ESRI Discussion Paper Series No.34
保育サービス市場における営利・非営利の賃金格差-ミクロデータによる検証-

2003年5月
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
鈴木
(大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授)
野口晴子
(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、東洋英和女学院大学助教授)

要旨

1.趣旨、問題設定

いわゆる「待機児童問題」にみられるように、大都市部の低年齢児を中心に、高コストによる保育サービスの供給不足が深刻である。その解消のためには、低コスト・高品質の保育サービスを充実させていくことが急務となっている。

1つの有力な方向性として議論されているのが、営利主体による保育サービス市場への参入の促進である。これによって、競争をさらに推し進め、市場全体を効率化していくことが期待されている。

しかし、保育コストの大部分を占める保育士の賃金について、一体営利主体と非営利主体でどの程度格差があるのかについては、これまで明らかにされたことはない。本論文では保育士に関する豊富なミクロデータを用いて、日本の保育サービス市場における非営利プレミアムについては初めて検証を試みる。

2.手法

本論文では、2002年に収集した東京都の準認可保育所の保育士約170名及び同じ市区町村にある私立認可保育士約900名の詳細なデータをもとに、日本の保育サービス市場における営利・非営利の賃金格差を検証した。

営利・非営利主体の賃金格差については、以下の二通りの考え方がある。

  1. (1) 非営利主体は利益を外部に配分することができない利益分配制約があるために、営利主体よりも賃金を高く設定する(「非営利プレミアム」)。
  2. (2) 非営利主体で働く労働者は賃金だけでなく社会的貢献などを重視するため、営利主体で働く労働者よりも賃金は低い。

アメリカでは保育サービス市場の非営利プレミアムについてもすでに数多くの研究がなされてきている。しかし、日本の保育サービス市場でどちらの仮説が成立するかは、これまで全く検証されてきていない。

なお、本論文では、私立認可保育所と準認可保育所の賃金格差に注目する。公立認可保育所と私立認可保育所の間の賃金構造の違いについては、保育サービス市場の実証研究1「「保育士の賃金決定要因と賃金プロファイル―ミクロデータによる検証―」を参照していただきたい。

3.分析結果の主なポイント

  1. (1) 日本の保育サービス市場では明らかに非営利プレミアムが観察される。時給ベースでみると、様々な労働者や施設の特徴をコントロールしても、私立認可保育所で働く保育士の賃金は準認可保育所よりも約30%弱高い。
  2. (2) 私立認可保育所では、賃金決定にあたって、年齢、経験年数、教育水準、資格の有無をより重視する。逆に、そうした属性を持つ保育士は、準認可保育所よりも私立認可保育所で働くことを選ぶ傾向にある。

4.おわりに

本論文では、日本の保育サービス市場で非営利プレミアムが存在することをはじめて明確に示した。今後の課題として、保育サービスの質が経営主体別にどの程度異なるのかを検証することで、この賃金格差が正当化されるかどうか、検証を進めていく必要があろう。

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Nonprofit Wage Premiums in Japan's Child Care Market:Evidence from Employer-Employee Matched Data別ウィンドウで開きます。(PDF形式 140 KB)

全文の構成

  1. Abstract
  2. 2ページ
    1.Introduction
  3. 3ページ
    2.Previous Research
  4. 5ページ
    3.Empirical Specification
  5. 8ページ
    4.Data
  6. 12ページ
    5.Results
  7. 13ページ
    6.Factor D ecomposition Analysis of Wage Differentials B etween T wo Sectors
  8. 15ページ
    7.Conclusion
  9. References
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