ESRI Discussion Paper Series No.105
護送船団方式の終焉・ペイオフ解禁と預金シフト
-信金・信組での預金者規律の検証-

2004年5月
  • 村田 啓子(内閣府経済社会総合研究所企画官)
  • 堀 雅博(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)

要旨

1.問題意識

90年代は、日本の金融行政スタイルが、政府による規律(いわゆる護送船団方式)から、市場による規律へと大きく転換した時期である。この新方式が有効に機能するための鍵の一つに預金者による市場規律(market discipline)の有効性がある。預金者が金融機関の健全性を的確に評価し、金融機関の選別を行っていれば、経営に難のある金融機関からは預金の引上げが生じることになり、そうした預金者行動は金融機関が経営健全化に努めるインセンティブになる。すなわち、行政スタイル転換の鍵は預金者の規律づけによる政府監督・規制の一部代替・補完にある。

本研究では、日本の銀行における預金者行動の先行研究を踏まえつつ、ここまで試みられていなかった中小・地域金融機関(信金・信組)における預金者行動(金融機関選別行動の有無やその制度変更との関係)を分析し、規律メカニズムの実効性を検証した。

2.分析手法

本研究では、金融図書コンサルタント社発行の『全国信用金庫財務諸表』及び『全国信用組合財務諸表』に掲載の信金・信組の財務諸表(合計689機関、92年~2003年)に基づきパネル・データを構築し、金融機関別預金残高変化率等を個別金融機関の特性要因(特に個別機関の健全性、破綻リスクと関連しそうなもの)に回帰する分析を試みた。推計は、目的に応じ、クロスセクションデータによる各年の推計、パネルデータを用いた固定効果モデルによる推計、プールデータによる推計等を試みている。

金融機関の特性要因(財務体質)を示す変数としては、資本―資産比率(資産リスク要因)、不動産関連貸出比率(貸出リスク要因)、流動性資産比率(流動性リスク要因)、ROA(総資産利益率、収益要因)、資産規模("too-big-to-fail"要因の代理変数)を用いた。

3.分析結果の主要なポイント

分析の結果、

  • 1)財務体質の健全性が相対的に低い信金・信組からは預金が流出する(健全な金融機関に預金が集中する)傾向があり、その傾向は金融機関破綻が一般化した90年代半ば以降強まっていること(Table 5,6)、
  • 2)2002年4月の定期預金のペイオフ解禁に先立ち生じた定期預金から普通預金へのシフトは、財務体質が相対的に脆弱な信金・信組により集中してみられたこと(Table 8)、
  • 3)2002年における、要求払い預金を含むペイオフ全面解禁の期限延長(2003年4月→2005年4月)に際し、預金者による市場規律行動が弱まった可能性があること(Table 9)、

等が示された。

4.むすび

以上の結果から、預金者による市場規律は、小口預金者主体の信金・信組でも十分機能しており、その効果は制度スキームの設計如何で十分高めうる性質のものであることが示されたと考える。また、信金・信組の預金者は、その多くが預金保険保護対象となる小口預金者であることを考慮すると、預金者は、預金が全額保護された条件のもとでも、金融機関が破綻することにより生じる何らかの負担(全額保護されていても、実際に自分の預金を引き出せるまでに多少時間がかかる可能性等)を踏まえて行動している可能性がある。

Key words: ガバナンス、市場規律、預金保険、中小地域金融機関

JEL Classification: G21,G32

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全文の構成

  1. Abstract
  2. 1ページ
    1. Introduction
  3. 3ページ
    2. Financial Regulatory Frameworks and Deposit Insurance in Japan
    1. 3ページ
      2.1 Collapse of the Traditional “Convoy System”
    2. 3ページ
      2.2 Market Discipline by Depositors
    3. 4ページ
      2.3 Development of a Deposit Insurance System
  4. 4ページ
    3. Data and Methodology
    1. 5ページ
      3.1 Data
    2. 5ページ
      3.2 Variables and Regression Model
  5. 6ページ
    4. Empirical Results
    1. 6ページ
      4.1 The Effect of Bank Risk Characteristics on Deposit Growth
      1. 7ページ
        4.1.1 Cross-section Regressions for Each Year
      2. 8ページ
        4.1.2 Panel Regressions
    2. 9ページ
      4.2 Deposit Insurance and Market Discipline
      1. 10ページ
        4.2.1 The Effect of the Partial Lift of the Freeze on the Payoff System
      2. 11ページ
        4.2.2 The Effect of the Postponement of the Payoff Reintroduction
  6. 11ページ
    5. Conclusion
  7. 13ページ
    References
  8. Table, Figure
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