ESRI Discussion Paper Series No.36
信用乗数の変化はいかに説明できるか

2003年5月
  • 飯田 泰之(駒沢大学専任講師、内閣府経済社会総合研究所客員研究官)
  • 原田 泰(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
  • 浜田 宏一(イェ-ル大学教授、前内閣府経済社会総合研究所所長)

要旨

1.趣旨および背景

1990年代以降,日本は長期の経済停滞,デフレーション,マネーサプライの低迷を経験している.しかし,その対策としての金融緩和はデフレ脱却やマネーサプライの上昇に大きな効果を生んでいないように見える.その理由の一つとして,信用乗数が低下していることがあげられる.そこで,本稿では,信用乗数がなぜ低下したのかを,特に90年代を中心に考察し、どうすれば信用乗数を上昇させることができるかを考えた。

2.目的および手法

本稿の目的は,80年以降の信用乗数変化の要因を概観し,特に90年代の信用乗数の低下がなぜ生じたのかを寄与度分解と信用乗数を説明する2つの仮説 - 貨幣保有の機会費用である名目金利の役割に注目するBailey-Friedman仮説(B-F仮説)と貨幣の取引需要に注目するMitchell-Hawtrey仮説(M-H仮説)により検討することである。さらにはより広く貨幣保有のインセンティブを考慮し,期待インフレ率などを加えVARモデルによる信用乗数説明を試みた.

3.分析結果の主なポイント

得られた結果は,以下の3つである.第1に,90年代の信用乗数低下を寄与度別に分解すると,家計の現金保有性向上昇の寄与は極めて大きい.第2に80年代,90年代ともに期待インフレ率の動向が信用乗数に影響を与えている.以上,第1,第2の結果は,B-F仮説と整合的である.しかし,M-H仮説と整合的な結果は得られなかった.第3に90年代の信用乗数低下期に限定した推計では不良債権残高の動向も信用乗数の変化に有意な影響を与えていることである.しかし,その影響は数量的には無視できるほどの大きさである.

4.むすび

信用乗数の低下が以上の分析のような要因から導かれたものであるとすると,どうすれば,信用乗数を高めることができるだろうか.家計の現金保有性向の上昇もデフレ期待がかかわっていることからすれば,デフレ期待を払拭することが重要であると思われる.では,デフレ期待はどうすれば払拭できるかは,本稿の分析からでは十分には明らかにならない.また,不良債権処理が信用乗数を高める可能性は示されたが,その効果は数量的にはわずかであった.その財政コストを考えれば,信用乗数を高めるための方策としては限界があろう.

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全文の構成

  1. 要約
  2. 5ページ
    1.はじめに
  3. 6ページ
    2.信用乗数の動向
  4. 8ページ
    3.信用乗数の変動要因
  5. 10ページ
    4.信用乗数の説明モデル
    1. 10ページ
      推定の準備
    2. 11ページ
      グレンジャーの因果性
    3. 11ページ
      インパルス応答
    4. 12ページ
      推計結果(1983年1月~2001年12月)
    5. 13ページ
      信用乗数低下期(1992年1月~2001年12月)
    6. 14ページ
      景気の代理変数を含まない推計
    7. 14ページ
      数量効果の分析
  6. 15ページ
    5.おわりに
  7. 15ページ
    参考文献
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