ESRI Discussion Paper Series No.38
金融機関の健全性と地域経済 - 都道府県別データによる検証

2003年5月
  • 堀 雅博(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
  • 木滝 秀彰(内閣府経済社会総合研究所研究交流官補佐)

要旨

1.趣旨及び背景

1990年代以降の日本経済の低迷要因を説明する仮説として、不良債権問題等による金融機能低下が広範に議論されている。しかし、金融機能の低下によるマクロ経済への悪影響を量的に明らかにした実証分析は多くない。本研究では、金融機能低下論の中でもとりわけ、資金仲介における情報の非対称性を重視する諸仮説に注目し、それらが日本経済の低迷を説明するに十分か否かを検証するための材料を提示する。

2.目的及び手法

本研究の目的は、金融機関の機能低下が経済パフォーマンスを悪化させるとする金融機能低下論のうち、資金仲介における情報の非対称性を前提とする3つの仮説、すなわち(1)不良債権累増による自己資本の毀損、(2)金融機関破綻による蓄積情報の喪失、(3)資産価格下落による担保価値の下落、に起因するクレジット・クランチ論に焦点をあて、その現実妥当性を検証することである。

そこで、都道府県別の金融機関の健全性や貸出動向と、県内総生産増加率等の地域経済のパフォーマンスを示す指標との間の相関分析を行うとともに、「工業統計調査」を利用し、都道府県別・産業別・企業規模別データを用いた回帰分析により、産業・企業規模をコントロールした上で、金融機関の健全性や貸出動向が設備投資に与えた影響について分析している。

3.分析結果の主要なポイント

都道府県別データの比較分析や、地域・産業・企業規模別の設備投資増加率に関する多変量回帰分析によれば、金融機関の総合的な財務状況や金融機関破綻の多寡あるいは地価の変化率と、県内総生産や設備投資の増加率などの経済パフォーマンスとの間には、有意な関係は見られない。また、企業規模によって影響が異なるという関係も有意には見出せない。これらは、前述した3つの仮説を長期低迷の主因と考える議論に疑念を呈する材料と言えよう。

4.結びに

資金仲介における情報の非対称性を前提とする仮説(1)~(3)に関する限りにおいて、金融機能の低下が日本経済の長期停滞を招いている主因であると主張することは難しい。ただし、本研究の結果は、こうしたメカニズムの存在自体を否定するものではないこと、「追い貸し」の悪影響など、本研究では扱えていない経路によって金融問題が長期低迷の原因となっている可能性まで否定するものではないこと等には注意が必要である。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1.はじめに
  2. 2ページ
    2.情報の非対称性下における資金仲介機能低下の影響:整理と検討
    1. 2ページ
      2.1 先行研究に見るメカニズム
    2. 3ページ
      2.2 考察
  3. 4ページ
    3.都道府県別データによる鳥瞰
    1. 4ページ
      3.1 銀行評点と金融機関破綻比率
    2. 5ページ
      3.2 相関分析1:金融機関の健全性と銀行貸出・県内総生産
    3. 7ページ
      3.3 相関分析2:金融機関の健全性と設備投資
    4. 8ページ
      3.4 金融機関の健全性と企業規模別投資
    5. 9ページ
      3.5 担保動向と企業規模別投資
  4. 10ページ
    4.多変量回帰分析
    1. 10ページ
      4.1 推定モデル
    2. 11ページ
      4.2 データ
    3. 13ページ
      4.3 基本モデルの推定結果
    4. 13ページ
      4.3(補1) 結論の頑健性:モデルの拡張
    5. 14ページ
      4.3(補2) 結論の頑健性:操作変数法による結果
    6. 15ページ
      4.4 地価と設備投資
  5. 16ページ
    5.結語
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