ESRI Discussion Paper Series No.70
介護サービス市場の実証研究5
「長時間介護はなぜ解消しないのか?-要介護者世帯への介護サービス利用調査による検証-」

2003年10月
  • 清水谷 諭(内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
  • 野口 晴子(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、東洋英和女学院大学助教授)

要旨

1.趣旨、問題設定

2000年に導入された公的介護保険の最も重要な目的の1つは、介護保険を通じた家族以外の介護サービスの利用を通じた「介護の社会化」によって、「介護地獄」といわれる過度な家族負担を解消することにあった。しかし、驚くべきことに、これまでのところ、介護保険の導入によって長時間介護が解消したかどうかは、全く検証されていない。

本論文は内閣府が独自に実施した要介護者世帯への介護サービス利用調査によって、長時間介護の実態、長時間介護を規定する要因について定量的な検証を行う。

2.手法

本論文では、まず、内閣府が要介護者を抱える世帯に対して独自に実施した「高齢者の介護利用状況に関するアンケート調査」(2001 年及び2002年)のミクロデータを活用して、長時間介護の実態を初めて明らかにする。

次に、長時間介護を規定する要因を明らかにする。具体的には、長時間介護が解消しない理由として、(1)制度導入からの時間的経過に着目した「未成熟仮説」、(2)施設サービスの供給不足から在宅介護をせざるをえない「施設入所待機仮説」、(3)家族介護と家族以外から提供される介護サービスの間の財の性質の違いに着目した「家族介護非代替仮説」、(4)自己負担率の上昇が需要を低下させる点に注目した「低所得者仮説」、(5)家族介護が遺産動機と結びついているとする「戦略的遺産動機仮説」の5つを取り上げて、定量的な検証を行う。

3.分析結果の主要なポイント

  1. (1) 長時間介護の実態をみると、主として介護を担っている介護者の介護時間は若干減少したものの、要介護者の介護に必要な介護時間に占める割合はあまり低下していないことがわかった。さらに、長時間介護世帯では、要介護者の健康状態が悪く、介護者の健康も蝕まれている可能性があるなど、物理的な時間の長さだけでなく、健康面においても介護負担が深刻であることが分かった。
  2. (2) 長時間介護が解消しない理由としては、1割の自己負担を避けるために、家族介護を行わざるを得ないこと、家族介護が外部の介護サービスと代替できないこと、さらに、長時間介護が12時間以上に及ぶと家族介護が遺産動機と結びついている可能性があることによるものであることがわかった。

4.結び

1割の自己負担が家族介護を強いているという結果に基づけば、長時間介護を強いられている世帯に対して自己負担を軽減する措置が必要であろう。さらに、家族介護が外部の介護サービスと代替できないという世帯については、それが要介護者・介護者の嗜好に基づくものであれば、今後長時間介護が解消していくという可能性は低い。しかし、今後介護保険がさらに定着し、介護サービス市場の整備がより進んでいけば、長時間介護はやがて解消していく可能性もある。最後に、家族介護が遺産動機と結びついているという世帯が、特に介護時間の長いサンプルでみられるという事実は、これが個人の合理的な選択の結果であるとすれば、政策的に働きかけることは難しい。ただ、これは日本人の遺産行動の実証分析としても興味深い事実であり、今後さらに検証を深めていく必要があろう。

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全文の構成

  1. 2ページ
    1.序章
  2. 4ページ
    2.「高齢者の介護利用状況に関するアンケート調査」の調査概要
  3. 5ページ
    3.長時間介護の実態
    1. 5ページ
      (1) 介護時間の時系列的推移
    2. 7ページ
      (2) 追跡調査世帯の介護時間の変化
    3. 8ページ
      (3) 長時間介護の実態と要介護者・介護者の健康状態
  4. 10ページ
    4.長時間介護をもたらす要因
    1. 11ページ
      (第1の仮説:「未習熟仮説」)
    2. 12ページ
      (第2の仮説:「施設入所待機仮説」)
    3. 13ページ
      (第3の仮説:「家族介護非代替仮説」)
    4. 14ページ
      (第4の仮説:「低所得者仮説」)
    5. 15ページ
      (第5の仮説:「戦略的遺産動機仮説」)
  5. 16ページ
    5.長時間介護をもたらす要因の定量的検証
    1. 16ページ
      (推計式とその考え方)
    2. 18ページ
      (推定結果-要介護者・介護者の属性の影響)
    3. 19ページ
      (推計結果-仮説の検証(すべてのサンプルを用いた場合))
    4. 20ページ
      (推計結果-仮説の検証(自分ないし配偶者の親が要介護者である場合))
  6. 20ページ
    6.結論及び政策的インプリケーション
  7. 22ページ
    (参考文献)
  8. 図表
  9. 付図表
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