ESRI Discussion Paper Series No.33
保育士の賃金決定要因と賃金プロファイル-ミクロデータによる検証-

2003年5月
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
鈴木
(大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授)
野口晴子
(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、東洋英和女学院大学助教授)

要旨

1.趣旨、問題設定

保育サービス市場を充実させていくことは、働く意欲のある女性の労働供給を後押しするためにはなくてはならない。しかし、現実には「待機児童問題」にみられるように、大都市部の低年齢児を中心に、高コストによる供給不足が深刻である。今後少子化の進展による労働供給の減少が見込まれる中で、男女が共同で社会に参画していく仕組みを作るためにも、低コスト・高品質の保育サービスの充実が非常に重要な政策課題となっている。

しかし、驚くべきことに、保育サービス市場の実証分析は極めて少なく、これまで保育サービス市場の全体像がミクロデータによって明らかにされたことはない。この状況では実証に基づいた政策の企画立案から程遠い。

この論文を皮切りとする「保育サービス市場の実証研究」シリーズでは、これまでにない豊富なミクロデータを用いた実証分析を行う。そのねらいは、保育サービス市場の全貌を明らかにし、制度改革に向けた政策提言を行うことにある。

2.手法

保育サービスは労働集約的である。従って、保育士の賃金水準は保育コストに大きな影響を与える。保育士の賃金構造の分析は保育サービス市場の分析の出発点となる。

本論文では、2002年に収集した関東近県10都県の約17,000名の保育士の詳細なデータをもとに、これまで日本で明らかにされてこなかった保育士の賃金決定要因を検証した。さらに賃金が年齢に従ってどの程度上昇していくのかをみるために、賃金プロファイルを描いた。保育士の賃金に関するこれほどまでに豊富なミクロデータはこれまでなく、本論文によって、日本の保育士の賃金構造や賃金プロファイルが初めて明らかになった。

本論文では、認可保育所における賃金構造、つまり、公立認可保育所と私立認可保育所の間の賃金構造の違いに焦点を当てた。認可保育所と準認可保育所の間の賃金構造の違いについては、保育サービス市場の実証研究2「保育サービス市場における営利・非営利の賃金格差―ミクロデータによる検証」を参照していただきたい。

3.分析結果の主なポイント

  1. (1) 時給ベースでみると、公立認可の保育士は私立認可に比べて約20%高い。
  2. (2) 常勤保育士については、年齢、経験年数、教育水準、資格などによって、賃金が高くなる傾向にある。常勤保育士の賃金はいわゆる年功序列制をそのまま反映している。一方、非常勤保育士については、それが当てはまらない。
  3. (3) 人的資本の増加に対する収益をみると、増加に伴う収益逓減は、公立認可よりも私立認可の方が著しい。
  4. (4) 賃金プロファイルを描くと、常勤保育士では公立認可の方が私立認可よりもかなり勾配が急である。一方、非常勤保育士では、公立、私立ともそれほど勾配は急ではない。

4.おわりに

賃金プロファイルをみると、公立と私立認可の常勤保育士の間でかなりの勾配の差がみられた。これは公立保育所が提供する保育サービスの質がそれだけすぐれていれば正当化される。しかし、非常勤保育士の賃金プロファイルにはそれほど大きな違いは見出せないことから、そのまま正当化するには無理がある。

今後の課題として、保育サービスの質が経営主体別にどの程度異なるのか、賃金を含めたすべてのコストについて、サービスの質の違いを考慮した上で、どの経営主体が効率的なのかについて、検証を深めていく必要があろう。

項目別ダウンロード(全9ファイル)

  1. Abstract別ウィンドウで開きます。(PDF形式 108 KB)
  2. 2ページ
    1.Introduction
  3. 4ページ
    2.Previous Research
  4. 6ページ
    3.Empirical Specification and Data
  5. 10ページ
    4.Results
  6. 13ページ
    5.Conclusion
  7. 16ページ
    Appendix
  8. 18ページ
    References
  9. Table別ウィンドウで開きます。(PDF形式 32 KB)
  10. Figure1 (1,2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 316 KB)
  11. Figure1 (3,4)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 408 KB)
  12. Figure2 (1,2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 323 KB)
  13. Figure2 (3,4)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 409 KB)
  14. Figure3 (1,2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 313 KB)
  15. Figure3 (3,4)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 402 KB)
  16. Appendix (Table , Figure)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 86 KB)
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