ESRI Discussion Paper Series No.32
第三セクターの経営悪化の要因分析-商法観光分野の個票財務データによる実証分析-

2003年5月
  • 赤井 伸郎(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、神戸商科大学助教授)

要旨

1.趣旨及び問題設定

バブル崩壊後、我が国の経済情勢が悪化する状況下において、景気対策として数多くの公共投資が、実施されてきた。しかしながら、その投資は、日本経済を復活させるほどの効果をあげることができず、日本経済は未だに不況を脱せずにいる。その理由を、単なる政策の失敗として片付けるのは限界に来ている。近年、公共投資を提供する手法・組織の非効率性・制度疲労が問題であるという指摘がなされ、政府内でも、公共事業手法の改革の必要性が叫ばれている。

具体的な改革の手法については、様々なものが挙げられているが、そのひとつの方向性が、民間活力(民活)の導入である。特に最近、PFI(Private Finance Initiative)と呼ばれる手法が注目を浴び、政府によっても制度的にかつ、積極的に推進されている。しかしながら、この公共事業手法の改革としての民間活力の導入は、以前から行われており、決して新しいものではない。現にこのタイプの手法としては、過去30年以上も前から、官民出資による共同主体としての「第三セクター」を設立する手法がある。今後多様な公共サービスを効率的に供給していくためには、PFI手法や第三セクターを有効活用することが望まれる。したがって、この手法のメリット・デメリットを厳密に把握することが、今、もっとも重要な課題となっている。

PFIの試みは始まったばかりであり、検証できるデータは存在していない一方で、第三セクターに関しては、これまでに数多くの実例が報告されており、その結果から、民間活力を導入し効率的な公共サービスを提供する際の留意点を明らかにすることが可能である。

これまで第三セクターは公共サービスの提供に関してある程度の成果を収めてきたと考えられるが、近年におけるその評価は、必ずしも良いとはいえない状態にある。したがって、「第三セクター」の失敗の原因を突き止めない限り、現在着目されている民間活力の導入も失敗に終わってしまう可能性がある。厳密な失敗原因の究明が重要なのである。

第三セクターの問題は、新聞・雑誌などで近年の破綻増加が紹介されるにつれて注目を集めている。しかしながら、それらは、事例紹介が主であり、問題点の把握に関しても概念的に捉えられているにすぎない。実際、第三セクターの経営悪化・破綻の本質的原因がどのような問題に起因するのかを明らかにするためには、厳密な検証が必要である。

2.目的及び手法

本稿の目的は、1.であげた問題設定に基づき、個別の第三セクターの財務データを利用し、第三セクターの経営悪化要因を包括的に検討することである。個別の財務データの利用は、個別の第三セクターにかかわる特性をコントロールして、本稿でもっとも着目したい、制度に関わる問題点を導出することを可能にするのである。

経営悪化の要因を包括的に検討すると、まず、外部(第三セクターの制度以外の)要因としては、マクロ要因としての景気悪化、地域要因としての地域構造の変化、政策要因としてのリゾート・民活法による政策誘導などが挙げられる。また、内部(第三セクターの制度内部の)要因としては、曖昧な責任体質(出資割合による馴れ合い)、外部組織の不透明性としての情報公開の不備による説明責任の欠如、政治的効果などが考えられる。

本稿では、最も問題があると見られる観光・レジャー分野の第三セクター(商法法人)に対象を絞り、2001年3月時点の経営状況を現す財務データから、経営悪化の要因を、クロスセクション分析によって検討する。

