ESRI Discussion Paper Series No.65
どうすればデフレ期待を反転できるか?-国民生活モニター調査(個票)による検証-

2003年10月
雅博
(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
清水谷
(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)

要旨

1.趣旨、問題設定

近年における日本経済の低迷は、一般物価水準の継続的下落傾向、すなわちデフレーションと分かちがたく結びついている。デフレには実質金利や実質債務負担を高め需要を抑制する効果があるため、経済をスパイラル的に悪化させている可能性も否定できない。

その過程で重要な役割を果たすのが、デフレ期待である。しかし日本には、そもそもインフレ期待がどの程度なのかを示す実証的なデータはない。そこで、本研究では、家計のもつ定量的なインフレ期待を計測し、それがどのような要因で変化するのか、実体経済にどのような影響を及ぼすのかについて、解明を試みる。

2.目的及び分析手法

本論文では、内閣府国民生活局が四半期ベースで行っている「国民生活モニター調査」の個票データを活用する。この調査では、それぞれの家計に対して、今後1年間の物価、消費、所得などがどの程度変化するのかについて、定量的に質問している。

この独自のデータセットを用いて、

  1. a) 生活者が認識するデフレの現況(マイナスのインフレ期待)を計測する、
  2. b) デフレが消費行動に与える影響を確認する、
  3. c) デフレ期待を反転させるのに必要な要素は何であるかを確認する、

の3点について実証研究を行う。

3.分析結果の主なポイント

家計の物価上昇率期待を直接尋ねたモニターの集計結果に基づけば、平均期待物価上昇率は2001年以降、2003年の3月期にプラス1%まで跳ね上がったのを例外に、概ねマイナス0.5%から0%の間にあった。こうしたデフレ期待は、家計消費を抑制する効果があり、その影響は耐久財の消費を減らしたり延期したりするという行動に特に顕著に現れていたことが確認できた。

一方、そうした影響をもたらす物価上昇率(インフレ/デフレ)期待は、過去の期待をベースに、足下の物価動向及び経済状況を反映して形成されている。2001年以後の量的緩和等の金融政策は、(デフレ期待の反転という意味で)あまり有効な影響を与えていないことがわかった。

分析期間中観察できる唯一の目立った変化である2003年3月の反転は、イラク戦争への反応として生じており、累次の量的緩和策等にはそれに匹敵する効果は見出せない。

4.結び

金融政策によってインフレ期待を修正した家計の割合は、イラク戦争などの場合と比べて明らかに小さいものの、インフレ期待が影響された度合いは、金融政策もテロ、イラク戦争などの外生的要因もそれほど大きく変わらない。従って、金融政策がインフレ期待に働きかけるために金融政策を用いるとすれば、より多くの人々が反応するような大胆な政策が必要になろう。

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What Changes Deflationary Expectations? Evidence from Japanese Household-level Data別ウィンドウで開きます。(PDF形式 206 KB)

全文の構成

  1. 2ページ
    Abstract
  2. 3ページ
    1.Introduction
  3. 5ページ
    2.Previous Studies on Measurement of Price Expectations
  4. 8ページ
    3.Data
  5. 10ページ
    4.Basic Facts on Price Expectations Based on Household -level Data
  6. 13ページ
    5.The Determinants of Change in Price Expectation
  7. 19ページ
    6.The Effect of Deflationary Expectations on Consumption
  8. 23ページ
    7.Conclusion
  9. 25ページ
    (References)
  10. 27ページ
    Figures and Tables
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