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ESRI Discussion Paper Series No.94

日本の出生率低下の要因分析:
実証研究のサーベイと政策的含意の検討

2004年4月

伊達 雄高(横浜国立大学大学院 前内閣府経済社会総合研究所若手政策研究者養成プログラム)
清水谷 諭(前内閣府経済社会総合研究所経済研修所研修企画官)

( 全文の構成 )
( 要旨 )
 
1.背景
 日本の合計特殊出生率は2002年には1.32まで落ち込み、過去最低記録を更新した。こうした日本の出生率の急激な低下は世界的にも類を見ない。急速な出生率の低下が将来的にもたらすのは、生産年齢人口と従属人口とのアンバランスであり、一人当たりの社会保障負担を増大させるほか、長期的に経済成長に対する悪影響も懸念されている。従って、これまでの日本の出生率低下の要因を分析し、その政策的インプリケーションを導くことは急務となっている。
 日本では、これまで出生率そのものを引き上げる政策自体にはコミットせず、出生率低下に歯止めをかけようとする諸政策は社会福祉政策の一部として位置づけられてきた。しかし、第2次ベビーブーム世代が30歳代に差し掛かっているにもかかわらず、最近になっても出生数の低下に歯止めがかからないことなどを受けて、本格的な政策介入への要請が高まっている。
 本論文は主として経済学的観点から、日本の出生率低下の要因を分析した実証分析をサーベイし、政策的介入によって出生率回復に貢献できる分野を検証する。
 
2.目的
 本論文では、まず、日本の出生率の長期的推移を時系列データから概観し、その趨勢を確認する。続いて、実証研究を中心に、日本の出生率低下の決定要因に関して、それぞれの要因ごとに、できるだけ多くの既存研究をサーベイする。
 具体的には、(1)女性の就業と賃金上昇による機会費用の増大、(2)子育て費用の増加、(3)成人した子供から親への所得移転の減少といった古典的な理論研究で説明された要因に加え、(4)都市部の狭い住宅事情、(5)核家族化の進行の下で、子供の面倒を見てくれる祖父母・親戚の不在、(6)日本の雇用慣行により女性の就業と育児の両立、さらに、政策的に介入が可能な分野として、(7)保育サービスの充実、(8)育児支援を目的とした企業支援、(9)児童手当制度のあり方である。
 
3.結果
 まず、日本の出生率が長期的低下傾向にあるなかで、特に70年代以後の出生率の低下は、主に未婚率の上昇によるものであり、第3子の出生数の減少、更に晩婚化・晩産化にも起因している。
 次に、出生率低下の諸要因の中で、女性の就業と賃金上昇による機会費用の増大については、数多くの実証分析が蓄積されており、ほとんどの分析で、子供をもつ機会費用の増大が出生率を押し下げる方向に作用することが明らかになっている。こうした就業と育児・出産の二者択一が出生率を押し下げていること、さらに、女性の高学歴化などを踏まえ、就業と育児・出産のトレードオフが人的資本蓄積にマイナスの効果を与えることを踏まえれば、女性の就業と育児・出産の両立を可能にする政策が不可欠である。
 また、そうした両立を可能にする政策としては、育児休業制度や再雇用制度など企業の雇用制度の充実が出生率にプラスの影響を与えることも、多くの実証分析で明らかにされている。従って、保育サービスの充実などとともに、育児・出産に対する企業のサポート体制の充実が重要である。
 
4.むすび−残された課題
 日本の出生率は国際比較しても最も低い出生率のグループに位置している。今のところ、出生率の低下の歯止めをかけ、ただちに上昇に導く劇薬があるとは考えられない。国家が強制的に出生率を直接引き上げる政策を実施するよりも、むしろ、それぞれの家計が利用しやすいような多彩な政策メニューを提示し、それが制度として存在するだけでなく、現実に利用可能にするような環境や制度の整備が不可欠であろう。それによって、子供を持ちたくても持てない家計に対する障害が取り除かれることが重要である。
 本論文のこれまでの議論に基づくと、特に、出生率低下の要因となっている婚姻率と第3子の出生確率を高めるための政策が重要となる。しかし、これまでの実証分析のサーベイの結果、婚姻率や第3子の決定要因となりうる政策変数を見つけ出した実証研究は驚くほど少ない。結婚確率については、再雇用制度が結婚確率を高めるという実証研究はあるものの、統計手法の吟味は十分とは言えず、そのメカニズムについても不明瞭である。第3子については実証研究そのものが蓄積できておらず、最新のデータを用いた分析が期待される。また、様々な少子化対策を実施した場合、その効果をマイクロデータで1つ1つ検証し、実証結果を示していく必要があろう。
 出生率を高めるための政策は効果に即効性はなく、ましてや人口構造に与える影響は限定的であるといわざるを得ない。といっても、現在の出生率は70−80年先の人口動態を規定する最も重要なファクターであり、日本の将来の経済構造を決定する最も基本的な要因である。従って、今後も日本の出生率の低下という、政策的にも学問的にも社会的にも重要なトピックに対して、実証分析が更に蓄積され、実際の政策に生かされていくことが不可欠であろう。
 


全文の構成(PDF-Format 全1file)
全文(247KB)
要旨---------------------------------------------------------- 2
1.はじめに----------------------------------------------------- 3
2.出生率などの人口関係変数の長期的趨勢とその背景------------------ 5
3.出生率決定要因に関する研究のサーベイ--------------------------- 10
  3−1. 理論研究の簡単なサーベイ--------------------------------- 10
  3−2. 日本の出生率に関する実証研究のサーベイ-------------------- 16
4.出生率引上げのための諸政策の効果------------------------------ 26
5.まとめにかえて----------------------------------------------- 32
参考文献------------------------------------------------------ 34
図表---------------------------------------------------------- 45
 
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