ESRI Discussion Paper Series No.55
資産価格変動と消費行動のミクロ・データによる研究

2003年8月
雅博
(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所)

要旨

1.趣旨、問題設定

長引く日本経済の低迷を理解する上で、需要の最大構成項目である家計消費の分析は不可欠である。しかしながら、90年代の民間消費をどのような要因が規定していたかについて十分な検証がなされているとは言い難く、実証分析の蓄積が喫緊の課題となっている。

本研究は、こうした問題意識に立って、一昨年来、ミクロ・データを活用した各種政策効果の実証研究を進めてきた研究成果の一環である。こうした分析は、従来、集計マクロ・データ(SNA)を用いて行われてきたが、近年における計量経済学の進歩の結果、ミクロの経済主体の最適化行動から導かれる理論モデルを集計データで分析することの限界が明らかになった。本研究ではこうした進展を踏まえ、財団法人家計経済研究所より提供された「消費生活に関するパネル調査」の個票データを用い、90年代の資産価格変動が消費行動に与えた影響を分析している。

2.目的及び分析手法

本研究では、将来の政策策定等に不可欠な実証的検証例を提供する観点に立ち、主として「消費生活に関するパネル調査」の個票データを活用しつつ、90年代に生じた大幅な価格変動が個々の家計の消費行動に与えた影響に関する定量的評価を試みている。より具体的には、

  1. a. 資産保有者と非保有者で資産価格変動に対する消費の反応はどのように異なったか.
  2. b. 保有資産の種類・性質により資産価格変動に対する消費の反応に違いが生じたか.
  3. c. 資産価格変動時の消費変動から計測される限界消費性向(MPC)は如何程だったか.

等を検証した。

3.分析結果の主要なポイント

分析結果をまとめれば、以下の通り。

  1. (1) 資産価格変動が消費に影響する経路
    • 個票データに基づく推計結果では、資産価格変動は期待等を通じる「間接効果」ではなく、資産保有主体の予算制約を変更する「直接効果」を通じ家計消費行動に影響したと考えられる。
  2. (2) 保有資産の種類・性質に基づく資産効果の大小
    • 直接効果は株式資産、不動産(土地・家)資産の差異にかかわらず観察されたが、株式資産においてより有意に検証された。
  3. (3) 資産価格変動に由来する消費変動の限界消費性向
    • 資産効果の限界消費性向は、株式資産、実物資産に関わらず0.05から0.1程度と推定され、この大きさは米国での研究と概ね同水準、(主として集計データに依拠してきた)日本の先行研究に比べれば若干大きめの推定結果となっている。

4.結び

景気の低迷が続く中で、家計消費を如何にして上向かせるかは喫緊の政策課題である。バブル崩壊後の資産価格の低迷が今日の消費低迷の一要因であることは疑いないだろう。本分析の結果を見ても、資産価格変動は家計消費に無視できない影響を与える。

政策効果分析ユニットでは、今後も引き続き消費行動のミクロ・データによる分析を継続し、政策策定に有益な客観的実証分析の蓄積に努めたい。

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Asset Holding and Consumption:Evidence from Japanese Panel Data in the 1990s別ウィンドウで開きます。(PDF形式 130 KB)

全文の構成

  1. abstract
  2. 3ページ
    1.Introduction
  3. 4ページ
    2.Literature Review
  4. 6ページ
    3.Data
  5. 8ページ
    4.4. Direct vs. Indirect Effects on Consumption by Assetholders and Non-holders
  6. 11ページ
    5.Estimates of the MPC out of wealth gains/losses
  7. 13ページ
    6.Conclusion
  8. 14ページ
    References
  9. 15ページ
    Figures and Tables
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