ESRI Discussion Paper Series No.49
ILO基準社会保障費との比較で見たSNA社会保障統計

2003年7月
  • 浜田 浩児(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

要旨

I.趣旨

社会保障に関する統計は、国民経済計算(SNA)の重要な一環を構成し、しかも、最新の国民経済計算体系である93SNAへの移行により強化されている。社会保障の規模については、ILO基準による社会保障費の国民所得比やGDP比が用いられることが多いが、国民所得やGDPを含む体系であるSNAに基づいた社会保障統計によれば、社会保障の国民所得比やGDP比を一貫した体系の下で求めることができる。また、SNAの社会保障統計は、ILO基準社会保障費より早く、国民所得比やGDP(確報)の計数と同時期に計数が得られる。

ただし、ILO基準社会保障費は、制度別内訳だけでなく、部門別(年金、医療、福祉等)、機能別(高齢、保健医療、遺族、失業等)、対象者別(高齢者、高齢者以外)にも給付費の内訳が得られる。また、給付・負担だけでなく、公費負担、資産収入(財産所得)等についても制度別内訳が得られる。

したがって、社会保障の規模等を把握するには、SNAとILOの社会保障統計を補完的に合わせて用いることが望ましい。そのためには、両者を比較し、その関連や相違を分析することが必要である。両者は若干異なり、93SNA移行に伴う新たな相違点も生じているため、93SNA移行による変更を踏まえたSNAとILOの社会保障統計の比較を行うものである。

II.分析手法

SNAとILOの社会保障統計について、定義、分類を比較し、制度ごと(各社会保険、共済組合など)かつ形態ごと(現金・現物給付、雇主・雇用者負担など)に両者を対応付ける。これに基づき、制度ごとかつ形態ごとに、SNAとILOの社会保障統計の推計方法を調べ、比較するとともに、両者の計数(推計結果)の相違及びその要因を分析した。

III.分析結果の主要なポイント

  1. 1. SNAとILOの社会保障統計を比較すると、負担面ではSNAの方が低くなっている。これは、SNAが、給付と負担がリンクしないことを社会保障の要件としているために積立方式の厚生年金基金等を除外していることによるところが大きい。給付と負担がリンクしないことは93SNAで新たに盛り込まれたため、この厚生年金基金等の除外は、93SNA移行に伴って生じた ILOとの相違点である。厚生年金基金等の保険料が増加していることから、負担計でSNAがILOを下回る開差は拡大傾向にある。
  2. 2. 一方、給付面については、SNAとILOの差は、負担面よりかなり小さい。SNAが負担面と同じく厚生年金基金等を除外していること、保育所への経常費補助(措置費)を除外していること等のILOを下回る要因と、SNAが退職一時金を計上していること、社会扶助給付に地方政府独自の移転分を計上していること等のILOを上回る要因がある。

IV.結び

SNAの社会保障移転・負担は、ILOの社会保障給付・拠出とやや異なり、特に負担面でSNAのほうが低くなっているが、ILOでは社会保障が独立に把握されるのに対し、SNAでは社会保障はマクロの勘定体系の一部であるという両者の位置付けの違いから当然に生じる面が大きい。

したがって、各国ともSNAとILOの差は同様の要因によるはずであるから、SNAの計数がILOより早く得られることを利用して、ILOによる国際比較より新しい年次についてSNAによる国際比較で補える可能性がある。逆に、SNAで制度別内訳がない給付と負担以外の社会保障統計について、ILOを概念調整することで補える可能性がある。このように、SNAとILOの社会保障統計は補完的に利用できる関係にある。

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全文の構成

  1. 4ページ
    はじめに
  2. 5ページ
    I.93SNA移行による社会保障の表章強化
    1. 5ページ
      1.所得支出勘定
      1. 6ページ
        (1)社会保障基金に関する給付と負担
      2. 7ページ
        (2)社会扶助
      3. 7ページ
        (3)無基金雇用者社会給付、帰属社会負担
    2. 8ページ
      2.社会保障基金の所得支出
    3. 9ページ
      3.社会保障の給付と負担の制度別内訳
  3. 9ページ
    II.SNAの社会保障統計のILO基準社会保障費との比較
    1. 10ページ
      1.定義
    2. 10ページ
      2.分類
      1. 11ページ
        (1)制度の分類
      2. 11ページ
        (2)形態の分類
    3. 11ページ
      3.具体的な相違点
      1. 11ページ
        (1)対象とする主体の相違
        1. 11ページ
          (a)厚生年金基金等の除外
        2. 12ページ
          (b)社会保障基金以外への負担の除外
        3. 12ページ
          (c)旧公共企業体職員業務災害補償の不計上
        4. 12ページ
          (d)地方議会議員共済会のその他の共済組合への分類
        5. 12ページ
          (e)保険料の介護保険への分類
      2. 13ページ
        (2)対象とする項目の相違
        1. 13ページ
          (a)退職一時金の計上
        2. 13ページ
          (b)地方政府独自の移転分の計上
        3. 13ページ
          (c)保育所補助金等の不計上
        4. 14ページ
          (d)調整保険料の不計上
        5. 14ページ
          (e)返納金等の控除
      3. 14ページ
        (3)基礎資料の相違
        1. 14ページ
          (a)公費負担の加算
        2. 14ページ
          (b)確報と確々報
        3. 15ページ
          (c)介護保険給付の発生主義による記録
    4. 15ページ
      4.推計結果
      1. 15ページ
        (1)給付面
      2. 16ページ
        (2)負担面
    5. 17ページ
      5.SNAとILOの社会保障統計の補完的利用
      1. 17ページ
        (1)社会保障規模の国際比較
      2. 17ページ
        (2)財産所得の制度別内訳
  4. 18ページ
    III.結論
  5. 29ページ
    参考文献
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)