ESRI Discussion Paper Series No.84
大集団における模倣的行動の確定的ダイナミクスによる表現の正当化-確率的な模倣のダイナミクスの確定的なダイナミクスによる近似表現の厳密な正当化-

2004年1月
  • 田邊 靖夫(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)

要旨

1.趣旨、問題設定

近年、生物学や心理学だけでなく、経済学の分野においても限定合理性アプローチの一環として模倣的行動(模倣や学習)に着目した研究が多くの研究者によって行なわれてきている。それらの研究では、集団内の各個人の模倣的行動による戦略(行動様式)の選択を確率的(stochastic)な行動としてモデル化した上で、各時点で各戦略をとる個人の割合(population share)を表現する確定的(deterministic)なダイナミクスを近似的に導出、分析することが行なわれている。

本論文では、汎用性が高く、多くの模倣的行動のモデルを表現し得るBjornerstedt and Weibull (1996)の定式化を再構成し、大集団(large population)における確率的な模倣のダイナミクスの確定的なダイナミクスによる近似の厳密な正当化を行う。

2.目的及び分析手法

Bjornerstedt and Weibullの定式化では、連続な時間スケールの中で次のように模倣的行動により戦略的に相互に影響し合う個人から構成される大集団がモデル化されている。

  • 各個人は有限個の戦略の集合の中の、いずれか1つの戦略を一定期間保持した後、見直しを行ない、戦略を変更する。
  • 各個人の戦略の見直しの機会と見直しの際の戦略の選択は、各時点でのpopulation shareに依存して確率的に規定されるものであり、各個別の模倣的行動のモデルごとに具体的に与えられる。

このBjornerstedt and Weibullの定式化では各個人の模倣的行動が各時点でのpopulation shareのみに依存することが特徴となっており、Bjornerstedt and Weibullは、このような定式化の下ではモデルの集団内のpopulation shareは大数の法則の成立により確定的なダイナミクスで近似され得るとしている。しかしながら、iどのような模倣的行動のモデルが、各個人の行動が各時点でのpopulation shareのみに依存するという特徴をもつ定式化に合致するのか、ii模倣的行動を通じた相互依存にも関わらず、なぜ大数の法則が成立するかといった点については必ずしも明らかにされていない。

本論分では、集団のサイズが十分に大きければ各個人の戦略の見直しの機会と見直しの際の戦略の選択が近似的にpopulation shareのみに依存するとBjornerstedt and Weibullの定式化を緩めた形で模倣的行動を再定式化し、上記の2つの点を明らかにした上で、確率的に変動する集団内のpopulation shareが確定的なダイナミクスで近似されることを厳密に示す。

3.分析結果の主なポイント

上記iの、どのようなモデルがBjornerstedt and Weibull の定式化に合致するかという点については、各個人が独立に戦略の見直しの機会を与えられ、集団内の個人間のランダムなマッチングやサンプリングに基づく何らかの模倣的行動により戦略の変更を行うモデルは修正されたBjornerstedt and Weibull の定式化に含まれることを明らかにした。

また、iiの点に関しては、修正されたBjornerstedt and Weibull の定式化に含まれるモデルでは、各個人の初期時点での戦略が独立同分布で与えられれば、集団のサイズが十分に大きいとき、模倣的行動を通じた相互依存にもかかわらず、個人間の行動に確率的な独立性が現れるため、大数の法則が成立することを証明した。これにより、確率的なpopulation shareのダイナミクスが各個人の平均的挙動を表す確定的なダイナミクスにより近似されることを厳密に示した。この結果は進化的ゲーム理論で頻繁に使用されるレプリケータ・ダイナミクス(replicator dynamics)の模倣的行動による意味付けにも役立つものである。

4.結び

近年、目覚しい発展をみせている進化的ゲーム理論の基礎的な文献であるWeibull(1995)の中で与えられた、Bjornerstedt and Weibullの定式化による模倣的行動の確定的なダイナミクスによる近似を厳密に正当化した本論分の結果は、模倣的行動の研究に1つの基礎を与えるものとして有益であると考えられる。

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大集団における模倣的行動の確定的ダイナミクスによる表現の正当化-確率的な模倣のダイナミクスの確定的なダイナミクスによる近似表現の厳密な正当化-別ウィンドウで開きます。(PDF形式 124 KB)

全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1. Introduction
  3. 4ページ
    2. Model
  4. 13ページ
    3. Propagation of Chaos
  5. 16ページ
    4. Concluding Remarks
  6. 16ページ
    Appendix
  7. 24ページ
    References
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