なお、上記で述べた経営悪化の要因に関わる理論的背景と、その要因を表す変数および予想される符号は、以下の表に示されている。

経営悪化要因の変数と予想される符号
理論的背景 変数 予想される符号
景気のリスク 事業規模 -(ストック指標では不確定)
責任と馴れ合い 民間出資割合 民間の責任体質(+)、民間の実験台(-)
馴れ合い 公共出資のうち主要団体割合(報告団体寄与割合) +(主にストック指標)
既存事業との補完・代替性 地域の産業構造(需要側) 補完的(+)、代替的(-)
景気 マクロ景気要因
政治的効果 地域の産業構造(供給(工事受注)側)
ソフトな予算制約による補填 母体の財政力
説明責任の欠如 情報公開あり ストック指標に+
マクロ政策誘導 マクロ促進政策の効果(リゾート法)

3.分析結果の主要なポイント

近年その経営悪化が議論されている商法法人観光分野の第三セクターをとりあげ、その個別法人の財務データから、経営悪化要因を検討し、これまでに概念論的に議論されてきたさまざまな仮説が、実際にどのくらい妥当であるのかを検証した。その結果、ほぼその妥当性が認められた。(4.3節参照)

この結果から、経営悪化は、以下の要因によってもたらされたと推察できる。

  1. (1) マクロ的な景気悪化の影響は、大規模な開発を行った法人の経営に、より大きな打撃を与えた。
  2. (2) 官と民の責任分担の曖昧性により、民の努力が低下し、経営が悪化した。
  3. (3) 官と官の責任分担の曖昧性により、官の努力が低下し、経営が悪化した。
  4. (4) 地域における需要競争(同業者との競合)により、経営が悪化した。
  5. (5) 雇用確保としての設立、継続により、経営が悪化した。
  6. (6) 地域における政治的圧力を通じた過大投資により、経営が悪化した。
  7. (7) 情報公開の不備による説明責任の欠如により、経営が悪化した。
  8. (8) リゾート法などのマクロ政策による非効率な設立を通じて、経営が悪化した。

4.結び:政策提言

本稿で得えられた結果から、今後、第三セクターやPFIを活用し、民間活力を効率良く利用していくためには、以下の制度整備が必要であるといえよう。まず、官と民の責任分担の明確化および官と官の責任分担の明確化が必要である。推計結果の符号から公による暗黙的な損失補填がよりリスクの高い事業に走らせた可能性が指摘されている。事後的な責任を明確にし、官及び民が責任を持って事業を行う制度作りが必要であろう。また、地域におけるニーズの把握も重要である。さらに、本来の目的(公共サービスの供給)以外の目的による設立の排除(雇用確保や地域産業保護などの政治圧力からの脱却)が必要である。最後に、実際には、これらの制度の整備を行うためには、当事者に説明責任を求めることが必要であり、そのためには、情報公開により、当事者の説明責任を確保することも必要である。

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雇用機会再配分と労働再配分-「雇用動向調査」による労働移動の実証分析-別ウィンドウで開きます。(PDF形式 398 KB)

全文の構成

  1. Abstract
  2. 4ページ
    1.はじめに
  3. 6ページ
    2.第三セクターの現状
    1. 7ページ
      2.1 現存第三セクターの概要
    2. 11ページ
      2.2 現存第三セクターの財務状況1:フロー
    3. 14ページ
      2.3 現存第三セクターの財務状況2:ストック
    4. 17ページ
      2.4 まとめと分析すべき対象
  4. 18ページ
    3.経営悪化の要因
    1. 18ページ
      3.1 外部(制度外的)要因
    2. 19ページ
      3.2 内部(制度的)要因
    3. 20ページ
      3.3 財務内容を評価する際の留意点
    4. 21ページ
      3.4 得られる仮説
  5. 25ページ
    4.実証分析
    1. 25ページ
      4.1 モデル
    2. 26ページ
      4.2 データ
    3. 30ページ
      4.3 結果の解釈
  6. 32ページ
    5.本稿の結果まとめと政策提言
    1. 33ページ
      補論1:出資割合とモラルハザード問題
    2. 36ページ
      補論2:事業選択のモデル
    3. 38ページ
      補論3:金融機関の貸出行動を考慮した分析
    4. 40ページ
      参考文献
    5. 41ページ
      参考資料
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