ESRI Discussion Paper Series No.74
空間集積を伴う内生的成長モデルにおける公共投資の最適規模と地域間配分の分析

2003年10月
  • 近藤 広紀(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、信州大学助教授)

要旨

1.趣旨および背景

近年のわが国の公共投資の水準は、他の先進国と比較した場合でも、また、わが国のこれまでの水準と比較した場合でも、極めて高い水準にあると言える.また、その地域間配分が、面積あたりで見ても、一人あたりで見ても、都市圏より地方圏に重点が置かれていること、しかもその傾向が、近年になるほど強められてきていることも、わが国の公共投資の特徴の一つである.

近年の厳しい財政事情のもと、こうした公共投資の内容を見直しながら、規模を縮小させていくことの必要性は、共通して認識されるようになってきたものの、具体的にどのようにその内容を変えていくのかについては、多くの点において意見の対立が続いている.公共投資の配分を、地方圏に残すべきか、都市圏へシフトさせていくべきかについての議論も、今後の公共投資のあるべき姿を検討していく際の、最も重要な論点の一つであるが、意見の対立が続いている.

所得分配上の観点からは、公共投資は、都市圏と地方圏の格差を和らげるべく、地方圏により重点を置いたものにすべきだとする主張がなされ、近年の地方圏における配分の上昇は、こうした考え方に立ったものであるといえる.一方、いくつかの実証分析では、社会資本のリターンは、地方圏よりも都市圏の方が高いことが示されている.したがって、資源配分上の観点に基づくなら、公共投資の配分は、都市圏により重点を置いたものにすべきだと言える.

しかしながら、都市化が生じている経済における公共投資政策のあり方についての議論は、資源配分上の視点に立つ場合でも、所得分配上の視点に立つ場合でも、そもそも都市圏と地方圏の分化、つまり都市化がなぜ起きるのか、そして、都市化が起きることによって、その経済における各人の経済厚生にどのような影響が及ぶのかといった、都市化についてのより厳密な事実解明的分析と規範的分析に基づいてなされることが重要となってきている.

2.目的および手法

以上のような趣旨に鑑み、本論文では、都市化の事実解明的分析と規範的分析に有用な、新しい経済地理モデルの枠組みを用いて、公共投資の規模や地域間配分のあり方について考察していく.

本論文では、新しい経済地理モデルにおいて想定されているように、その総量と共に、その種類数が、家計の効用水準を高めるような、Dixit and Stiglitz (1977)タイプの多様財を考える.そして、その財の生産に、それ自身が中間財として投入されるとする.また、その際にも、その総量と共に、その種類数が、生産性を高めるような効果をもつと考える.ただし、公共投資政策の評価を行うという目的のために、従来までの経済地理モデルではあまり分析されてこなかった、以下のような2つの新しい視点を取り入れる.

第1に、この論文では、多くの経済地理モデルにおいて、都市化が起るか否かの決定要因として重要な役割を果たしている輸送費用が、輸送インフラなどの公共インフラの水準によって決まり、さらにこの公共インフラは租税負担によって整備されるという、より現実的な想定を取り入れる.このように輸送費用低下の負担面を考慮に入れることで、まず、輸送費用の低下と、それによって都市化がもたらされることが、そもそも望ましいのか否かについて議論できるようになる.さらに、都市化が望ましいような場合でも、公共インフラの規模や地域間配分をどのような水準に設定し、どの程度まで都市化を進めていくのが望ましいのかについて議論できるようになる.

第2に、新しい経済地理モデルにおいては、多くの場合、多様財の輸送にのみ輸送費用がかかり、そして、その輸送費用の大きさ次第で、その産業が一つの地域に集中するという状況が分析されている.これに対して、本論文では、すべての財に輸送費用がかかるような状態を考えてみる.多様財が集中し都市が発生しているような状況下において、輸送インフラの最適な地域間配分を考える場合、輸送インフラが都市に集中している多様財産業にしか関係してこないようなケースでは、輸送インフラは都市部に過度に重点の置かれたものとなってしまうであろう.したがって、輸送インフラの規模や地域間配分について、より公平な判断を行うためには、すべての財に輸送費用を取り入れた分析を試みることが必要となるのである.

