ESRI Discussion Paper Series No.72
財政改革と国民負担

2003年10月
  • 跡田 直澄(慶應大学商学部)
  • 前川 聡子(関西大学経済学部)
  • 川瀬 晃弘(大阪大学大学院経済学研究科)
  • 北浦 義朗(同 経済学研究科)
  • 木村 真(同 経済学研究科)

要旨

1.問題意識

日本の財政は危機的な状況に陥っている。2003年度予算では、一般会計の歳入における公債依存度(歳入に対する公債金収入の割合)は過去最悪の44.6%に達し、その結果、2003年度末には国と地方の長期債務残高が686兆円にものぼる事態となっている。

加えて、少子高齢化が急速に進んでいることも財政運営に重大な影響を及ぼす。増加する高齢者のための社会保障関連支出を少ない若年人口で賄うためには、将来世代の負担は増加せざるを得なくなる。累積した財政赤字の負担もあわせると、このままでは将来世代の大幅な負担増は避けられない。したがって、財政状況の長期的な推移を見極めた上で、将来世代の負担にも配慮した財政改革・社会保障改革のあり方を検討していく必要がある。

そこで本論文では、まず、2000年から2100年にかけての国と地方をあわせた財政収支の長期予測を行い、財政改革および社会保障改革を行った場合に財政収支がどの程度改善されるのかについてシミュレーションを行った。さらに、世代別の生涯にわたる公的受益と負担についても計測を行い、改革が世代間の受益と負担にどのような違いをもたらすのかについても明らかにした。

2.推計方法の概要

【財政収支の推計】

  1. 国と地方の歳出のうち、年金、医療、介護という社会保険制度で運営されている部分を抜き出して「社会保険部門」を作成し、それと国と地方をあわせた「財政部門」とを国庫負担等を通じて結びつけるモデルを構築した。「社会保険部門」では、年金は厚生労働省の財政再計算の予測値、医療、介護は『社会保障の給付と負担の見通し―平成12年10月改訂版―』による給付費の予測値がほぼ再現可能なモデルとなっている。「財政部門」は、国と地方を純計した政府を想定した。歳出は、社会保障関係費・公債費・その他の歳出から構成され、歳入は、総税収(租税負担額計)・その他の税外収入・公債収入より構成される。公的債務残高は、償還分を除いた長期債務残高と政府短期証券の合計とした。

【世代別推計】

  1. 1930年生まれから10年おきで1990年生まれまでの7世代について、『家計調査』に基づく現役時の毎年の収入データを利用して、世代別の平均的な公的負担(所得税、消費税、社会保険料)と現役時の収入に応じた年金給付額を推計した。公的受益(行政サービス、公共事業、医療、介護等)については毎年の『国民経済計算年報』のデータを受益の対象となる人口1人あたりに按分し、それを各世代のその年の受益額とした。

【シミュレーションケース】

  1. 基準ケース:財政改革も社会保険改革も行わず、現状維持で推移する場合
    ケース1:財政改革(社会保険と公債費以外の歳出の伸びを物価上昇率程度に抑える)
    ケース2:財政改革+年金改革(厚生労働省案 最終保険料20%固定)
    ケース3:財政改革+年金改革+医療改革(1人あたり医療費の伸びを名目賃金上昇率以下に抑制)
  2. 以上を、基礎年金国庫負担2分の1と3分の1のそれぞれについて推計した。

3.シミュレーション結果

  1. 現状維持(基準ケース)では、財政の持続可能性は望めない。
  2. ケース3の場合(財政改革+年金改革+医療改革)が財政健全化の効果が大きい。年金改革(厚生労働省案)だけでは財政健全化の効果は小さく、財政改革を並行して進めると同時に、医療改革等、年金以外の社会保険改革も必要である。
  3. 将来世代にのみ影響の及ぶ年金改革(厚生労働省案)では、世代間の受益と負担の格差は解消されない。
  4. 上記の結果は、経済前提を変更しても同様に得られた。

4.結び

財政の抜本的な健全化を図るためには、年金改革だけでは不十分であり、財政部門のさらなる効率化と年金以外の社会保険改革が必要である。ただし、それらの改革は、主として将来世代の公的受益を減らすことになるため、現時点でも著しい差が生じている世代間の受益と負担の格差をさらに悪化させる危険がある。世代間格差の改善も図るためには、現在の老年世代の社会保障からの受益にも手をつけるような思い切った社会保障改革や、世代間の負担の公平化を図る税制改革等、総合的かつ抜本的な社会保険ならびに財政構造改革を行わなければならない。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1.はじめに
  2. 3ページ
    2.モデルと推計方法
    1. 3ページ
      2.1 社会保険部門
    2. 8ページ
      2.2 財政部門
    3. 9ページ
      2.3 世代モデル
  3. 13ページ
    3.社会保険・財政モデルによるシミュレーション
    1. 14ページ
      3.1 基準ケース「改革なし」
    2. 16ページ
      3.2 ケース1)「財政改革」
    3. 17ページ
      3.3 ケース2)「財政改革+年金改革」
    4. 18ページ
      3.4 ケース3)「財政改革+年金改革+医療改革」
  4. 20ページ
    4.世代別公的受益と負担の推計
    1. 20ページ
      4.1 基準ケース「改革なし」
    2. 22ページ
      4.2 ケース1)「財政改革」
    3. 23ページ
      4.3 ケース2)「財政改革+年金改革」
    4. 25ページ
      4.4 ケース3)「財政改革+年金改革+医療改革」
  5. 27ページ
    5.むすび
  6. 29ページ
    補論
    1. 29ページ
      補論1 社会保険・財政モデルのシミュレーションの比較
    2. 31ページ
      補論2 世代別受益と負担の計測結果の比較
  7. 33ページ
    参考文献
  8. 図表関係
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    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
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