ESRI Discussion Paper Series No.61
SNA概念による高齢者の所得・資産分布-世帯所得・資産と等価尺度(equivalence scale)による分析-

2003年9月
  • 浜田 浩児(内閣府経済社会総合研究所情報研究交流部長)

要旨

I.趣旨

高齢者の所得・資産分布については多くの分析がなされているが、所得等の概念は分析に利用される統計等によってさまざまである。SNA(国民経済計算)は、所得等について客観的、体系的、かつマクロ経済と整合的な概念定義を与えるものである。また、SNAでは、賃金、財産所得等の各所得要素や消費、貯蓄、資産・負債等を家計勘定の中に体系的に位置付け、結びつけて分析できる。

したがって、全世帯合計がSNAの家計部門の計数に見合うような資産・負債等の分布統計(家計の所得階層別等の統計)に基づき、SNAベースで高齢者の所得・資産分布を分析することには重要な意義がある。国民経済計算の国際基準である93SNA自体も、分布統計が必要であると述べている。

II.分析手法

分布統計に基づき、分布尺度を用いて高齢者の所得、資産等の格差の把握やその構成要素による要因分解を行った。対象は高齢者(65歳以上)のいる世帯とし、高齢者個人単位の分布を見るため、世帯所得が世帯員に均等に享受されるものと考え、高齢者のいる世帯の所得等を等価尺度(equivalence scale)で除すことにより高齢者の所得等を求めた。等価尺度は、世帯人員や世帯員の年齢といった世帯の構成の相違が世帯員の生活水準に及ぼす影響に配慮したもので、等価尺度で世帯所得を除した等価所得は、世帯人員1人当たりの生活水準を表すと考えられる。等価尺度は生活保護基準に基づいて推計した。

III.分析結果の主要なポイント

  1. 1999年における高齢者の第1次所得の格差は、混合所得(総)、賃金・俸給といった稼得所得や営業余剰(持ち家)(総)を中心に、1994年より拡大した。これに対し、可処分所得、調整可処分所得の格差は横ばいまたは低下している。これは、現金による社会保障給付(公的年金等)、現物社会保障給付(医療保険給付)の所得再分配効果が高まったことから、第1次所得の格差上昇の効果が相殺されたためである。また、正味資産の格差は縮小している。これについては、金融資産がウェイト(正味資産に対する構成比)の上昇により格差拡大に働いたものの、有形非生産資産(土地)が格差縮小に働いたことによる。
  2. 高齢者の所得・資産格差を高齢者以外も含む全体のものと比較すると、高齢者の第1次所得の格差は、営業余剰(持ち家)(総)、混合所得(総)を中心に、上昇幅、水準とも全体の場合より大きい。これに対し、高齢者の可処分所得、調整可処分所得の格差の水準は全体の場合と同様であり、上昇幅が第1次所得よりかなり小さい点も同じである。これは、現金による社会保障給付のウェイト(第1次所得に対する構成比)が、高齢者では全体の場合よりも大きいことから、その所得再分配効果が拡大幅、水準とも大きいこと等による。また、高齢者の正味資産格差の縮小幅は、全体の場合よりも大きい。これは、有形非生産資産が格差縮小に働く程度が大きく、金融資産が格差拡大に働く程度が小さいこと等による。

IV.結び

以上のように、1999年の第1次所得の格差は、稼得所得を中心に1994年より拡大した。これに対し、可処分所得、調整可処分所得の格差は横ばいまたは低下している。これは、現金による社会保障給付(公的年金等)と現物社会保障給付(医療保険給付)の所得再分配効果が高まったため、第1次所得の格差拡大が相殺されたためである。この社会保障給付の所得再分配効果には、公的年金給付の少ない高齢者が子供との同居や稼得労働を行うといった逆の因果関係の影響も含まれている可能性があるが、その影響を除いても、社会保障給付の所得再分配効果は高まっているといえる。

本文のダウンロード

SNA概念による高齢者の所得・資産分布-世帯所得・資産と等価尺度(equivalence scale)による分析- 別ウィンドウで開きます。(PDF形式 150KB)

全文の構成

  1. 1ページ
    はじめに
  2. 2ページ
    第1章 分布時計の推計方法・推計範囲
    1. 2ページ
      1.分布統計の推計方法
    2. 3ページ
      2.分布統計の推計範囲と推計結果-SNAとの相違-
  3. 4ページ
    第2章 高齢者の所得・資産分布-分布統計に基づく分析-
    1. 4ページ
      1.分析手法
      1. 4ページ
        (1) 等価尺度(equivalence scale)
      2. 5ページ
        (2) 使用する分布尺度
    2. 6ページ
      2.高齢者の所得・資産格差の状況と要因
      1. 6ページ
        (1) 所得格差
      2. 8ページ
        (2) 資産格差
    3. 9ページ
      3.全体の所得・資産格差との比較
      1. 9ページ
        (1) 所得格差
      2. 9ページ
        (2) 資産格差
    4. 9ページ
      4.社会保障給付の所得再分配効果と同居等の影響
      1. 10ページ
        (1) 同居の影響
      2. 10ページ
        (2) 社会保障給付と獲得所得の関係
  4. 12ページ
    結論
  5. 14ページ
  6. 20ページ
    (付1) 高齢者のいる世帯の所得・資産10分位階層別の分布統計
  7. 24ページ
    (付2) 準相対分散による所得格差の分解
  8. 26ページ
    (参考文献)
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)