ESRI Discussion Paper Series No.28
PFIと内部情報-中途解約と負債による規律づけ-

2003年2月
  • 三井 清(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、明治学院大学教授)

要旨

1.趣旨及び問題設定

PFI(Private Finance Initiative)は民間がその資金とノウハウを活用しつつ設計、建設、維持管理、運営までを一体として行いながら公共サービスを供給する民営化手法である。日本においてPFIが推進されてきた背景には、従来型公共事業方式による社会資本整備における効率性の低下という問題がある。そして、民間の活力を利用して社会資本整備の効率化を図ろうとする点では、第三セクター方式とPFIは共通する目的を持っているといえる。しかし、第三セクター方式はその事業主体である第三セクターの多くが官民間のもたれ合いにより経営状況が悪化したという欠陥が指摘されており、PFIにはこの欠陥を解消することが期待されている。そして、英国などで実施されているPFIが、日本の制度や環境に適用するようにアレンジした「日本版PFI」として導入されつつあるところである。
 ただし、「日本版PFI」が期待された成果を達成できるためには、英国などで実施されているPFIを日本へ導入する際に、第三セクター方式とのどのような基本的な相違がPFIの優越性に繋がっているのかを見極めることが重要であろう。本稿では、第三セクター方式とPFIの基本的な相違として、前者は政府が事業主体の内部情報を共有しているのに対して、後者は政府が事業主体の内部情報を遮断していることに着目し、それらの事業方式の特性を効率性の観点から比較検討する。

2.目的及び手法

従来型公共事業方式や第三セクター方式よりPFIが常に優れた社会資本整備手法なのであろうか。実施する公共事業の特性に応じて選択する事業方式を変える方が望ましいかもしれない。そこで、望ましい公共事業方式が内部情報共有型か内部情報遮断型かを、経営者が事業の収益性を高めるように努力するコストの大小などの事業特性に着目して比較検討する。
 PFIの特徴として、内部情報の遮断という側面の他に、民間資金をプロジェクト・ファイナンスという形態で調達するということがある。この負債による資金調達が、経営者の規律づけに貢献している可能性について検討することがもう一つの検討課題である。内部情報遮断型の事業方式とプロジェクト・ファイナンスによる資金調達手法が制度的な補完関係になっているかもしれない。そこで、その規律づけの効果が、内部情報遮断型の事業方式を採用している場合と内部情報共有型の事業方式を採用している場合で異なるかどうかを検討する。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 内部情報共有型公共事業方式の場合にはソフトな予算制約の問題から生ずる経営者の努力水準が過小になってしまうという問題を、内部情報遮断型公共事業方式により解消できる可能性がある。政府が経営環境などに関して入手できる情報を制限することで、政府は事後的な観点からは最適な政策を実施できなくなる。しかし、将来の政策選択に関する自由度を自ら制限することで、将来の政策にコミットできることになる。したがって、将来の政策に対するコミットメント・デバイスとして機能する内部情報遮断型の事業方式を選択することで、経営者の努力や工夫を引き出す契約にコミットできるようになるので、事前的には効率的な資源配分を達成できる可能性が生まれるのである。そして、この事前的な効率性が事後的な非効率性を上回る状況としては、たとえば経営者が事業の継続に大きな私的な価値を感じている場合や、経営者が事業の収益性を高めるように努力するコストが小さい場合などである。なお、この結果は政府が入手可能な情報を基にして直接的に事業契約を中途解約するという政策手段が選択可能であるとともに、事業者は全て自己資本で資金を調達していることを前提として導出されるものである。
  2. (2) 直接的な中途解約という政策を実行するために必要な情報が入手可能でないとしても、政府が事業者の負債による資金調達の返済パターンを選択することが可能であるとすると次の結果を得ることができる。すなわち、事後的に追加出資することで救済することが政府にとって選択可能である場合でも、内部情報遮断型の場合には、「事業者が破綻した場合に事業契約を中途解約する」という契約を政府が事業者と結ぶことにより、直接的な中途解約が選択可能な場合と同様の資源配分を実現できるのである。
     それに対して、内部情報共有型の場合には、負債による資金調達が経営者の行動を規律づける効果を期待することができない。政府が経営環境などの内部情報を入手できる場合は、事業者の直面している経営環境に応じて政府は事業契約を中途解約するか追加出資することで継続するかを事後的に決定できる。その結果として、内部情報共有型のケースでは負債による資金調達と破綻時の事業契約の中途解約という契約を組み合わせても、事後的に救済されることを予想する経営者は高い努力水準を選択しないことになる。すなわち、負債による規律づけの機能は、内部情報遮断型公共事業方式と組み合わせることによって発揮されるのである。

4.結び

本稿におけるモデル分析から得られた結果をまとめておこう。第1の結果は、内部情報共有型公共事業方式の場合にはソフトな予算制約の問題から生ずる経営者の努力水準が過小になってしまうという問題を、内部情報遮断型公共事業方式により解消できる可能性があるというものである。そして、この事前的な効率性が事後的な非効率性を上回る状況は、たとえば経営者が事業の継続に大きな私的な価値を感じている場合や、経営者の努力水準を高めるコストが小さい場合などである。
 第2の結果は、事後的に追加出資することで救済することが政府にとって選択可能である場合でも、内部情報遮断型の事業方式を採用すれば、負債による資金調達のパターンを適切に設定した上で、事業が破綻した場合には事業契約を中途解約するという契約を結ぶことで経営者の高い努力水準を引き出すことができるというものである。それに対して、内部情報共有型の場合には、事業者は事後的な救済を期待して低い努力水準を選択することになる。すなわち、事前的な経営努力の低下問題を緩和するためには、内部情報の遮断とプロジェクト・ファイナンスによる資金調達を組み合わせることが重要である。

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全文の構成

  1. 要旨
  2. 1ページ
    1.はじめに
  3. 5ページ
    2.モデル
  4. 7ページ
    3.自己資金のみによる資金調達のケース
    1. 8ページ
      3.1 内部情報共有型の場合
    2. 9ページ
      3.2 内部情報遮断型の場合
    3. 13ページ
      3.3 社会的厚生の比較
  5. 16ページ
    4.負債でも資金調達しているケース
  6. 18ページ
    5.結び
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