ESRI Discussion Paper Series No.93
介護サービス市場の実証研究8
「公的介護保険導入は女性労働供給をどの程度刺激したか?
-ミクロデータによる検証-」

2004年4月
  • 清水谷 諭(一橋大学助教授 前内閣府経済社会総合研究所研修企画官)
  • 鈴木 亘(大阪大学助教授)
  • 野口 晴子(東洋英和女学院大学助教授 内閣府経済社会総合研究所客員研究員)

要旨

1.趣旨、問題設定

2000年に導入された公的介護保険制度の重要な目的の1つは、介護の社会化によって、それまで主に介護の担い手であった女性の労働供給を刺激することにあった。しかし、介護保険の導入が女性労働供給に与える影響については、日本ではほとんど実証分析がなされてきたとは言いがたく、公的介護保険制度の重要な政策評価がなされないままとなっている。

本論文は内閣府が独自に実施した要介護者を抱える世帯への介護サービス利用調査及び日本経済研究センターが収集した高齢の慢性疾患患者を抱える世帯への調査の2つを活用し、介護保険が女性労働供給に与えた影響を定量的に評価する。

2.手法

本論文では公的介護保険導入が女性労働供給に与えた効果を評価するため、介護保険導入によって影響を受けたtreatment groupと影響を余り受けなかった control groupの2つのサンプルを用いて、difference-in-difference推定を行う。具体的には、(1)介護保険導入によって介護サービスを利用可能になった世帯(要介護者を抱える世帯)と(2)介護保険導入前でも後でも介護サービスを利用できない世帯(高齢の慢性疾患患者を抱える世帯)について、介護保険導入前後の主な介護者(女性)及び主婦の就労の有無、週当たり労働日数、1日あたりの労働時間を比較する。

アメリカなどにおける先行研究も、家族による介護と介護者の労働供給の間の内生性が常に問題とされてきた。日本の公的介護保険制度導入はそれぞれの世帯にとっては外生的に決定される。従って、このユニークな「自然実験」を利用することによって、これまでの内生性の問題を克服することができる。

3.分析結果の主要なポイント

  • (1)公的介護保険が導入されて約1年半が経過した2001年秋時点では、要介護度が比較的低い世帯には若干女性労働供給を促進する効果がみられたものの、全体的には、女性労働供給が刺激されたという結果は得られなかった。
  • (2)一方、約2年半が経過した2002年秋時点では、明らかなプラス効果が検証された。効果の大きさは要介護度によって異なるものの、公的介護保険導入によって、就業確率は30-60%程度、週当たり労働時間は40-60%程度、1日あたりの労働時間は50-70%上昇することがわかった。

4.今後の課題

以上の結果は、介護の社会化が女性労働供給を刺激することを明確に示している。急速な高齢化と少子化の進展の中で、女性労働力の有効な活用は、将来にわたって日本経済の活力を維持する上で不可欠である。そのための1つの政策手段として議論されるのが、介護サービスの充実であり、公的介護保険の導入は大きなプラスの効果をもたらしたといえる。

今後は、この実証分析を踏まえ、介護の社会化によってもたらされた女性労働供給の増加がどの程度のマクロ的インパクトを与えるのかを検証することが重要であろう。

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全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1. Introduction
  3. 4ページ
    2. Previous Studies
  4. 5ページ
    3. Data
  5. 8ページ
    4. Empirical Specification and Estimation Results
  6. 12ページ
    5. Conclusion
  7. 13ページ
    (References)
  8. 14ページ
    Table
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