ESRI Discussion Paper Series No.102
銀行破たんと取引企業経営
-日本の銀行破綻事例に基づく検証-

2004年4月
  • 堀 雅博(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)

要旨

1.問題意識

情報の経済学に立脚する現代金融理論によれば、金融機関の破たんは蓄積情報の喪失を通じ取引企業経営に負の影響をもたらす。また、銀行破たんに対する資本市場の反応を実証的に分析した幾つかの先行研究(イベント・スタディ)では、そうした理論を肯定する結果が導かれている。しかし、資本市場の反応を通じたイベントの評価は、市場の合理性という、本来の検証対象(イベントが企業経営に与える影響)とは独立の仮説に依存する面があり、決定的な証拠にはなり得ない。

本研究では、金融機関の破たんが取引企業の経営に与える影響をより「直接的に」検証するため、北海道拓殖銀行の破たん事例をとりあげ、その破たん後1~3年間に及ぶ期間での取引企業の収益の変化を分析した。

2.分析手法

本研究では、東京商工リサーチの編集による『北海道信用録』に掲載された北海道内の企業(約20,000社)をベースに、標本を、1996年時点における北海道拓殖銀行との取引関係の強さに基づいて、(1)拓銀をメイン・バンクとした企業、(2)拓銀と取引のあった企業、(3)拓銀とは取引の無かった企業、の3グループに分類し、拓銀破たん後の収益性の動向をグループ間で比較した。

比較に当たっては、拓銀破たんが企業倒産を引き起こすことによって生じているかもしれない標本の偏りに配慮するため、サンプル・セレクション・モデルを推定した。また、推定モデルでは、各グループに属する企業の格付け、過去における収益性、規模、産業等をコントロールしている。更に、分析の後半では、銀行破たんの影響が取引企業の市場での評価や銀行の破たん処理の形態等により異なりうるかどうかを検証した。

3.分析結果の主要なポイント

サンプル・セレクション・モデルの推定結果からは、

  • 拓銀との取引関係に基づいて分類した3つのグループの間を比べても、拓銀破たん後の収益動向(破たん後1年、及び3年)には顕著な差は見出せなかった。
  • そうした結果は、銀行破たんが企業倒産を引き起こした可能性に配慮した上でも同様に確認できる。また、企業倒産に注目しても、拓銀と取引関係を有した企業に倒産が集中したという事実は見出せない。
  • 銀行破たんが取引企業の経営に有意な影響を与えなかった、という上記の結果は、拓銀取引企業の特性や拓銀破たんの処理形態に依存する面があった。具体的には、
    • 拓銀取引企業には優良企業が多く、そうした企業は比較的難なく拓銀破たんを乗り切った。一方、拓銀破たん以前から市場での評価(格付け)が低かった企業では、拓銀破たん後に金融面で困難を生じたと考えられる。
    • 北洋銀行への営業譲渡という、拓銀破綻における処理形態も取引企業への影響に大きく作用しており、北洋に引き継がれた企業では影響は小さかったのに対し、引継ぎを拒絶された企業の収益性は、その後の時期に大幅に低下している。

等の点が明らかとなった。

4.むすび

本研究の結果は、金融機関破たんの取引企業への影響を資本市場の反応に基づいて分析した先行研究が、銀行破たんの影響を過大評価していた可能性を示唆している。銀行破たんが懸念される悪影響を実際に有するかどうかとは別に、懸念の存在そのものによっても、資本市場の反応は観察される。

資本市場の反応の分析では標本から漏れてしまう中小未公開企業を含む大標本を用いた本稿の分析に基づけば、銀行破たんが取引企業に与えた影響は(北海道拓殖銀行破たんの事例に関する限り)限定的であった。

しかし、こうした結果は、拓銀取引企業の特性や拓銀破たん処理の形態にも相当程度依存していたと考えられる。懸念される金融機関破たんの取引企業への悪影響は、当該金融機関の顧客層まで考慮に入れた「適切な」処理を行うことにより、相当程度緩和できるものと考えられる。

JEL Classification: G21、 G14

Key words: 銀行取引関係、銀行破たん、私的情報、イベント・スタディ

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全文の構成

  1. 2ページ
    Abstract
  2. 3ページ
    Introduction
  3. 4ページ
    1. Hokkaido Takushoku Bank (HTB) Failure
  4. 5ページ
    2. Data and Methodology
    1. 5ページ
      2.1 Data
    2. 6ページ
      2.2 Methodology
  5. 7ページ
    3. Results
    1. 7ページ
      3.1 Basic Results
    2. 8ページ
      3.2 Further Exploration
  6. 9ページ
    4. Concluding Remarks
  7. 10ページ
    Acknowledgements
  8. 10ページ
    References
  9. Table
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