ESRI Discussion Paper Series No.87
中小企業金融円滑化策と倒産・代位弁済の相互関係-EC3SLSによる都道府県別パネル分析-

2004年2月
  • 竹澤 康子(東洋大学経済学部教授)
  • 松浦 克己(横浜市立大学商学部教授)
  • 堀 雅博(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)

要旨

1.問題意識

長引く不況と金融危機の中で、各種の中小企業支援施策が展開されている。1998年には中小企業金融安定化保証制度(いわゆる特別信用保証制度)が設けられ、その利用は累計29兆円に及んだ。また、同年には中小3公庫にも20兆円の貸し出し枠が設けられた。こうした政府当局の積極姿勢は近年の中小企業金融を特徴づけるものだが、他方、倒産や代位弁済率の上昇による保証協会の負担増、あるいは貸し倒れ増加による公庫経営の悪化といった費用(将来負担)の発生が社会的にも無視できない状況となっている。

本研究では、1980年代以降の中小企業財務を概観した上で、対中小企業貸出市場に係る都道府県別データを活用しつつ、1)貸出供給関数、2)信用保証関数、3)代位弁済率関数を連立推計し、中小企業貸出増進策と銀行・企業行動の関係、及び政策効果に関する分析を行う。

2.分析手法

本研究では、まず、対中小企業貸出と信用保証政策の80年代以降の推移をマクロ時系列で概観した後に、中小企業向貸出供給、信用保証、及び代位弁済(倒産)の関係を整理し、その整理に基づいて3者の相互関係を連立方程式で推定した。手法としては、都道府県別のデータ(1993~2001年度)を用い、パネルのError Components 3SLSを試みている。

結果解釈上のポイントは、信用保証や公庫貸出等、90年代後半に強化された中小企業貸出策が、金融危機等の一時的なショックを緩和し、更には中小企業の経営改善・発展に寄与するという期待される本来機能を十全に発揮できていたか否かにある。

3.分析結果の主要なポイント

まず、マクロ時系列の概観からは、

  • 90年代後半、中小企業の借入依存は著しい高水準に高まっていること、
  • 借入依存の高まりは特別保証等の中小企業金融円滑化策に後押しされていたこと 等が明らかになった。また、都道府県データのパネル分析の結果からは、
  • 信用保証は中小企業向貸出しを増加させ当座の倒産率を引下げる効果を有した、
  • 公庫貸出は中小企業の経営悪化への対応という政策的要請に応え増加していた、という効果が確認された一方、特に98年度以降の時期において、
  • 信用保証利用の拡大が後の代位弁済率の上昇につながっていたこと、
  • 代位弁済率や倒産率の上昇による信用リスクの高まりが長期的な貸出抑制につながっていたこと、

等が明らかとなった。

4.むすび

本稿の分析結果は、中小企業金融円滑化策(特に98年度以降のそれ)が期待される本来機能を十全には発揮できていなかった可能性を示唆している。信用保証や公庫貸出に期待される機能は、金融危機等の一時的なショックの影響を緩和するとともに、厳格な審査・情報生産で優良な企業を支え、その発展に寄与する点にある。98年度以降の特別信用保証や公庫貸出は足下の倒産を減少させショックを和らげる効果を有したものの、次期以降の倒産・代位弁済を増加させる結果にもつながっていた。

90年代後半に見られる中小企業の借入依存体質を踏まえるならば、中小企業の再生に本当に必要な対応は貸出増進ではなく、債務削減による財務の健全化にあった可能性がある。

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全文の構成

  1. 5ページ
    1.はじめに
  2. 6ページ
    2.悪化する中小企業財務と信用保証の利用状況
    1. 6ページ
      2.1 借入比率の推移
    2. 7ページ
      2.2 借入金残高 / キャッシュフロー倍率の推移
    3. 7ページ
      2.3 信用保証利用の推移
      1. 7ページ
        2.3.1 新規保証の状況
      2. 8ページ
        2.3.2 保証残高の状況
      3. 8ページ
        2.3.3 代位弁済の推移
  3. 9ページ
    3.対中小貸出残高、信用保証高と代位弁済率(倒産件数比率)の相互関係
    1. 9ページ
      3.1 問題先送りの可能性
    2. 10ページ
      3.2 期待される本来機能
    3. 10ページ
      3.3 具体的な定式化
    4. 12ページ
      3.4 使用データ
  4. 13ページ
    4.中小企業向貸出残高、信用保証債務残高と代位弁済比率の推計結果
    1. 13ページ
      4.1 中小企業向貸出に全国銀行の中小向け貸出を用いた場合
      1. 13ページ
        4.1.1 特別保証制度創設前期間( 1993~ 1997年度)の推定結果
      2. 14ページ
        4.1.2 特別保証制度創設後の期間( 1998~ 2002年度)での結果
    2. 15ページ
      4.2 公庫貸出及び公庫貸出と全国銀行貸出の和の場合
      1. 15ページ
        4.2.1 特別保証制度創設前の期間( 1993~ 1997年度)の結果
      2. 15ページ
        4.2.2 特別保証制度創設後期間( 1998~ 2002年度)の結果
  5. 16ページ
    5.中小企業向貸出残高、信用保証債務残高と倒産件数比率の推計結果
    1. 17ページ
      5.1. 全国銀行の中小企業向貸出による推計結果。
      1. 17ページ
        5.1.1 特別保証制度創設前の期間( 1993~ 1997年度)の結果
      2. 17ページ
        5.1.2 特別保証制度創設後の期間( 1998~ 2002年度)の結果
    2. 18ページ
      5.2 公庫貸出及び公庫貸出と全国銀行貸出の和の場合
      1. 18ページ
        5.2.1 特別保証制度創設前期間( 1993~ 1997年度)の結果
      2. 18ページ
        5.2.2 特別保証制度創設後( 1998~ 2002年度)での結果
  6. 19ページ
    6.まとめ
  7. 図表
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