ESRI Discussion Paper Series No.91
カールソン・パーキン法によるインフレ期待の計測と諸問題

2004年3月
  • 堀 雅博(内閣府)
  • 寺井 晃(東京大学大学院博士課程)

要旨

1.問題意識

生産、消費、投資、金利、為替など、マクロ経済変数の決定過程において人々の「期待」が重要な役割を果たすことは広く認識されている。しかし、期待それ自体は観察不能であり、データが存在しないことから、期待に関連する実証の試みは必ずしも成功していない。本研究ノートでは、そうした状況下、サーベイ・データを利用した期待インフレ率計測の試みとしてわが国でも利用例が散見されるカールソン・パーキン法(Carlson and Parkin [1975]、以下CP法)を取り上げ、日本の公表データに適用した結果を紹介するとともに、その過程で明らかになる幾つかの問題点を指摘する。

2.分析手法

本研究では、まず、CP法による期待系列作成の基本的考え方を復習した上で、卸売物価(現企業物価)に適用し、実際に期待インフレ系列を計算する。次に、もう一つの応用として、消費者物価への適用例をみる。消費者物価の場合、利用可能なサーベイ・データの構造上の問題からCP法の修正が必要になる。幾つかの修正法も提案されているが、本ノートではその修正を説明した上で、幾つかの計測例を示し問題点を明らかにした。

ノートの後半では、CP法のヴァリエーションの幾つかを紹介する。その際、本ノート独自の試みとして、CP法計算上の閾値に非対称性を導入した結果についても報告している。

3.分析結果の主要なポイント

本ノートでは、CP法を取り上げ、日本の公表データへの適用例を紹介した。その過程で、

  • CP法を卸売物価に適用した期待インフレ系列は、インフレ率実績を均して中央を推移する。系列は自然だが、閾値デルタの推定値が2%超とやや大きく、結果の解釈に難しさが残る。
  • 消費者物価への応用では、利用する『消費動向調査』の問の構造上、CP法の修正が必要になる。しかし、修正CP法(豊田法)による期待系列は(経済学的に)意味ある結果とは言い難い。
  • 閾値δを変動させる拡張では問題は解決できない。また短期間の情報のみに依拠して変動させるδは解釈不能の大きな(またはマイナス等の小さな)値になってしまう場合がある。
  • 合理的期待形成を仮定したCP法(MLE)を用いれば、上記問題点の幾つかは回避できるが、卸売物価の場合にδが大きいこと等の問題はまだ残り、一層の改善が望まれる。
  • 閾値δに非対称性を導入したMLEでは、消費者物価についてインフレ方向に敏感になる非対称が見られる。

等の点が明らかとなった。

4.むすび

日本における期待物価上昇率計測の試みはまだ始まったばかりである。本研究ノートの結果を踏まえるならば、CP法は公表データに基づく期待系列導出の積極的取組として評価できるものの、一層の改善が不可欠な段階にある。また名目利子率と実質利子率の差分を用いる方法やインフレ連動債を活用する方法等、CP法以外のインフレ期待導出法を用いる場合にも、その特性を検証しておくことは重要だろう。

更に、期待物価上昇率の計測という意味では、強い仮定を置かずインフレ期待を直接尋ねるサーベイの設計・利用が望まれる。清水谷・堀 [2004]では、そうした計測の意義を明らかにする試みが行われている。

JEL Classification: D84、 E31

Key words: 期待物価上昇率、サーベイ・データ

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全文の構成

  1. 4ページ
    1.はじめに
  2. 4ページ
    2.カールソン・パーキン法(CP法)と卸売物価指数への応用
    1. 4ページ
      2.1 CP法の基本的考え方
    2. 6ページ
      2.2 卸売物価指数への適用:企業の期待物価上昇率
  3. 6ページ
    3.消費者物価指数への応用可能性
    1. 7ページ
      3.1 修正CP法(ステップ1
    2. 7ページ
      3.2 修正CP法(ステップ2
    3. 9ページ
      3.3 消費者物価指数への適用:個人の期待物価上昇率
  4. 9ページ
    4. CP法のヴァリエーションと有効性
    1. 10ページ
      4.1 δの変動を認める方法
    2. 11ページ
      4.2 合理的期待形成に基づく方法
    3. 13ページ
      4.3 閾値に非対称性を導入した方法
  5. 13ページ
    5. まとめ
  6. 参考文献
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)