ESRI Discussion Paper Series No.71
Korean's Economic Crisis and Cultural Transition toward Individualism『韓国の経済危機と個人主義への文化的変化』

2003年10月
  • Ho-Chul Lee(韓国財政経済省国際関係担当副首相主任補佐官)
  • Mary P. McNulty(ジョージワシントン大学准教授)

要旨

1.趣旨、問題設定

1997年秋、それまで国際機関、債権格付機関等が健全と評価していた韓国経済がアジア危機の感染を受けた。1998年から1999年にかけて、急激な経済困難に陥るとともに、それに匹敵する位の急回復を韓国経済は遂げた。回復後の韓国経済は、危機以前とは異なる、構造改革を伴った、新たな経済となっていた。

経済政策の観点からは、3つの課題に答える必要がある。第一に、アジアの経済危機が感染した原因は何か、第二は、なぜ急回復したのか、第三に、韓国経済がなぜ急速な構造改革を達成できたのかである。

2.目的及び分析手法

アジア危機以前の危機には、(1)高実質為替、継続的大幅経常赤字の存在、過小な外貨準備、(2)長期の高インフレ、(3)財政規律の崩壊等が存在することが危機発生の前提となるとされた。韓国でもこうした危機の条件が存在したかを、時間を追って生起した事象を経済学的に検証する。

次に、アジア危機感染の理由と経済危機に陥った要因について、経済制度および企業行動、国民の文化的側面から答える。危機からの急回復については、経済的分析に加えて、企業や国民の行動様式の変化を分析することによって、検討している。

韓国の構造改革は、経済危機により急速に進展したが、進展した要因として行動原理の変化を取り上げ、経済活動の環境変化がもたらす改革への影響を分析する。

3.分析結果の主なポイント

韓国の経済危機は、構造問題だけに起因したとは考えられない。構造問題は危機以前から存在しており、政府は金融システム、労働市場改革案を危機以前に作成していた。実施に必要な政治的支持は十分に得られず、危機に到って始めて実施された。

他方、構造問題が存在したことで、危機の深刻化、広範囲化をもたらした。アジア危機に感染したのは一部であったが、高度な株式持合、財閥等で大規模に行われていた債務の相互保証などを通じて、単一の企業からグループの破綻へ、債権者である金融機関へ、さらに金融システムを通じて経済全体の危機へと波及した。

危機発生後、IMFや主要国からの支援に加え、危機発生以前から準備されていた市場改革を直ちに実施に移したことが大きな転機となった。市場改革、特に、財閥の解体、金融システムの改革、労働市場の自由化等の実現は、法制度の改革に加え、国民の意識変化や社会的行動の変化が大きく作用した。

それまで社会規範であった集団主義、人間関係中心主義から、経済危機を契機に個人主義、市場成果主義へと急速に変化した。特に、金融改革ではグローバル市場に合致する制度改革が重要であったし、企業統治、労働市場の面では平等主義からの離脱と成果主義の徹底、Lay-offと能力主義の導入が大きな要素であった。

4.結び

韓国の経済危機は、直前までの高い評価に反して、急激に発生した。危機の背景には、それ以前から改革の必要性が認識されていた構造問題があった。韓国では、危機克服策として、既に策定されていた構造改革政策を実施に移すとともに、企業統治、労働市場改革を通じて集団主義、平等主義から個人主義、市場主義への変化が促進され、急速な回復に寄与することになった。

危機対応が一応の成果を挙げた後、韓国社会が持つことになった長所をいかに成長に活かせるかが最大の課題となる。特に、ICT産業の成長や残された分野の改革促進など、将来に向けた取組みが必要となっている。

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全文の構成

  1. 4ページ
    I.Introduction
  2. 6ページ
    II.Three Questions on the Korean Financial Crisis
    1. 6ページ
      Why Did the Healthy-Looking Korean Economy Come to a Crisis So Suddenly?
    2. 11ページ
      Why Did the Korean Economy Continue To Worsen Despite the Announcement of Bailout Programs?
    3. 16ページ
      Why Could Korea Introduce Reform Plans So Quickly?
  3. 21ページ
    III.The Causes of the Crisis
    1. 21ページ
      Economic Analysis of the Causes of the Crisis
    2. 24ページ
      Failure of Korean Style Cooperative Measures
    3. 28ページ
      Earlier Failure to Gain Sufficient Support for Reform
  4. 32ページ
    IV.Conflict between Individualism and Cooperativism/Collectivism
    1. 32ページ
      Individualism and Cooperativism/Collectivism
    2. 35ページ
      Cultural Background of Cooperativism/Collectivism in Korea
      1. 35ページ
        Harmony Rather Than Competition
      2. 36ページ
        Egalitarianism
      3. 38ページ
        Familism Based On Human Relationships
    3. 39ページ
      Measures Influencing Cultural Transition
      1. 39ページ
        Introduction of Lay -offs
      2. 41ページ
        Revisions of the Financial Guarantee Systems
      3. 43ページ
        Performance-Based Salary Systems
    4. 44ページ
      Evidence of Cultural Transition
      1. 44ページ
        Income Inequality
      2. 46ページ
        Reduced Savings Rate
      3. 47ページ
        Cultural Change in the Labor, Corporate and Banking Sectors
  5. 50ページ
    V. Conclusion
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