ESRI Discussion Paper Series No.31
雇用機会再配分と労働再配分-「雇用動向調査」による労働移動の実証分析-

2003年5月
  • 照山 博司(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、京都大学経済研究所教授)

要旨

1.分析の背景

5%を超える失業率に象徴されるように、日本の雇用状況は1990年代に急速に悪化した。この90年代を中心に、雇用変動の背後にある雇用創出・喪失と労働移動(離職・就職行動)についての実証分析を行った。

2.分析目的及び方法

この分析の特徴は、これまで独立して行われることの多かった雇用創出・喪失と労働移動に関する実証分析を、「雇用動向調査」の特別集計によって、同一の統計データに基づいた統一的に行った点にある。90年代の日本の雇用の減退が、企業の雇用創出・喪失活動とどのように関係していたのか、また、その間労働者の転職行動はどのように推移していたのかに焦点を当てたほか、雇用創出・喪失、労働移動の実証に関わるさまざまな分析を行った。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 日本の雇用創出・喪失と労働移動
    1. a. 景気の局面にかかわらず雇用を創出する事業所と喪失する事業所が同時に多数存在する。雇用創出・喪失は規模の小さい事業所ほど頻繁である。(図1)
    2. b. 事業所への労働者のフロー(採用、離職、配置転換、出向による移動)は、雇用創出・喪失をはるかに上回って大きい。雇用創出・喪失が相対的に少なかった大規模事業所でも、労働者のフローは小規模事業所に匹敵するほど大きい。この労働者のフローの大部分は、採用と離職という外部労働市場との間の労働移動からなっており、企業内の事業所間配置転換や出向の占める部分は大企業であっても小さい。(図2)
  1. (2) 1990年代の雇用動向について
    1. a. サービス業では、90年代初めに雇用創出が急減したことが、同時期の雇用の減退をもたらした。サービス業の雇用創出の趨勢的減少は90年代半ばまで続くが、その後は比較的安定した状態にあり、中規模の事業所では90年代後半に回復の兆しを示す。にもかかわらず、90年代末にサービス業の雇用成長がゼロないしマイナスの状態にあるのは、この時期に雇用喪失が増加したことにある。(図1)
    2. b. 90年代初めに製造業の雇用創出も減少したが、大規模事業所を除くと、サービス業ほど大きな減少ではなかった。90年代を通じて、製造業の雇用を大きく減退させた主要な要因は、雇用喪失の急速な増加であった。(図1)
    3. c. 90年代末には雇用喪失が急速に増加するとともに、通常は不況期に減少する転職のための離職がそれほど減少しなかったことが、中小規模事業所の離職者増の背景にあると考えられる。(図2)(図3)

4.結び

90年代においても雇用創出は著しく少なかったわけではない。それを上回って雇用喪失が増加したことが、90年代の雇用低迷にとって重要であった。なかでも、90年代後半に、製造業および中小規模の事業所で多くの雇用機会が喪失されたことが雇用の急減をもたらし、失業率の急上昇に影響したと考えられる。このように、90年代の雇用の低迷は、雇用創出の減少よりも雇用喪失の増加によってもたらされていた側面が強い。ただし、90年代後半には、サービス業および中小規模の事業所を中心に、離職と同時に採用も増加しており、不況期であっても転職活動は停滞していなかったと考えられる。雇用喪失が進行する状況下で、雇用の促進を図るためには、労働者と雇用機会が「適合」するかたちでの労働再配分を進めるために、求人と求職の間の情報交換を促がすような「職業仲介」機能の強化が求められる。


図1 産業、事業所規模別、雇用創出率と雇用喪失率
図2 産業、事業所規模別、採用率と離職率
図3 産業、事業所規模別、転職率

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  2. 概要
  3. 3ページ
    1.はじめに
  4. 5ページ
    2.雇用拡大・雇用縮小の循環的特性
  5. 14ページ
    3.事業所への労働者の流入・流出の時系列的動向
  6. 20ページ
    4.採用と離職の事業所横断的分析
  7. 25ページ
    5.90年代の雇用動向について
  8. 27ページ
    6.雇用機会の創出・喪失と労働再配分:再考
  9. 33ページ
    7.労働再配分と失業
  10. 34ページ
    8.結果の概要
  11. 表1~7別ウィンドウで開きます。(PDF形式 277 KB)
  12. 図1~7別ウィンドウで開きます。(PDF形式 253 KB)
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