Top > 研究 > ESRI Discussion Paper > No.75

 
ESRI Discussion Paper Series No.75
 

短期日本経済マクロ計量モデル(2003年版)の構造と乗数分析

2003年10月

堀 雅博 (前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
青木大樹(内閣府経済社会総合研究所研究官)

( 全文の構成 )
( 要旨 )
 
I.開発の経緯とコンセプト
 内閣府・経済社会総合研究所(旧経済企画庁・経済研究所)では、90年代以降の日本経済から推測される構造変化と最新データに基づくモデルへの要請とに鑑み、随時の改訂が可能な「短期日本経済マクロ計量モデル」を1998年に公表した(堀・鈴木・萱園[1998])。開発のコンセプトは公開性及び機動性の高いコンパクト・モデルである。
 その後2001年10月には、「短期日本経済マクロ計量モデル(2001年暫定版)」(堀・田邉・山根・井原[2001])でその改訂状況を報告している。本資料は、更に改訂を重ねた2003年8月段階のモデルの状況を紹介するものである。我々はこのような形でモデルを随時公開し、また外部情報の変化にも柔軟に対応することで、透明性と機動性を確保し、今後とも、マクロ経済政策に関する議論の素材を提供していきたいと考えている。
 
II.モデルの基本構造
 「短期日本経済マクロ計量モデル」はその前身にあたる「EPA世界経済モデル」における日本経済モデルと同様、四半期ベースの推定パラメータ型計量モデルである。ただし、作業負担の軽減、モデルの機動性確保等の観点から必要以上の複雑化は避け、操作性の高いコンパクトなモデル(方程式総数147本、うち推定式46本)を志向している。推定期間は原則として1985年から直近時点(データの入手可能性により、2001ないし2002年)であり、2001年10月の暫定版に比較して、2年程度の更新となった。
 理論面では、財貨・サービス市場、労働市場、貨幣市場、及び外国為替市場の4市場から構成されている。このうち労働市場はオークン法則(生産関数)による財貨・サービス市場との表裏関係を基礎とした構造であり、モデルのベースは伝統的なIS−LM−BP型のフレーム・ワークである。価格は期待修正フィリップス曲線で内生化されており、その意味で、モデルは「価格調整を伴う開放ケインジアン型」ということもできる。
 本資料の性質より、モデル構造の詳細に関わる記述は省略するが、詳細については既述の堀・鈴木・萱園[1998]他、過去に公刊された『経済分析』の計量モデル関連文献を参照してほしい。
 
III.シミュレーション結果(概要)
 主要乗数シミュレーションの結果は概略以下の通りである(本資料末尾の参考表も参照のこと)。いずれの結果についても、モデルの内挿期間である1999年からの3年間を対象としているが、「短期」分析を意図したモデルの性格上、2年目以降の数字は参考程度に解されたい。
 
1)財政支出の拡大
 公共投資乗数(実質ベース)は、1年目の1.14%をピークに緩やかに減衰する形となっている(2年目1.13%、3年目1.01%)。前回公表時(堀・田邉・山根[2001])に比べて、1年目は若干大きな値となっているが、2年目以降は逆に低下している。但し、乗数の大きさは金融政策のスタンス如何にも依存しており、例えば、貨幣供給量一定の下で同様の財政拡大を行っても乗数は1を下回る一方、金利一定の下で行えば、乗数は持続的に1を上回る。
 
2)所得減税
 名目GDP1%相当の個人所得税減税(継続減税)は実質GDPを拡大させる(ピークは2年目の0.6%弱程度)が、その効果は後に緩やかに減衰する。減税乗数は公共投資乗数に比べ小さいことから、税収減が景気拡大を通じた増収で相殺される程度は小さく、財政赤字は減税規模の80%程度増加する。
 
3)金融政策
 短期金利の1%引上げによる実質GDP抑制効果は、1年目に▲0.60%となり、その後徐々に下落幅は増加して3年目には▲1.12%となっている。この背景には、金利の上昇による設備投資、住宅投資の抑制、円高(1.0%〜5.0%程度)などが影響している。
 
4)外生的ショック
 外部環境の変化にかかるシミュレーションとしてa)為替減価10%とb)燃料価格上昇20%の影響をみる。前者の効果は漸進的に生じるため1年目のインパクトは実質GDPで0.20%程度に止まるが、時間が経過するに従い輸出入、設備投資拡大等を通じて影響を与え、2〜3年目にかけては0.6%程度まで拡大する。また、後者の影響は小幅なマイナスに止まる(同▲0.10%弱程度)。
 


(参考)主要シミュレーションの概略表
1)実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大
 
2)個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ継続的に減税

3)短期金利を1%引き上げ

4)−a円の対ドル10%減価

4)−b鉱物性燃料価格の20%上昇


全文の構成(PDF-Format 全1file)
全文(421KB)
第1章 『短期日本経済マクロ計量モデル』の基本構造-------------------- 1
  第1節 開発の経緯とモデルの基本構造---------------------------- 1
  第2節 推定作業上の特色--------------------------------------- 2
第2章 モデルの動学的パフォーマンス-------------------------------- 4
  第1節 モデルのトラッキング能力---------------------------------- 4
  第2節 主要乗数シミュレーションの結果---------------------------- 8
  第3節 モデル乗数の線型性-------------------------------------- 21
第3章 残された課題----------------------------------------------- 25
主要参考文献-----------------------------------------------------26
付属資料I  短期日本経済マクロ計量モデルの乗数詳細表---------------29
付属資料II  短期日本経済マクロ計量モデルの変数名一覧---------------67
付属資料III 短期日本経済マクロ計量モデルの方程式体系---------------71
 
上へ  トップページ  研究  ESRI Discussion Paper