3.分析結果の主なポイント(1):都市化のメカニズムについて

家計が多様財をより選好し、その一方で混雑をさほど気にしないような場合ほど、また、多様財企業が多様財を中間財としてより集約的に使う場合ほど、より多くの家計とより多くの多様財企業が、それぞれ効用最大化と費用最小化の目的のために、多様財企業がより多く集中していて取引費用がより節約できる方の地域に引き付けられていく.こうして、その地域で、競争圧力の増大による利潤の低下を補って余りあるほどに、市場規模が拡大し、そこでの利潤がむしろ上昇するような場合には、さらなる多様財企業の集中が促されることとなり、集積および都市化が観察されることとなる.

また、仮に、競争圧力の増大による利潤の低下を補うほどの市場規模の拡大が期待できず、したがって集積により利潤が低下していくような場合でも、技術的外部効果が地域内に限定されたものであるなら、集積が実現することが示される.

なお、輸送費用は、従来の新しい経済地理モデルほど、都市化が起こるか否かの決定要因としては重要ではなくなっている.しかし、それは、都市化のスピードや都市化の程度を規定するという面において重要となる.そこで、この輸送費用を規定することになる、公共インフラの規模や地域間配分を考察することが重要となる.

3.分析結果の主なポイント(2):都市化が観察される経済のもとで最適な公共インフラのあり方

都市部に輸送インフラの配分の重点が移され、したがってそこで輸送効率が改善される一方、地方部では輸送効率が低下するような場合を考えてみる.多様財産業部門が、それ自身を中間財としてより集約的に用いるような場合ほど、輸送インフラが都市に重点配分されることによって、都市部に集積している多様財の生産効率がより顕著に改善されることとなり、都市部ではもちろん、多様財をそこから輸入している地方部でも、地方内部の輸送効率の低下を補って余りあるほど大きな便益がもたらされることとなり、経済厚生が改善されることが示される.

そこで、どの程度まで、都市部に公共インフラの重点を移すべきかについて、いくつかの数値例のもとで計算を行ってみる.多様財がそれ自身をそれほど集約的に中間財としては用いないような場合でも、そこでの一人あたり公共投資がより大きくなる程度にまで、都市部に公共投資を重点的に配分するのが望ましいことが示される.この結果から判断するなら、現在わが国で観察されるような、都市・地方間の公共投資配分は、地方に偏りすぎであると言える.

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全文の構成

  1. 要旨
  2. 1ページ
    1. はじめに
    1. 1ページ
      1.1 公共投資の規模と地域間配分の実際~議論の対立点
    2. 1ページ
      1.2 都市化の議論の必要性と新しい経済地理モデルの有用性
    3. 4ページ
      1.3 本論文の目的
  3. 5ページ
    2. モデル
    1. 5ページ
      2.1 家計
    2. 7ページ
      2.2 輸送費用
    3. 7ページ
      2.3 多様財産業
    4. 10ページ
      2.4 伝統財産業および公共インフラ部門
  4. 12ページ
    3. 都市の発生と安定性
    1. 12ページ
      3.1 多様財企業と家計のロケーションの決定
    2. 14ページ
      3.2 均衡動学経路
    3. 16ページ
      3.3 中心・周辺定常均衡の存在
    4. 18ページ
      3.4 中心・周辺定常均衡の安定性
  5. 22ページ
    4. 公共インフラの最適規模と地域間配分
  6. 27ページ
    5. まとめ~わが国における公共インフラ政策の評価と今後の分析課題
    1. 27ページ
      5.1 分析結果のまとめと公共インフラ政策の評価
    2. 29ページ
      5.2 今後の分析課題
  7. 31ページ
    参考文献
  8. 32ページ
    補論A
  9. 33ページ
    補論B
  10. 34ページ
    補論C
  11. 35ページ
    補論D
  12. 36ページ
    図表
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