ESRI Discussion Paper Series No.43
日本の主要な援助対象9カ国におけるツーギャップ・モデルの有効性多変数自己回帰分析の応用

2003年6月
山下道子
(内閣府経済社会総合研究所)
アニール・カチ
(前若手政策研究者育成プログラム研修員)

要旨

1.目的と背景

開発途上国にはASEANを含む東アジア諸国のように、1980年代以降、急速な経済成長を遂げた国もあれば、中南米諸国のように1980年以降、経済が停滞あるいは後退した国もある。サブサハラ・アフリカ諸国では1960年以降、ほとんど経済成長が見られない。一方、長い停滞が続いていた南アジア諸国では、最近になって成長の兆しが現れている。グローバリゼーションの波は途上国にも押し寄せているが、その影響は国によって様々である。

本研究の目的は、日本の主要なODA対象国であるバングラデッシュ、ブラジル、中国、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、ペルー、タイの9カ国について、その成長促進(制約)要因を統計的に明らかにすることである。

2.分析手法

ハロッド・ドーマーの古典的な成長モデルは、生産技術が一定という仮定の下で、資本蓄積のみが経済成長の原動力であるとしている。したがって、成長を実現するためには持続的な投資が不可欠である。しかし、途上国には投資の原資となる貯蓄と、投資財を生産する技術が不足している。ツーギャップ・モデルは、貯蓄不足(投資と貯蓄のギャップ)と投資財・原材料を輸入するための外貨不足(輸入と輸出のギャップ)が途上国の成長を阻害する2つの要因である、とする理論モデルである。

本研究ではこのツーギャップ・モデルの理論的枠組みを用いて、投資、輸入、外貨収入のいずれが途上国の成長促進(制約)要因であるのかを、9カ国の時系列データを用いた多変数自己回帰分析(VAR)の手法によって明らかにする。

3.主要な分析結果

グランジャーの因果性分析によると、経済成長を促進(制約)する要因は、バングラデッシュ、中国、インドネシア、マレーシア、パキスタンについては投資、マレーシアでは輸入、タイでは外貨収入という結果になった。外貨収入はバングラデッシュ、ペルー、タイでは投資の要因である一方、中国、インドネシア、タイでは輸入の要因でもある。逆に、バングラデッシュ、ブラジル、インドネシア、マレーシア、パキスタン、タイでは経済成長が投資または輸入を促進(制約)する要因であることが分かった。これは途上国がいったん高成長を遂げれば、自ら貯蓄制約を解消して成長軌道へと離陸する可能性があることを示している。

他方、インパルス応答分析によれば、いずれの国でも翌年の経済成長に最も大きな影響を及ぼすのは前年の経済成長である。それを除くと、バングラデッシュ、中国、パキスタン、タイでは投資、マレーシアでは輸入の影響が大きい。インドでは投資と輸入、またペルーでは投資、輸入、外貨収入が同程度の影響を及ぼしている。しかし、ブラジルではそのいずれもが経済成長に主要な影響を及ぼしていない、という結果を得た。

4.結語

VARモデルによる分析結果は、ツーギャップ・モデルが想定する成長促進(制約)要因を明確に特定するものではなく、途上国がそれぞれの実情に応じた開発戦略をとる必要があることを示している。

本文のダウンロード

Vector Autoregressive Analysis of the Validity of the Two-gap Model for Nine Large Recipients of Japan’s ODA別ウィンドウで開きます。(PDF形式 421 KB)

全文の構成

  1. Chapter1: Historical evolution of Japan's ODA
    1. 1ページ
      1.1. Overview of Japan's ODA
    2. 4ページ
      1.2. Large recipients of Japan's ODA
    3. 9ページ
      1.3. Development paths of the recipients
  2. Chapter2: Two-gap models and time- series a nalysis
    1. 15ページ
      2.1. Theories of development assistance
    2. 17ページ
      2.2. Methods of e mpirical a nalyses
  3. Chapter3: Empirical VAR model a nalysis
    1. 24ページ
      3.1. VAR model specification
    2. 25ページ
      3.2. Unit root tests
    3. 25ページ
      3.3. Gra nger causality tests
    4. 25ページ
      3.4. Impulse response a nalysis
    5. 25ページ
      3.5. Variance decompositions
    6. 26ページ
      3.6. Conclusions
  4. 39ページ
    References
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)