ESRI Discussion Paper Series No.56
デフレ期待と実質資本コスト
-ミクロデータによる90年代の設備投資関数の推計-

2003年8月
  • 清水谷 諭(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
  • 寺井 晃(東京大学大学院博士課程)

要旨

1.趣旨、問題設定

90年代にとられた累次の金融緩和政策により、名目金利は相当程度低下した。しかし、それに伴って企業の直面する資本コストが実際にどのように変化し、設備投資をどの程度刺激したかについては、ほとんど明らかになっていない。特に90年代には長期にわたって物価上昇率の低下傾向が見られ、マイナスのインフレ期待(デフレ期待)が醸成された、従って、実質資本コストはそれほど低下せず、従って設備投資を刺激する効果を持ち得なかった可能性がある。

本論文では企業レベルの実質資本コストを計測し、名目資本コストの動きと対比させながら、90年代の動向を検証するとともに、企業レベルの設備投資関数を推計し、実質資本コストの変化が設備投資に与える影響を定量的に評価した。

2.手法

本論文ではまず、企業レベルの財務データ(日本政策投資銀行『企業財務データバンク』)等を用い、それぞれの企業の名目資本コストを計測した。さらに、Carlson and Parkin (1975)を一部修正した方法により、卸売物価指数や日銀短観のサーベイデータ等を用いて、業種別の期待インフレ率を計測した。それらを差し引くことによって、企業レベルの実質資本コストを求めた。

さらに、新古典派的な設備投資関数を想定し、推計した実質資本コストの変化が設備投資に与える影響を企業レベルで推計した。

3.分析結果の主なポイント

  1. (1) 製造業、非製造業ともに、90年代を通じて実質資本コストは低下したものの、デフレ期待によって、90年代前半は実質資本コストの低下のスピードは遅い。また、90年代後半には実質資本コストは横ばいないしむしろ上昇している。
  2. (2) 企業レベルの設備投資関数を推計した結果、資本コストの変化は設備投資に対してマイナスで統計的に有意な効果をもち、資本ストックに対する弾力性は-0.1から-0.2程度と推定される。

4.おわりに

本論文が明らかにしたことは、実質資本コストは設備投資の動きを決める大きな要因であり、90年代にはデフレ期待によって、名目金利の動きほど、実質資本コストが低下せず、設備投資が刺激されなかったという点である。

従って、設備投資を刺激するためには、さらに実質資本コストを引き下げることが必要である。名目金利がすでにかなり低い水準まで低下している現状では、インフレ期待を高め、実質資本コストの低下を促す金融政策が求められる。

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  2. 2ページ
    1.はじめに
  3. 4ページ
    2.これまでの資本コストに関する実証研究
  4. 5ページ
    3.実質資本コストの計測
    1. 6ページ
      3-1 実質資本コストの計測方法
    2. 6ページ
      3-2 実質資本コスト計測で用いるデータ
    3. 8ページ
      3-3 期待インフレ率の推計方法
    4. 11ページ
      3-4 計測された実質資本コストの推移
  5. 13ページ
    4.設備投資関数の推計
  6. 16ページ
    5.政策的インプリケーションと今後の課題
  7. 18ページ
    (参考文献)
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