働者同様、所得比例の保険料が課される。このため、保険料は被保険者納付を原則とし、事業主負担を廃止する。
  • 年度所得がゼロの者から100万円未満の無職者や低所得者を「みなし年収被保険者」とし、最低限の保険料負担を求める。このため、配偶者は他の配偶者に対し、世帯主は世帯員に対して連帯納付義務を負う。
  • 国民保険の給付は、医療給付、介護給付、年金給付、定期金給付及び出産・児童養育給付とする。定期金給付とは、失業手当、傷病手当、出産・育児休業手当、介護休業手当を指し、出産・児童養育給付とは出産一時金と児童手当を指す。出産・子育てが若い世代の大きな経済的負担になっている現実を踏まえ、児童手当を新たに社会保険に取り込む。
  • 保険料を滞納している者は、保険料を納付すべき期間に対する滞納期間の比率により、医療給付、介護給付及び年金給付が減額される。
  • 医療保険は被保険者の年齢に関わらず、給付割合を一律7割(自己負担3割)とし、上限を設ける。
  • 介護給付は対象を全年齢に拡大し、給付割合は医療保険同様7割とする。また、家族介護を認め、給付割合を5割とする。
  • 老齢年金は自営業者にも報酬比例部分を設ける。そして、少子高齢化の進行にかんがみ、現在65歳までの支給開始年齢の段階的引上げをさらに65歳以上も継続し、人口動態の安定が見込まれた時点で停止することとする。先にも述べたように、これは人口構成が予測以外の動向を示す場合の調整装置としての機能を果たす。
  • 障害年金は年齢を問わず支給されるが、老齢年金支給時期に失権する。
  • 配偶者への遺族年金は廃止され、児童が受給者となり、その児童が18歳の4月到達によって消滅する。
  • 年金額は基礎部分と報酬比例部分で構成され、基本的に現在の給付水準を維持するが、高齢者の医療・介護にかかる保険料納付がなくなることに伴なう給付水準調整は行う。
  • 失業・傷病・産休・介休の各手当の給付額は、現在の給付水準(標準報酬月額の6割)を維持する。(年度標準報酬では5割弱の支給となる。)
  • 出産一時金は現在の2倍額に引き上げ、かつ養育費負担の軽減を社会全体で支援するため、児童手当を年少の被保険者に対する金銭給付として新設し、15歳の3月(義務教育終了年齢)まで支給する。給付額は、3歳未満では年金の定額部分(現在の基礎年金)の1.5倍、小学校入学前(6歳の3月まで)は同額、それ以後は半額とする。
  • 以上の「国民保険」構想は大幅な改革になるため、十分な準備期間と給付の見直しに際しての経過措置期間を設ける。

4.社会保険統合・一元化による2100年度までの財政見通しの結果は、

  • 国立社会保障・人口問題研究所による「高位推計」(100年間で総人口は64%に減少)どおりに人口動態が推移するならば、老齢年金の支給開始年齢は66歳程度にとどまるが、「中位推計」(100年間で総人口は51%に減少)どおりであれば70歳程度、「低位推計」(100年間で総人口は37%に減少)なら75歳程度からの支給となることが判明した。
  • この「国民保険」構想が、社会保障制度の簡素化と財政の安定化を同時に目指すビジョンづくりの検討材料となることを期待する。

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全文の構成

  1. 1ページ
    概要
  2. 2ページ
    I. 社会保険の方向
  3. 8ページ
    II. 国民保険の骨格
  4. 15ページ
    III. 世代間負担格差解消と保険料率恒常化
  5. 21ページ
    IV. 財政見通しの計算方法
  6. 35ページ
    V. 21世紀中の財政見通し
  7. 44ページ
    国民保険の計算手法の概念図
  8. 52ページ
    別添資料
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