ESRI Discussion Paper Series No.27
貿易、立地と「均衡」為替レートについて

2003年2月
  • 広瀬 哲樹(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
  • 森藤 拓(内閣府経済社会総合研究所経済社会研究調査員)

要旨

1.趣旨及び問題設定

世界経済の変化、特に、中国が国際市場に本格参入する影響は、大きいと予想される。その規模は、現在までに観測された程度で止まるのか、あるいは、今後20、30年続く大変化の始まりなのか議論が分かれる。こうした経済環境の変化を背景に、日本国内の空洞化論、産業の立地、経済発展と為替政策の関係など課題が表面化している。

ここでは、空洞化論を経済発展と産業構造の問題として捉える。多数財のリカード型モデルを用い、購買力平価と比べ市場レートが双方向に最も乖離した日本・中国について、比較生産性を試算し、技術進歩や労働コストの変化が産業構造に与える影響を分析する。また、この分析から同様の発展段階にある諸国で輸出競合が生じる場合の影響を検討する。

経済発展と為替政策の関係では、中国の元レートを取り上げ、元高論から元安論まで幅のある議論に、「均衡」レートの視点から論点を提示する。これは、元レートには、大規模な貿易不均衡、外貨準備高など元安の状況証拠がある中で、1994年以来対ドルで固定されており、収支均衡レートとの関係を明確化することが必要となっており、また、為替政策の変更が経済発展に良い影響があるかどうかを確認する必要があるからである。

2.目的及び手法

まず、国内の空洞化要因と貿易からの影響度を検討するため、貿易と生産技術格差の関係を明示的に取り扱うこととし、多数財のリカード型モデルを利用する。国際産業連関表、財別価格格差等を用い、付加価値生産性を物的生産性に転換することで日中間の生産性格差を推定し、財別の競争力、価格調整の影響を推定する。また、比較静学分析を行い、労働コスト、技術進歩が貿易や産業立地に与える影響を検討する。

つぎに、経済発展政策の一環として為替政策を検討することとし、貿易収支均衡レート、購買力平価、財別「均衡」レートを推定することにより、元高論、元安論を検討する。為替政策の変更に伴う効果を一般均衡モデル(GTAPモデル)によって数量的に把握する。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 中国経済は、開放が急速に進み、関税率も低水準にあるが、現状では購買力平価説が成立するほど価格調整が実現しているわけではない。これは、絶対的PPP仮説、相対的PPP仮説が実現していないことからも確認された。
     次に、両国でほぼ同質の財毎の価格格差の統計から、貿易構造と為替レートの関係を分析した結果、日中間の貿易は日本が価格競争力を持つものを輸出し、無いものを輸入するという補完的な関係にあることが確認できた。また、格差の幅も極めて大きく、相当大きな為替レートの変化が生じても、両国間で貿易が成立することが分かった。
  2. (2) Dornbusch, Fischer and Samuelson(1977)に基づき、生産性格差に基づく貿易構造を多数財の「リカード型モデル」で推計した。これを利用して技術格差の縮小、労働コスト格差の拡大等比較静学的分析を行った結果、日中間の貿易構造は、生産性格差からかなりの程度説明できることが判明した。
     また、現実の生産額ウェートを考慮した同モデルでは、均衡点の近傍で技術進歩や労働コストが自国にとって不利に変化した場合、産業構造によっては極めて大きな影響を受けることがあることが分かった。また、為替が増価する場合と減価する場合で量的に非対称の影響を受ける可能性の高いことなどが分析できた。
  3. (3) 中国は、1994年に大幅に元を減価させた以降、対ドル固定制を維持してきた。このため、キャッチアップによる生産性向上を直接輸出競争力に反映させることが可能となった。Harris=Todaro条件の下で、このような発展政策を行った結果、輸出主導の発展政策を実現できた。しかし、実物面から見れば、短期的にはデフレの輸出になる懸念が指摘されるだけでなく、中長期的にはASEAN等輸出国との競合関係を強める恐れもあることが分かった。また、労働豊富な自らの要素賦存比率から見た場合、輸出産業から内需産業に転換することで生産効率が高まり、その結果、政策転換の利益も期待できる。これを一般均衡モデルを用いて、内需主導の政策に転換することにより、生産効率が高まり、GDPが増加するなど利益のあることが確認できた。

4.結び

中国は、1994年に大幅に元を減価させた以降、対ドル固定制を維持してきた。このため、キャッチアップによる生産性向上を直接輸出競争力に反映させることが可能となった。Harris=Todaro条件の下で、このような発展政策を行った結果、輸出主導の発展政策を実現できた。しかし、実物面から見れば、短期的にはデフレの輸出になる懸念が指摘されるだけでなく、中長期的にはASEAN等輸出国との競合関係を強める恐れもあることが分かった。また、労働豊富な自らの要素賦存比率から見た場合、輸出産業から内需産業に転換することで生産効率が高まり、その結果、政策転換の利益も期待できる。これを一般均衡モデルを用いて、内需主導の政策に転換することにより、生産効率が高まり、GDPが増加するなど利益のあることが確認できた。


図1 多数財のリカード型モデル(生産額ウエート)
図2 財別「均衡」レート

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全文の構成

  1. 要旨
  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    1.価格競争力、価格調整と中国経済の開放度
    1. 3ページ
      (1) 価格競争、中国の開放度と日中間の貿易
    2. 3ページ
      (2) 価格水準と為替の関係
    3. 4ページ
      (3) 財別「均衡」レートとPPP
    4. 5ページ
      (4) 財別「均衡」レートと輸出採算レート
  1. 7ページ
    2.日本、中国間の比較生産性と財別「均衡」レート
    1. 7ページ
      (1) 二国間の比較生産性と為替の変化
    2. 7ページ
      (2) 比較生産性と多数財のリカードモデル
    3. 11ページ
      (3) 中国の対外収支均衡レートについて
    4. 12ページ
      (4) 日中二国間貿易の決定要因と収支均衡レート
  1. 14ページ
    3.中国の為替レートと政策的インプリケーション
    1. 14ページ
      (1) これまでの元の調整議論
    2. 15ページ
      (2) 「元安論」、「元高論」
    3. 16ページ
      (3) 為替レート水準と為替政策
    4. 17ページ
      (4) 為替政策の幅
    5. 18ページ
      (5) 為替政策と発展政策の転換
  2. 20ページ
    おわりに-為替政策と内需主導の発展政策
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