ESRI Discussion Paper Series No.45
賃金の硬直性と金融政策の重要性

2003年6月
  • 原田 泰(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
  • 川崎 研一(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
  • 江川 暁夫(内閣府政策統括官(総合企画調整担当)付参事官補佐)
  • 木滝 秀彰(内閣府経済社会総合研究所研究交流官補佐)

要旨

1.趣旨および背景

1990年代以降の経済停滞において、実質賃金が上昇していたことは次第に注目されるようになってきた。この実質賃金の上昇は、90年代初に導入された時短と、同時に採用されたデフレ的な金融政策によって引き起こされたものである。しかし、この実質賃金の上昇がどの程度実質GDPを停滞させたかという分析は必ずしも多くはない。

2.目的および手法

そこで本稿では、第1に、90年代に生じたデフレーションによる実質賃金がどの程度のものであったかを簡単な推計式によって計測し、第2に、VARモデル、伝統的な計量経済モデル、応用一般均衡モデルによって、この実質賃金の上昇がどの程度経済を停滞させるかを数量的に分析した。

3.分析結果の主なポイント

デフレーションがどれだけ実質賃金を上昇させたかを計測すると、1%のデフレーションが1%以上の実質賃金の上昇をもたらすという係数を得た。ただし、その正しさについては議論の余地がある。

次に、何らかの理由で、実質賃金が、市場の決定とは別に1%上昇した場合に何が起きるかを計測した。マクロ計量モデルでは、実質賃金の上昇が実質GDPに与える影響はさほど明確に計測されていない。それに対して、AD-AS=VARモデルと応用一般均衡モデルでは、実質賃金の上昇は実質GDPを引き下げ、特に、応用一般均衡モデルではその効果は大きかった。

4.むすび

応用一般均衡モデルとマクロ計量モデルで、実質賃金上昇の影響が異なるのは、IS-LMカーブを基本としたケインズ型の短期経済モデルでは、賃金上昇の雇用に与える効果は小さく、消費に与える効果が大きく計測されることによると考えられる。しかし、賃金の雇用に対する弾性値が小さいという推計結果は、短期のものに過ぎない。長期のデフレーションによって生じた実質賃金の累積的な上昇の長期的な効果は、VARモデル、応用一般均衡モデルによって描写される姿に近いと思われる。

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全文の構成

  1. 1ページ
    はじめに
  2. 1ページ
    1.生産と実質賃金
    1. 2ページ
      時短と実質賃金上昇
    2. 3ページ
      デフレーションと実質賃金
  3. 4ページ
    2.デフレーションによる実質賃金上昇の効果
  4. 6ページ
    3.実質賃金の上昇と生産の停滞
    1. 7ページ
      (1)VARモデルによる分析
      1. 8ページ
        AD-AS=VARモデル
      2. 10ページ
        推計結果
    2. 11ページ
      (2)マクロ計量モデル分析
      1. 14ページ
        三面等価の重要性
    3. 15ページ
      (3)応用一般均衡モデル分析
  5. 17ページ
    むすび
  6. 19ページ
    参考文献
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